獣の王

小松加籟

第1話 少女

 フィリップは、案の外、小奇麗な奴隷の、少女を、見下ろしていました。王立図書館に面する中央広場の街路樹が林立する小さな森みたいな広場で、奴隷商は、野卑な微笑みをフィリップに浮べていました。

 「女、顔を上げろ」

 と、ぽつりと言った。

 アウロラ・ダイアモンドは、俯伏した相貌を、徐ろに、上げました。強靭な光を宿した一種異常とも云える眼差しが、フィリップを見凝めました。

 「気に入った。この女、幾らだ?」

 子供たちが、無邪気に遊んでいます。

 掌を出せと云ったら、従順に従った奴隷商に、金銭を手渡し乍ら、

 「おまえの生殺与奪権はこのおれに在る。おまえには知的労働をして貰うことになる」

 奴隷の少女たちから羨望の眼差しで見凝められるのを、アウロラは冷笑を禁じ得ませんでした。

 雨が熄んだ。雨後の美しい曙光がアウロラの明るく賢そうな面構えに陰翳を生じさせていました。機嫌が斜めなのを露わに、

 「場所を換えよう……」と、フィリップは徐かにいいました。


 食堂の一隅で、アウロラは黒糖パンを齧り附き、葡萄汁で黒糖パンを流し込みました。

 ゆったりとした頭巾風のかぶりものを……フィリップは外しつつ、

 「実は、策が在る。屍体も涙するような」

 整った鼻梁が露わに、アウロラは見凝め、

 「それは、一体、何でしょうか」








 


 

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獣の王 小松加籟 @tanpopo79

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