オーガスト日記

杞結

第1章 追憶の文月編

第1話 思い出

会いたい。ただひたすら会いたい。

だけど、もうそんな夢も叶わない。


俺は後悔した。


まだ君には時間があると思っていたんだ。

君の誕生日だって祝いたかった。


結局これが遺書になるなんて、



未だに信じられないよ。



    *    *    *



高校二年の夏休みの宿題で、

「日記」

というのが出された。


日記とは毎日その日に起きたイベントと、それに対する感想を書き記すものだ。

俺が小学生だったときも日記の宿題があったな。

当時はどんなことを日記に書いていたんだろう。


かつての俺は、なぜか日記だけにはすごく熱心だったような気はするが、

よく思い出せない。


俺は何か大事なものを忘れている気がした。




暑い暑いある夏の日。


見渡す限りの田んぼに、人気の少ない公園。

そして秘密基地の代表例、裏山といったよくある田舎の特徴を兼ね備えた、いわば田舎の王様みたいな典型的な村があった。


その村の一点に、これまたありきたりな和風の家がいかにも自信あり気に建っていた。

そんな大きな家の一部屋で、とある高校生が悩ましい顔をしながら、乱雑にまとめられたプリントとノートの山をかき分けている。


少し彼の様子を覗いてみよう。



「おっ、これは」

俺は小学生ぶりの懐かしいノートを見つけた。

これはただのノートではない。日記だ。


俺がまだ小学生だったころ。

当時の俺は、夏休みの宿題を毎日コツコツとやっていた。

小学生のときにも日記の宿題はあって、俺は毎夜忘れずに書いていた。

まだ拙い文章で、でもできるだけ内容が、気持ちが伝わるように。


少しぱらぱらとページをめくって読んでみた。

中身はいかにも小学生が書いた、というような少し雑っぽく感じる仕上がりであった。

しかし同時に懸命さも伝わる作品で、薄れかけたかつての記憶を彷彿とさせる記述には、当時の心情とともに今の俺を少し涙ぐませた。


この際読み直してみるか、なんて思いながらふと先ほどのプリントの山に目を向けると、また同じような日記が、もう一冊、孤独に寝ていた。


“オーガスト日記”


それを見ると、俺は体全身で何か強い感覚を受ける。

「オーガスト」

そう書かれたこの日記は、おそらく当時の八月に書いていた日記なのだろう。

小学生はすぐに英語を使ってかっこつけたがるから、こういうのを見ると微笑ましくなる。

まあ自分が書いたものだろうからそうでもないが。


よく見てみると、この日記は一つ目の日記と違う点が少しずつあった。

大きく違うのは、その綺麗さだ。

一つ目の日記はまあ綺麗にされているようだったが、こちらは明らかに汚れていた。

汚れている、というよりかは使い古したに近く、表紙にも亀裂が入っている。

亀裂はセロハンテープで覆われている。

また、その日記は多少のしわを折り込んでいた。


なんとなく懐かしさを感じる日記であるが、

しかし俺はまだよく思い出せない。

日記の書き方の参考にするためにも、俺は興味本位でこの日記を少し読んでみることにした。


最初はそんな軽い気持ちだった。

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