【完結】宇宙人が家にやってきた!〜社畜な俺と宇宙人が同居したは良いが、宇宙人がアホすぎるせいで更に心労が増えそうです〜

桜月零歌

第一章 宇宙人と地球

第1話 宇宙人との遭遇

 

 西暦二〇XX年四月一日。京都市に隣接する奇異きい市のオフィスビルに男はいた。名前は多田太郎おおたたろう。いかにもありきたりな名前をしている彼は、旅行会社に勤めている。

 しかし、多田おおたが勤めているのはただの旅行会社ではなく、人手不足による残業が月に六十時間も課せられるブラック企業だった。

 そんな過酷な環境下では、滅多に定時には帰れない。今日は書類作成が壊滅的な後輩の下条しもじょうと一緒に残業している。入社してからもう丸二年経つというのに、未だに書類作成に慣れてくれないので、多田は困り果てていた。


「先輩ー! これどうすれば良いんですかー?」


 今度は何だ、と本日何度目かも分からない溜息を吐きながら下条しもじょうのデスクに向かう。

 

「どれどれ……。って何やってんだよ」

「なんか普通に文字打ってたら段落ごと消えちゃって……」

「あー、なるほど」

 

 下条のパソコンを覗くと、そこにはさっきまで打っていたであろう文字が段落ごと消えていた。おまけにそれ以前の文章の文脈がぐちゃぐちゃで、漢字で変換できるところも平仮名のままになっている。このままでは明日の締切に間に合わない。

 

 やっぱりこいつには書類作成は無理だな。他のことだったら優秀なんだが……。

 

 目の前の状況に呆れながら、パソコンの右下に映し出されている時刻を見ると、もう二十二時を過ぎていた。下条の家は少し田舎の方にあるので、そろそろ彼を帰さないと終電に間に合わなくなる。それに、こうなるなら初めから一人で片付けた方が早い。


「もうこんな時間だからお前は帰れ。後はこっちでやっとくから」

「え、良いんですか?」

「今帰らないと終電に間に合わなくなるだろ」


 そう言われ、下条はオフィスの時計を確認する。

 

「あ、ほんとですね。すいません。せっかく残ったのに結局は先輩に丸投げしてしまって……」

「良いんだよ。こういうのには慣れてるから」

「それではお先に失礼しますね」

「ああ。また明日な」


 下条は荷物をまとめて会社を後にした。まだこの会社全体には百人前後の社員が残業しているし、多田のいる企画開発課も人がわんさか残っている。それもそうだ。企画開発課は六名という少ない人数の割に、仕事量が尋常ではない。

 下条は電車の関係で先に帰ったが、その他の五人はまだ残っている。今にも先輩の一人が発狂しかけている状態だ。多田はこんな会社嫌だなと頭の隅で考えながら、下条が先程まで開いていたファイルに文字を打ち込んでいく。


「マジで何回教えても学ばないんだもんな……。下条のやつ」


 まあ、仕方ないといえば仕方ないのだ。下条はいわゆる元ヤンというやつで、高校では相当な荒くれ者だった。まともに授業を受けたことがほとんどないようで、この会社の入社時の筆記試験の成績も下から数える方が早い。

 そんなわけで、教育係として多田がついたわけなのだが、二年経っても下条は書類作成には慣れていない。だが、その分観光案内やバスガイドの仕事は得意なようで、入社三年目の多田から見てもそれは目を見張るものだった。


 今度から書類仕事は無しにして、実務の方に回ってもらった方が良いんじゃないのか。その方が効率的だ。


 多田は内心そう思いながら、キーボードをカタカタと打ち進めていった。

 



 そんなこんなで一時間半後。下条の分の書類作成も終わり、多田は身につけていた腕時計に手を伸ばす。


「ギリギリ終電に間に合うか」


 時間を確認すると、時刻は十一時半を過ぎていた。多田は小走りで駅の方へと向かう。終電まで後五分しかない。これは走らなければ到底間に合わないなと感じた多田は、走る速度を速めるのだった。



 駅の改札をくぐると、ホームに止まっている電車を発見する。多田は道中の階段を素早く駆け下り、一番近い電車の扉までダッシュした。

『駆け込み乗車は御遠慮下さい』などというアナウンスが聞こえるが無視だ。ここで間に合わなければ、今日はタクシーで帰らなければならない。それだけはお金の無駄になるので絶対に避けたい。発車ベルがなる中、多田は一目散に走るが、後一歩というところで扉が閉まってしまった。


「うわぁ……マジかよ」


 目の前で扉が閉まったことに思わず声を洩らす。多田は諦めてタクシーを呼ぶことに。駅にある呼び出し電話を使ってタクシー会社に連絡を入れると、すぐに応答してくれた。タクシー会社によれば到着まで十分かかるとのことなので、先に駅のタクシー乗り場へと移動する。

 タクシーが来るまですることがない多田は、ポケットからスマホを取り出して電源を入れた。

 時刻はすでに日付がまわっており、午前〇時五分と表示されている。何かないかとネット記事を漁っていると、目を見張るものを見つけた。


【某国が東京に向かってミサイル発射か】


 そうタイトルに書かれた記事を見て、驚きのあまり目を見開く多田。東京にそんなものが飛んできたら大惨事どころの話ではない。恐らく国際問題にまで発展してしまうだろう。

 すぐさま詳細な情報を得るためにその記事をタップしようとすると、ちょうどタクシーがついたのか運転手が降りてきた。

 どうぞ、と言いながら後部座席の扉を開ける運転手。多田は一言、運転手にお礼を言って後部座席へと乗り込み、目的地を伝える。

 運転手はナビに目的地を設定して車内ラジオのスイッチを入れ、タクシーを走らせた。


『現在、東京都内には警戒アラートが発令されています。至急、屋内や地下などの安全な場所に避難してください。繰り返します――』


 アナウンサーが一般市民に避難を呼び掛けている音声が流れてきた。アナウンサーが話す裏で微かに聞こえてくるガヤガヤした音から、現在ラジオ局が慌ただしくなっていることが分かる。


「東京の方は大変ですね。お客さんは東京の方にご家族とかいらっしゃいます?」

「いえ、身内は全員京都に住んでいるので大丈夫ですよ。にしてもこのニュースを聞いてると、京都住まいでよかったって思いますね」


 もしもミサイルがこっちに飛んで来ていたら、仕事と心中する羽目になったかもしれないと身震いする多田。対して、運転手は多田のその言葉に安心したよう表情を見せる。


「それはよかった。実は私の娘が東京にいましてね」


 まさかの事実に思わず、えっ? と声を漏らす多田。


 マジかよ。そんな状況でよく仕事できるな。俺だったら今すぐにでも連絡取ってるわ。


「いやいや、俺みたいな残業終わりのやつをタクシーに乗せてる場合じゃないでしょ」


 何気にさらっと衝撃発言をした運転手にすぐさまツッコむ多田。その反面、運転手は平然とした顔をしている。


「あ、それなら大丈夫ですよ。貴方を乗せる前に連絡を入れたら、避難して地下にいるらしいので」

「でしたら安全ですね」


 地下にいるならある程度は安心だな。ミサイルがそこにピンポイントに突っ込んでこない限りは。


 そうホッとしていると、再び無線ラジオから声が聞こえてきた。多田と運転手はそれに耳を傾ける。

 

『ただいま、防衛省から新しい情報が入って来ました。ミサイルの進路が東京都から日本海に変わり、無事、日本海に落下したとのことです。防衛省によると、ミサイルがなんらかの飛行物体と衝突したせいで、進路が日本海側に変わったとみているらしく、現在、詳しいことは調査中としています。また、詳しいことが分かり次第お伝えします』


「何とか危機を脱したようですね」

「東京の方に被害が出なくて何よりです。これで安心してお客さんを送り届けられます!」


 ミサイルの進路がそれたことにより、仕事に専念できると喜ぶ運転手。

 

 何の被害もなく終わって良かったけど、何らかの飛行物体って一体……?

 

 多田はそこまで考えてから、ふと窓の外に目を向けた。すると、一条の光が夜空の中を進んでいくのが見える。


 なんだあの光。流れ星か?

 

 ぼんやりした頭で光を見ていると、急な睡魔が襲ってきた。

 別に無理に起きなくても、タクシーに揺られているだけで家に着くんだから眠ってしまっても良いだろう。多田は重力に任せて瞼を閉じるのだった。



◇◆◇◆


 


「お客さん、起きてください」

「はっ⁉︎」


 運転手に起こされて目が覚めた多田。いつの間にか寝ていたらしく、気づけばタクシーは多田の住むキテレツ荘の前で止まっていた。黒の屋根とグレーの外装のアパートを見にした多田は、慌ててタクシー代を払い、車内から降りる。


「はぁ……。早く寝よ」


 多田は俯きがちにアパートの階段を登っていく。幸いこのアパートは二階までしかなく、多田の住む二〇三号室は階段を登って一番奥だ。

 少し長い通路を歩いて部屋の前までたどり着いた多田は、家の鍵を取り出す。寝起きで頭がぼんやりしているせいで、なかなか鍵が鍵穴に入らない。結局、数秒かかって鍵を差し込んだ。


 やっと寝れる……。


 ドアノブを捻ると、憩いの我が家が待っていたはずだった。


「はっ……?」


 多田の目は信じられないものを見るかのように見開いている。玄関近くの窓ガラスが割れており、そこから春特有の冷たい風が入ってきた。

 何がどうなっているのか。それをぼんやりとした頭で考えるには限界があり、状況を整理しようにも圧倒的に情報が足りない。今の多田の頭にはただ一つのことが思い浮かんだ。


 どうしてこうなった⁉︎


 ひとまず、家全体がどうなっているのか確認しに行くために玄関とリビングをつなぐ廊下を進んでいく。確認したところ、バストイレは無事なようだ。次はリビングだと思い、そこにつながる扉を開ける。

 すると、リビングが半壊していた。普段から使っていたテーブルやソファーはどこへやら、テレビに至っては画面が割れて使い物にならなくなっている。

 

 一体何があったらこんなことになるんだ。周囲を見回すと、何やら見慣れないモノが見える。それは現実では決して見たことのないモノで、どちらかといえば、アニメや漫画などによく見かける灰色の円盤――UFOにそっくりだった。

 見た感じUFOの直径は目視で八メートル。外から見ると、アパートの家の右端、ちょうど多田の住居へピンポイントに突っ込んでいる。


 いや、嘘だろ……。疲れすぎて幻覚でも見てるんじゃないだろうな。


 あまりの信じられない光景に目を疑う多田。すると、UFOのハッチから光が漏れ出し、宇宙服を纏った灰色の未確認生命体が出てきた。ソイツはアニメや漫画で見た宇宙人――グレイにそっくりななりをしている。

 ソイツは百七十六センチの多田よりも背が低く、多田の肩ぐらいまでしかないので、身長は大体百六十センチぐらいだろうか。テレビとかでよく見る宇宙人よりかは大きいように思える。左腕には腕時計型のデバイスらしきものも見えた。

 そう多田がじっと目の前の宇宙人を見ていると、ハッチから出てきたソイツが口を開く。


「――誰だオマエ?」

「いやこっちが聞きたいわ!!」

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