第27話 企画開発課へようこそ! (前編)


「何でこんなところにいるんだよ⁉︎」

「お前が弁当忘れたからだろーが」


 そう話すちゅうじんの手には弁当箱の包みが。多田はそれを見て、あー、やっちまったと声を漏らす。その一方で、この部屋は異様な雰囲気に包まれていた。それもそのはずで、夜宵と下条以外の人は二人の関係を知らない。そしてこの場にいる全員がこう思った。『え、誰?』と。


「あー、簡単に言うと、こいつは俺の家に居候してる友人だ」

「ど、どうも、多田の友人のうーたんです!」


 気まずい雰囲気になりつつある中で、多田はちゅうじんとの関係を話す。すると、それに合わせてちゅうじんが自己紹介をした。その後、室内に沈黙が流れる。が、それはすぐに破られることとなった。


「え、居候って、まるで某探偵漫画の主人公じゃないですか!」

「いや、食いつくところそこ⁉︎」


 居候という単語に即座に食いついたのは、日本人離れした顔立ちの女性で、名前は谷山たにやまジュリア。彼女は名前の通りのハーフで、日本人の母とドイツ人の父を持つ。彼女は日本のアニメが大好きなオタクの一面を持っているので、居候といえば、某探偵漫画を思い出すのも当然だろう。


「え、あの多田に友達なんていたの?」

「おい、そこ失礼すぎるわ」


 続いて、多田の友達という単語に反応したのは、同じく多田の同僚である王子淳也おうじじゅんや。企画課の腹黒王子などと社内では噂になっていて、隙あらば多田にちょっかいを出してくる。多田にとっては非常に厄介な存在だ。

 という感じで、多田が同僚二人の発言に鋭いツッコミを入れていると、今まで沈黙を保っていた夜宵が口を開いた。


「なあ、うーさんの持っているそれは一体なんだ?」

「犬専用のキャリーケースだぞ! ほら」

「ばふ!」


 ちゅうじんがキャリーケースの扉を開けると、ベンジャミンが出てきた。突然現れた犬に、歓声の声をあげる女性陣。伏瀬がちゅうじんに触ってもいいかと聞くと、勿論だとちゅうじんが返事をした。許可をもらえた夜宵とジュリアは、さっそくベンジャミンの毛並みを堪能する。


「すごいふわふわしてる!」

「結構手入れとかしてるのか?」

「一週間に一回はお風呂に入れたり、ブラッシングしてるぞ」


 ベンジャミンを撫でながら質問してくる夜宵に対して、得意げに答えるちゅうじん。撫でられているベンジャミンはとても気持ちよさそうに目を細めている。夜宵が犬と戯れていると、ジュリアがちゅうじんの方を向いた。


「あの、うーさんのその瞳ってカラコンですか?」

「カラコン……?」

「えっと、カラーコンタクトって分かりますかね?」

「ちょっと調べてみるぞ」


 ちゅうじんはそう言いながら、ポケットに入っていたスマホを取り出す。カラーコンタクトと文字を打って検索してみると、それがどういうものなのか詳しく書かれたサイトが載っていた。

 さらっとその文章に目を通していくちゅうじん。ある程度見終わったのか、スマホをポケットにしまう。


「カラコンじゃなくて、生まれつきだな」

「へえ〜、随分と綺麗な目をしてるので、てっきりカラコン入れてるのかと思いましたよ」


 ちゅうじんの返答にジュリアが驚きの声をあげている。まさか瞳について聞かれると思っていなかったが、うまく返せたようで安心するちゅうじん。帰ったらもっと詳しく設定を練らなければと、ちゅうじんは心に留めておく。


 にしても、この地球には目の色を変えるレンズがあるのか。地球の技術力は半端じゃないな。


 そうちゅうじんが感銘を受けていると、今度は犬と戯れながら話を聞いていた夜宵から、質問が飛んできた。


「そういえば、この子の名前はなんて言うんだ?」

「ベンジャミンだぞ」

「へえ、なかなかにかっこいい名前じゃないか。これからよろしくなベンジャミン」

「ばふ!」


 夜宵はベンジャミンの頭を撫でながらそう言った。ベンジャミンもすっかり夜宵に懐いたらしく、嬉しそうに返事をしている。その光景を見ていたジュリアも、先輩ばかりズルいとベンジャミンを撫で始めた。


 ベンジャミンはえらくモテモテだな〜。


 ちゅうじんが誇らしげにベンジャミンたちの様子を眺めていると、後ろから肩を叩かれた。何だろう、と後ろを振り向くと王子が手招きしている。こっちに来いということなのだろうか。取り敢えず、ちゅうじんは王子の元へ行ってみることに。


「どうしたんだ?」

「いや〜、ちょっと多田の友人である君に聞きたいことがあるんだけど」

「……? 答えられる範囲でなら良いぞ」

「よし。それじゃあ、単刀直入に聞くけど、多田の弱点とか知らないか?」


 突然何を言い出すのかと思えば、同僚である多田の弱点が知りたいらしい。ちゅうじんは何故? と思いつつ今までの出来事を思い返してみる。

 しかし、いくら記憶を掘り起こしても思いつかない。ちゅうじんは物覚えはいい方なのだが、それでも思い出せなかった。


「んー、特には思いつかないけど、それがどうかしたのか?」

「実は俺、人を揶揄うのが趣味でさ。多田を揶揄うのは特に面白いんだよな〜」

「な、なるほど」


 揶揄うのが趣味ってどういうことだ……?


 ちゅうじんはそう思いながら、取り敢えず頷いておく。だが、多田の反応が面白いというのは、ちゅうじんも感じていることだ。

 少し間を開けてからちゅうじんが言った。


「確かにノリが良いもんな」

「おお! 分かってくれるか!」


 王子の意見に賛同すると、嬉しそうな表情を浮かべながら王子がちゅうじんの背中を叩いてきた。 


「でも、なんで多田の弱点を知る必要があるんだ?」

「え、そりゃ勿論、揶揄うために決まってるでしょ」

「あー、なるほどな」


 王子は元来、腹黒い性格だからか、人をおちょくるのが大好きなのだ。例えば、企画課のオフィスの至る所に細工をして多田の反応を楽しんだり、悪ノリが好きな企画課の皆を巻き込んでドッキリを実行したり。

 そして、そこに後ろめたいという感情は一切ない。性格に難ありな王子だが、仕事は完璧にこなすという実力の高さから、課長からの評価も高く上司も怒るに怒れないのだ。

 いや、むしろその課長もその悪ノリに参加してくるため、多田にとっては溜まったもんじゃない。

 当のちゅうじんは、情報収集のためだと王子と協力関係を結んだようで、二人はさっそくオフィスの隅で作戦会議を開いていた。

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