謎⑧

妹もまんざらではない顔で身を寄せている。


「じゃあ悪いけど、留守番頼む」


「別にいいけどねー。男二人でコソコソやることなんて想像つくし。あーヤラシー」


アイに同意を求めているが、不思議そうに「どういう意味ですか?」と聞くだけだ。


そういう発想に至るのは思春期だからか?


拗ねたように「舞さん、あっち行こ」とリビングに行く梅雨葉。

アイが困ったように俺をみてくるが、俺は掌を合わせ、宜しく、と軽く頭を下げると笑顔で頷いた。


---

--

-


「親父、どうだったんだよ。誰かいた?」


車に乗り込み、藍良家へと向かう道中で、一言も話さない親父に話しかける。


「いや、誰もいなかった」


「だろ?‥だったら今から何しに行くの?」


それからまた何か考えるように、親父は黙る。

何なんだよ、全く。


車で約10分くらいで藍良の家に着く。

横にハザードランプを点滅させて親父は車を降りた。


「ほら、早くしろ」


説明なくそう促してきたので、若干イライラしながら俺は親父の後に続く。


時刻は21時30分。

周りの家は殆ど明かりが付いていない。唯一ついている家は、真正面の家だけだ。


確か、ここら辺の住人は年寄りが多く、就寝時間も早いと昔、藍良に聞いた事があったな。


遊ぶ子供もいないから、よく俺の家の近くまで来ていたっけ。


親父は家の玄関の前に立ち、おもむろにドアを開けた。


「ちょ、ちょっと!」


俺が大声を出したその時、口を塞がれる。


「静かにしろ」


小声でそう言って、親父は中へ入って行った。


「おい、親父、何してんだよ」


俺が小声で聞くも返事が無く、家の中へと入っていくので、俺は「あー、もう!」と心の中で毒づきながら家の中へ入った。


「これって、完全な不法侵入だろ」


親父は勝手に家の電気をつける。


「お、おい!」


思わず肩を掴む。

親父はニヤッと悪戯をする子供のように「な、電気は止まってないみたいだ」と俺に言った。


「当たり前だろ、住んでるんだから」


「当たり前ねぇ」


親父は意味深にそう呟き、先へ進む。

俺は靴を脱ぎ、ごめんなさい、と呟いてから家の中へと入って行った。


「親父、通報されたらどうするつもり、だ」


早く帰ろう、そう言いかけた俺の言葉はそこで止まった。


何だ、ここ。


「どうだ?これって、妙だろ」


確か、この家は藍良が幼い頃から生活している家だ。

一度も上がったことは無いが、それは間違いない。


よく、ミコばあの家に行くとは言っていたが、間違いなく、この家は昔からここにあって、藍良はここに住んでいた。


俺と藍良は4歳の頃からの仲。つまり、少なくとも14年の年月。


なのに、なんだ、この、


「4LDK、築年数、15年から20年ってところかね」


親父がコンコンと家の壁を叩いて、仕事柄思ったことを口にする。


まるでモデルハウスのように綺麗な空間。


壁や床、全てが白。


円形のガラステーブルが中心に置かれてあり、そこに三つの椅子がある。


そして、三人がけの白のソファが一つ置いてあるだけ。



テレビも、時計も、壁掛ける物も何も無い。


キッチンにも何も無い。

親父が遠慮なく色々な戸棚を開けるが、そこにあるのは僅かな食器とコップや箸。全て、三つずつ。


「冷蔵庫も寂しいもんだ」


冷蔵庫を開けると、そこに入っていたのは水が入ったペットボトルが三本と少しの調味料。


「この清潔さ、我が家も見習うべきかねぇ」


親父が冗談しかめて言うが、俺はその軽口に返すことが出来なかった。


ここに、人が、藍良が住んでいたという現実にまだ直視できない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る