第15話 本音と女子会 前編
昨日、俺とXの祖母は面識があった、というなんとも信じがたい事実が発覚した。
まあそんな偶然もあるか、なんて俺は少しだけ納得し始めた。
今思い返せば、日記の返信がないと焦ってXの家へ行って、インターホンを鳴らしたときに聞こえたあの声も、なんとなく例のおばあちゃんの声だったような気がしなくもない。
あのときの俺は全く気が付かなかった。
インターホン越しに聞けばさらにおばあちゃんの声には聞こえなかったからだ。
俺は今、Xのおばあちゃんと会ったあの日の出来事を日記に書いているところだ。
今回は割とたくさん書けたな。今までで一番多いだろうか。
俺は日記を閉じて表紙を見たのち、あることに気がついた。
この日記には題名がない。
元々Xはこれを社会の板書ノートとして使っていたようだったが、しかし表紙には「社会」の文字もない。
あるのはテープで補強された亀裂と、黄色いシワだけ。
俺はペン立てから油性マーカーを取り出して、亀裂の部分に若干重なるように、「日記」と今更ながら題名を書いてあげた。
数日経った日のことだ。
俺はその日、男友達三人ほどを家に誘って、みんなでゲームをする予定を立てていたのだが、当日になって俺の家に来たのはなんと三人だけではなかった。
ある一人の少女が付け加わっていたのだ。
彼女はXでも姉でもない、同じクラスの女子。
少女は玄関で立ち尽くす俺に、弱々しく話しかけた。
「久しぶり。みんなが楽しそうだったから、つい来ちゃった」
俺が男友達に鋭い視線を送ると、三人は苦笑いして目を逸らす。
その少女、深い意味はないが、仮にYとしよう。
実は俺は、少し前にYと喧嘩(細かく言うなら喧嘩とは少し違うかもしれない)をしたことがあった。それっきり一度も話をしていない俺とYは、つまり今ちょっと気まずい関係にあるのだ。
まあ、その話はまたいつかするとして。
とりあえず今日の俺は、面倒ごとには関わりたくなかった。
ただ楽しくゲームをしたかったのだ。
* * *
私は今、すごく楽しみにしていることがある。
なんと今日、私はXちゃんと一週間ちょっとぶりに会う約束をしているのだ。
一週間といえばそこまで長くないのかもしれないけど、それまで毎日のように勉強会とか女子会をしていた、ほぼ親友のようなXちゃんと一週間も会えないのは、私にとってはすごく寂しいことだった。
弟にも一応、「Xちゃんと三人でゲームしようよ」と言って誘っておいたんだけど、なんとも今日弟はすでに友達と遊ぶ約束をしてしまっているらしい。
しかも私たちの家で。
せっかくXちゃんと、弟も交えて三人でゲームができると思っていたのに、それができなくなってしまった。
結局、私はXちゃんの家で二人で勉強会をすることにした。
私はXちゃんの家に行くのは初めてだった。
以前何度かXちゃんの家で遊ぶことを提案したことはあったけど、Xちゃんは自分の家よりもおばあちゃんの家にいることのほうが多いらしく、良い機会がないということで毎回断られていた。
しかし、今日は違った。
今日、弟が私の家を大人数で使うので私の家では遊べないということが発覚したとき、Xちゃんは自ら、「今日は私の家で遊ぼうよ」なんて提案をしてきたんだ。
こんなチャンスもうないかもしれないと思った私は、即座にその提案を快諾した。
Xちゃんの家にゲーム機はないらしいので、結局勉強をするということになった。
Xちゃんの家に着くと、私は言葉を失った。
その大きさを見て、すっかり畏縮してしまったのだ。
この家は、少なくとも私が今までの人生で見た中では、一番の豪邸だ。
こんなまるでお嬢様が住んでいるような門のある家は見たことがなかった。
お上品なXちゃんのことだから、もちろん私の家とは比べ物にならないくらいの綺麗な洋風な家に住んでいるのだろうという想像は、もちろんしていた。
しかし、その想像の壁はすぐに飛び越えられる。
綺麗どころじゃない。もはや小さな宮殿とも言える。
私にとっては、その全てが眩しすぎた。
私はXちゃんに案内されて少し家の中を探索したあと、庭のバルコニーのようなところで、二人勉強を始めることにした。
私はひどく緊張して、固くなったまま庭の椅子に腰掛ける。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。もう、かわいいなあ」
Xちゃんは私を安心させたい様子で、そんなことを言った。
そういえば、Xちゃんはことある毎に私に「かわいい」なんて言ってくるけど、私からしたらXちゃんの方が百倍以上かわいい。
しかもXちゃんはその上真面目で優しいし。
私にとってはまるで天使そのものだった。
「弟くんの方はもっと冷静だったんだけどなあ?」
Xちゃんは片目だけを開いて、目線だけでちらっとこちらを見る。
すぐにXちゃんは冗談だよ、と言わんばかりに顔をこちらに向き直して、いたずらな表情をした。
というか、弟? 三人でXちゃん家で遊んだことなんてあったっけ?
「あいつXちゃん家に来たことあるの?」
もちろん弟からそんな話は聞いていなかったからね。
単純に少し気になったんだ。
私の言葉を聞くと同時に、Xちゃんはハッとして無言で目を逸らした。
私が目を合わせようとXちゃんをじっと見つめると、Xちゃんは困った顔で目を泳がせる。
前々からずっと思ってることだけど、Xちゃんはとっても分かりやすい。
嬉しいときは幸せそうな顔で笑うし、悲しいときはあからさまに暗い顔になる。
恥ずかしいときはすぐ顔から耳まで赤く染める。
おそらく嘘がつけないんだ。
そんなXちゃんの行動を、私はどこか弟と似ていると思ってしまった。
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