第2章 親睦の夏休み編
第9話 誕生日とクローバー
俺は長らくこの日を楽しみにしていた。
そう、今日は夏休み初日なのだ!
しかしただそれだけの理由でここまで楽しみにする必要はない。
実は俺、今日誕生日なんです。
俺は朝爽やかな目覚めだった。
最近外は異様に蒸し暑すぎて、外出するのが億劫になるほどだった。
しかし家にはエアコンという万能マシーンがある。朝はやはり涼しいほうが良いのだ。
階段を降りてダイニングへ行く。
姉がひと足先に朝ごはんを食べて始めていたので、俺もその横に座って朝ごはんを食べる。
「誕生日おめでとう。今日から九歳だね」
姉があまりにも突然話かけてきたので俺は少し驚いてしまった。姉にお祝いの気持ちがあったことに気づいた俺は、無言の笑顔で姉を見つめる。
誕生日って確か言葉の贈り物だけじゃなかったはずだ。
わくわく。どきどき。姉に期待する。
「誕生日プレゼントは今日の夜あげるから。あまり期待しすぎないで欲しいけど、楽しみにしてて」
はい。楽しみにしておきます。
そういえば、昨日Xが俺の家に来たとき、また俺の部屋の机の上に例のノートが置いてあった。
いつ置いたんだろうか。
Xが席を離れた瞬間を俺は見てない。
この現象にも慣れては来たが、まだ少し不可解な点が多いな。
俺がノートを開こうとしたとき、表紙に貼り付けられた付箋に伝言が書いてあるのが見えた。
『夏休みに入るまでは開けてはいけません』
その伝言のとおり、俺はノート開こうとしていた手を止めて、また机の上に置き直した。
俺は約束は守る男なのだ。
朝ごはんを食べながら、俺はそんな出来事を思い出していた。
今日は正真正銘の夏休み初日。
ならば今日はノートを開いても良いだろう。
記念すべき夏休み初日の交換日記は、俺に書かせたかったのだろうか。
Xの粋な計らいなのだろうか。
俺は米粒の一つすら残さず食べたのち、足早に階段を駆け上がり自室に籠る。
家族の誕生日プレゼントは夜に貰えるらしいので、それまでは特にすることもなく暇であった。
なので、俺は夏休み初日かつ誕生日の交換日記をとても詳しく書くことにしたのだった。
俺はノートを開いた。まず十五ページめくった。
しかし右のページに追記はない。
そして俺はまた一ページめくる。
その左のページに、何やら文字が書かれていた。
『8月1日火曜日
まずはたん生日おめでとう! お姉ちゃんに君のたん生日を聞いてたから、実は知ってたんだよね。
本当は家に行って三人でパーティとかしたかったんだけど、当日はどうしても行けない理由があって行けないんだ。ほんとにごめんね。
だから、代わりに気持ちのこめたたん生日プレゼントをおくります。
押し花、っていうんだけど、自作したんだよ。
ゲームが好きな君はあんまり使わないかもしれないけど、がんばってつくったから、ぜひ受け取ってほしいな。』
そんな文章の下に、さらに一文と押し花のしおりがノートに挟まっていた。
俺はそのしおりを手に取って凝視する。
しおりにはクローバーと、どこかで見たことあるような青い花がラミネートされていた。
確かに俺は全く読書はしないが、それでもとても嬉しいことには変わりなかった。
人からプレゼントを貰って嬉しくない人なんかいるはずない。
俺はしおりを大切に抽斗に入れた。
『ちなみに私のたん生日は八月三十一日だよ。』
俺はすでにお返しのプレゼントに頭を悩ませていた。
ほとぼりが冷めた頃、俺は夏休みの宿題に日記があることを思い出して、普通の板書ノートの半分ほどの大きさの日記を買って、夏休み中毎日書き綴ることにした。
早速一ページを書く。
俺は今日誕生日であることや、夜のプレゼントを楽しみにしているという旨を、よく気持ちが伝わるように詳しく書いた。
しかし、Xのことについては書かなかった。
なんとなくXのことは交換日記だけにしか書いてはいけない気がしたからだ。
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