シンヤくん

HIROKI526

第1話 シンヤくん

─不思議な子だった─

─どこからともなく現れ─

─風のように消えていった─


─話は30年以上前に遡る─


幼稚園〜小学校低学年くらいまでの頃、夏休み期間の8月上旬くらいの間は、母に連れられ、祖母の家に泊まりに行くのが恒例だった。

無人駅である最寄りの駅から徒歩1時間程、農業を営む祖父の家はいわゆる「私道」を通った先にあり、付近には3件家が建っているくらいで、あとは何もない、通りまで出ないと街灯すらもなく、外は夜になると本当に暗闇だった。

なにもない代わりに自然は豊かで、すぐ近くでカブトムシを捕まえられるところがあったり、夜になると蛍がいるのを見る事ができた。星も本当にキレイに見れた。

そういう部分での祖母の家は楽しかったが、日中の祖母の家は子供ながらに退屈だった。

日中は祖父は畑仕事やビニールハウスの仕事に出ており、母もその手伝いをしていた。

祖母は家にいる事が多かったが、その時既に足腰があまり良くなく、とても外で一緒に遊べるような状態ではなかった。なので、日中は1人で外で遊んでいた。自宅から持ってきたサッカーボールで1人サッカーをしたり、付近の林道を探検したり… それだけではやる事はすぐになくなり、時間を持て余していた事が多かった。


彼と出会ったのはそんな時だった─

彼は気付いたらそこにいた─

青いTシャツにベージュの短パン、野球帽子を被った当時同い年くらいに見えた男の子だ─

彼は木陰に隠れながら、こっちを見ていた─


筆者「なにしてるの? 一緒にあそぼー」

男の子「うん、いいよー」

筆者「なまえ、なんていうのー?「

男の子「シンヤだよ」


─たしか、このようなやり取りだったと思う─

子供の頃の遊ぶきっかけなんてこんなものだ。

それから一緒に遊んでいた。次の日も。その次の日も。またその次の日も─

特に約束をしてた訳ではない。外で1人で遊んでると、気が付いたらシンヤくんが来てくれていた─


数日後、急遽予定してた日より 1日早く家に帰る事になった。

シンヤくんに「またね!」って言えなかった。

筆者はずっとそれが気がかりだった─


帰り道、母に「シンヤくん」という友達ができたこと、シンヤくんと遊んだことの話をした。母はとても不思議そうな顔をしていた。


それもそのはず─ 祖母の家の付近に民家は3件しかなく、当時その年代の子など住んではいなかったのだ。

たまたま、お盆の時期に、親族が遊びにきていた可能性もあるが─。後日、祖母により、その可能性は否定される。

祖母がその3件の家に聞いて回ってくれたのだ。

どのお宅も、そんな男の子知らないという回答だったらしい。

とすると、筆者が一緒に遊んでいた「シンヤくん」は一体どこから来たのか─

祖母の家と、付近の3件の家。計4件の家は本当に陸の孤島にあり、当時小学校1年〜2年生の子供が1人で毎日のように顔を出せるところには人は住んでいなかった─


当時不思議に思いはしたが、そこまで深く考える事なく、時間の経過と共にシンヤくんとの事は記憶の片隅に追いやられていった─


─それから月日は流れ30年後─

筆者は結婚、息子も授かり、息子が小学校1年生になった年の盆─

祖母が亡くなった─

葬儀が執り行われ、私と妻と子供は祖母の家に一泊させてもらう事になる。そして、その日、記憶の片隅に追いやられたシンヤくんの事を鮮明に思い出す事になる─


日中、多くの方が出入りする祖母の家にてバタバタしていた私と妻は、息子の動向をしっかり見れていなかった。外で走りまわっている事と、時折キャッキャと遠くから聞こえてきたので、ああ、どなたか出入りされてる親戚の方に子供がいて遊んでくれてるのかな? くらいにしか思っていなかったのだ。


─が、そうではなかった。

息子との入浴時─ 息子から発せられた言葉は私の記憶を鮮明に呼び起こす


息子「パパー、今日ねー、シンヤくんと遊んだよー いつの間にか近くにいてねー 青いT-シャツでねー 野球帽子でねー…」


私「──え──?」


驚いた─

息子から発せられるシンヤくんの特徴は、私の記憶の片隅に眠っていたシンヤくんそのものだった─


息子「明日も遊ぼうってことになったよ また、うちの外に来てくれるって!」


私「パパも行く!」


息子「え…? いいけど…」


シンヤくんだ─

息子の言うシンヤくんは、自分の知るシンヤくんだ。間違いない。

根拠はないが、そう決めつけていた。

眠っていたいろんな思いが呼び起こされる。

その日は眠れなかった─


─翌日─

私と息子は家の前で遊びつつ、シンヤくんを待った。ところが、待てども待てども、シンヤくんは現れなかった─


息子「シンヤくん、遅いなー。今日は来れなくなっちゃったのかな?」


私「うーん、そうだねぇ…」


日没まで待ったが、結局その日シンヤくんが現れる事はなかった─


息子「パパー、もう暗くなるよー お家はいろー」


私「待って…もう少し…もう少し…」



シンヤくん─ひさしぶりだね

覚えてるかな?

ずっと昔─ ここで一緒に遊んだんだ

あの時は「またね!」が言えなくてごめんね

今日出てこなかったのは、大人になった俺がいたからかな? 怖がらなくて大丈夫だよ

キミはきっと…人間じゃないんだよね

幽霊かな? 妖怪かな? もしかして座敷童ってやつかな? それとも精霊とか、神様みたいなやつかな?


─でもそんなの関係ない。

俺はキミに感謝してる。

息子とも一緒に遊んでもらってありがとね。


──俺も、できれば──

─もう一度キミに会いたい──


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シンヤくん HIROKI526 @Akai_Saiko

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