【第2巻発売中!】祝・聖女になれませんでした。~このままステルスしたいのですが、悪役顔と精霊に愛され体質のせいでやっぱり色々起こります~
野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中
【第一巻発売記念、Web限定SS】
番外編:休息日の『独り占め』(アディーテ × シルヴェスト × ブリザ × セリオズ)
前編
本編は、書籍版の見開きカラーのイラストを元に制作した、Web限定公開SS(ショートストーリー)です。
イラストを閲覧したい方は、以下に覗きに来てください。
https://kakuyomu.jp/users/yasaibatake/news/16817330665684975404
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まさかこんなにも美しい場所が、王城内にあったなんて。
辺りを見て、思わず感嘆のため息が口から漏れてしまう。
青々とした緑に遠くに見える山、陽光に淡く煌めく澄んだ湖。
空気も何だか爽やかで、周りを飛び交う精霊たちも皆、どこか生き生きとしている。
「セリオズ様には、本当に感謝ね」
私の小さな呟きは、誰に向けたものでもない。
少し向こうで楽しげに宙を飛んだり湖面をしげしげと覗き込んだりしている風のにも、おそらく聞こえなかったのだろう。
しかしそれでいい。楽しそうだし。そう思い、私はフッと笑みをこぼした。
◆◆◆
セリオズ様にこの場所を教えてもらったのは、つい先日の事。
王城に軟禁されてから少し経ち、魔法師団に入ったお陰で最近は、少なからず城内での行動に自由が得られ始めた。
持ち前の企み顔・悪役顔のお陰で周りから受ける注目は、どうやらある意味周りへの宣伝にもなっているようだ。
今や王城内で、私が師団に入った事を知らない人というのも少なく、城内を出歩いていても「まぁ師団の用事なら、仕方がない」と思われ寛容される事が増えたような気がする。
今思えば、おそらく彼の事だから、そんな時期を見計らって話してくれたのだろう。魔法師団長――セリオズ様が、こっそりと私に耳打ちしてくれたのだ。
「実はこの王城内に、静かな湖畔があるのです」
「え?」
驚いた。
王城内に、まさかそんな場所があるとは。少なくとも今まで、一度も聞いた事はないけど。
思わず目をパチクリとさせながら彼を見上げると、どうやら私の驚き具合に少し気をよくしたらしい。
「師団の訓練も頑張っていますし、休息日に一日部屋に籠りっぱなしというのも、やはりストレスが溜まるでしょう? いかがです? ちょっとした息抜きに行ってみては」
「でも……」
これでも一応軟禁されている身なのだ。
嬉しい提案ではあるけども、あまり自由に立ち居振る舞いすぎて、今の自由まで失いたくはない。
「実はかなりの穴場なのです。魔法師団が管理している薬草採取用の森林区画の一角で、先代の頃に自然にできたものだと聞いています。師団以外の人はもちろんその存在自体知りませんし、師団の人間もあの辺りには特に誰も用事がないので」
彼は唇に人差し指を当てて、内緒話よろしくそう囁く。
おそらく「人は来ない」と言いたいのだろう。
たしかに休日くらい伸び伸びとしたい気持ちは大いにある。
これまでは外に出たところで、企み顔のせいで周りからの注目を浴び、警戒されて、常に気が休まらなかったから、人目がない場所というのはかなり魅力的だった。
「目的地は師団管轄の土地ですから、万が一誰かに外出を咎められたら『俺に頼まれた』と言えばいい」
相変わらずこの方は、人の心を読むのがうまい。
いつもこうして私の心を先回りして、断る理由を取り除く。
「だから言っているでしょう? 貴女は貴女が思っているよりずっと、感情が表情に出ているのですよ」
仄かな揶揄いを覗かせながら、彼はそう言い、最後にもう一度。
「いつ行っても問題ありません。何かあれば、すぐ俺の名を出してください。それですべては解決です」
柔らかな物腰で、ニコリと微笑んだのだった。
◆◆◆
セリオズ様が抱いていた懸念は、幸いなことに杞憂だった。
周りからはいつものように遠巻きに見られてはいたものの、実際にここに来るまで特に止められる事もなく、無事に辿り着く事ができた。
「静かだし、外で誰の目も気にせずに過ごせるってとても幸せ」
《アディーテが幸せなら、僕も幸せだよ?》
いつの間にか湖畔をひとしきり堪能し終えたらしいシルヴェストが、ピョーンと膝に乗ってくる。
彼の声はいつもの如く、脳に直接響くような、精霊特有の意思疎通の方法で私の所にまで届いた。
しかしそんなやり取りも、幼い頃から続けている事。
特に違和感もなく私は受け入れる。
「楽しかった? シルヴェスト」
《うん! なんかここ、居心地いい》
「そうなの?」
《うん。ほら見てよ、ブリザなんて》
彼の指す方に目を向けてみると、コロンとしたフォルムのシロクマの姿があった。
《いいねぇ、ここ好き! ここに氷育てよー!》
氷の上級精霊である彼女にとって「ここで氷を育てたい」という欲求は、最上級の称賛に近い。
いそいそと準備を始めた彼女を見るに、かなりこの場所を気に入ったらしい。
「楽しそうで何よりだわ」
《あ、もちろん僕の一番はアディーテの側だけどね?》
「ふふふっ、ありがとう」
言いながら、膝の上に寝そべった彼の背中を優しく撫でる。
モフモフとした彼の白い毛に手が沈み込み、彼の温かさが手のひら越しに伝わってきた。
気持ちがいい。
そう思ったのは私の方だけではないようで、撫でられている彼の方も体の力が一層抜けていき、目も段々と細くなっていく。
涼しい風がサァーッと髪を梳いていき、近くの木々が葉を揺らす。
ついに閉じたシルヴェストの瞳を見て、私もゆっくりと目を閉じた。
サワサワと優しく鳴る音が、耳にとても心地いい。
こんな場所、きっと王城内では他にない。
そう思った時だった。
「来ていたのですね、アディーテ」
落ち着いた男性の声が私を呼んだ。
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