第13話 日常 病院の天使様編
ゲームパーティも終わり、Xは家に帰った。
今日はXが日記を持ってくる日なので、俺はまず自分の部屋へと向かった。
そして机の上を見る。
しかし、そこに日記は無かった。
次に俺は勝手口の秘密のポストへと向かう。
秘密のポストを確認すると、中には使い古されたような日記が入っていた。
俺も慣れてきたもんだなあ。
八月四日の日記は普通だった。
Xの母か姉かの話では、Xは終日外出していたと聞いていたが、日記では一日中家でテレビを見ていたと書かれていた。
当時の俺はその矛盾に気が付かなかった。
気づいても特に気にしなかっただろうが。
* * *
次の日は朝早くから起きた。
昨日のパーティのことを交換日記ともう一つ個人的な日記の方にも書き綴ったあと、俺は交換日記を持って家を出て公園へと向かった。
今日は友達と数人で集まってゲームをするのだ。
最近のゲームはインターネット上でもやり取りはできるのだが、やっぱり集まってやるほうが楽しい。
顔を見ないと本当の気持ちは伝わらないからね。
俺の家の周りは本当に田んぼしかない。
俺の家からXの家がある一帯まで徒歩で約十分。
そのあたりから道には徐々に車も人も増え始める。
しかしコンビニがあるほどではない。
俺はXの家に立ち寄って、門の横のポストに日記を入れてすぐにその場を立ち去った。
早くゲームをしたいからな。
Xの家からまた約二十分ほど歩くと、コンビニだとか、公園だとか、病院だとかそういう公共施設が見え始める。
俺は公園への近道である、若干病院の敷地内へ入るルートを通って行った。
すると、病院の駐車場のようなところを横切るときに、何やら可愛らしい生物が眠そうな目をして横になっていることに気がついた。
あれは、猫だ。
猫とは、ただ生きているだけで人間を癒してくれる、いわば人間界に降り立った天使の化身だ。
俺はそんな神々しい猫様にそろーっと近づく。
猫様は特に動じることはなく、ただ盗人のような動きをする不審な俺をじっと目で追っていた。
猫様は黄土色のふわふわとした毛に、ちょくちょく白の混じった見た目をしていた。
目は鋭い。
近づいてみると分かったが、顔の下に赤い首輪と鈴のようなものを吊り下げていた。
おそらく昔は誰かの飼い猫だったのだろう。
猫だって知らないでかい生き物と一生狭い部屋で暮らすなんてごめんだよな。
俺は猫派だし、まだ大きくもないから君の味方だぞ。君は自由が欲しかったんだよな。
分かるぞ、猫様。
俺はそっと手のひら全体を使って、頭の上から胴体まで毛並みに沿って撫でた。
猫様は嫌がる素振りは見せなかった。
好印象ということだろう。
俺は自然とニヤニヤとしてしまう。
俺はふと我に返った。
すごく遠くからなんとなく視線を感じたので、ちょいと頭をあげてみる。
病院のとある病室から誰かがこちらを眺めているようだった。
俺はすごく恥ずかしくなって、猫様に構わずそのまま駐車場を突っ切って公園へと急いだ。
見てるなら言えよ!
俺は無事に公園に着き、その後は友達と気が済むまでゲームをした。
小学生からしたら公園に友達と集まってするゲームが一番楽しいのだ。
しかし友達の中で俺だけこの公園から家まで遠いので、一人だけ早めに帰ることになった。
名残惜しいが、門限は守るべきだろう。
俺は日が落ちないうちに公園を後にした。
帰りもショートカットコースを通って行った。
かつての天使様はもう既に姿を消しているようだったが、今朝いた場所に近づいて一応確認してみる。
車の下には、いないか。
やはりどこかに帰ってしまったのかな。
首輪もついてたし、もしかしたら朝昼は放し飼いして夜には勝手に家に帰ってくる忠義な猫ちゃんだったのかも知れない。
車の下を覗いて悲しそうな顔をする少年を、またとある病室から誰かが静かに見守っていた。
夕方の少年は彼女には気がつかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます