第18話 開店初日

「いよいよだな」


 そう言って汐姉は俺達の顔を見回す。深恋・キラ・皇の3人はそれぞれのメイド服を身にまとっている。


 「制服なのにバラバラでいいのか」と今さらだけど汐姉に聞いたら、「一番似合っているものを着たほうがいいに決まっている」と即答された。


 確かに深恋の大きなリボンがついたブラウンメイド服も、キラのクラシカルなロングメイド服も、皇の水色・黄色・ピンクのパステルカラーのミニスカメイド服も、これ以上ないくらい似合っている。汐姉の言う通り、誰か一人に合わせるのはもったいないと思った。


 俺はというと、用意された白シャツと黒のベスト、黒の腰エプロンに着替えさせられていた。メイドのサポートでフロアに出ることもあるだろうから、身だしなみはきちんとしろという事らしい。


「き、きんちょうしましゅ……」

「大丈夫。昨日までたくさん練習したんだから」

「そうよ。もし困ったとしても、この超絶可愛い私がいるんだから問題ないわ」

「キラさん、茉由さん……ありがとうございます!」

 

 3人はこの2日間で大分仲良くなったようだ。


 俺は近くのテーブルに置いてあったメニュー表を手に取った。メイドカフェ「プレジィール」。ほんの数日前までただの純喫茶みたいだったけど、白く塗り直した壁やピンク色のテーブルクロス、そして一際目を引く3人のメイドの存在によって様変わりした。

 外観は木製の扉だけを白く塗り直した。味のあるレンガの壁は残したいという汐姉の意向だ。


 本当に店が今日から始まるんだ。昨日まであんなに開店準備で働いていたのに不思議な心地だ。


「さあ、開店の時間だ。最初のお客は全員でお迎えしよう」


 汐姉の言葉で扉の前に移動する。さて、今日はどれだけ忙しくなるんだか。お金のためなら仕方ないことだ。


「開けるわよ」

 そう言って皇が扉を開ける。

「お帰りなさいませ♡ ご主人さ、ま……」


「え……」

 深恋が困ったような声を漏らす。


 それもそうだ。扉を開けたその先には……誰1人として立っていなかった。


「誰も、いない……」

 キラが言う。

「あんなに……あんなにみんなで頑張って準備してきたのに……」

 キラと深恋の肩に、皇がポンと手を乗せた。

「まあ初日なんてこんなもんよ。大丈夫、じきに来てくれるわ」

 そう言いながらも、皇の顔はショックの色が滲んでいた。


 クソ……ッ


 俺は駆け足で奥の部屋へ戻って、昨日配っていたビラの余りを手に取った。そして店の外へ向かう。


「ちょっと、どこ行くのよ!?」

 店を出る直前、皇が俺の背中に声をかけてきた。後ろを振り返ると不安そうな3人が目に入る。


「雑用の俺がいなくたって店は平気だろ? お前らは準備でもしてろ」


 それだけ言って扉を閉めた。




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