僕は母さんの親友に振り回されています

ザイン

season1

第1話 僕の日常

「優太〜。遅刻するわよ!起きて!!」


僕の名前は神谷優太(かみやゆうた)8歳。


お母さんと2人で暮らしている。お父さんは僕が物心つく頃に亡くなったとお母さんから聞いている。


だから僕はお父さんを写真でしか知らない。


「おはよう〜」


「おはよう。さっさと食べて準備しなさいよ!お母さんもう行くからね!!」


お母さんは慌てて仕事に行く準備をする。


お母さんは学校の先生をしている。残念なことに僕とは違う学校だ。


「いってらっさぁ〜い」


「…………もう。調子狂うわね。行ってきます」


お母さんがドアを開けると


「あら真理おはよう」


僕の背筋に雷が走る。


「雪子!おはよう!!ゴメン!!!今日も優太のこと頼んでいい?」


「当然でしょ?あんたとあたしの仲じゃない」


「ありがとう!じゃあ優太のことお願いね!!」


「あんたも気をつけなさいよ」


「えぇ…………ってあ〜ヒールが折れた!!」


「…………ったく。言ってる側から、ちょっと待ってなさい」


おばさんが視界から一瞬消える。少しして視界に戻ってきた。


「これ挙げるわ。確かあんた私と靴のサイズそんなに変わらなかったわよね?」


「えぇ。そうだけど…………いいの?結構高そうだけど」


「そのくらいのヒールなら全然問題無いわ」


「…………ちょっとキツい気もするけど、ありがとう雪子!」


お母さんは急いで階段を降って行った。


「おはよう。優太」


「雪子おばさん…………おはよう………わっ!?」


おばさんは僕を抱き締めると掌で拳を作り僕の頭をグリグリする。


「痛い!痛いよおばさん!!」


「おばさんじゃ無くてお姉さんでしょ?」


「ごっ、ごめんなさい!雪子お姉さん!!…………グゥ、ぐるじい〜」


おばさんの豊満な胸が僕の顔を圧迫する。


「ほら真理に言われてるんでしょ?早く支度して学校に行きなさい」


「わかった!わかったから放してよおば…………」


鋭い視線が突き刺さる。


「…………お仕置きが必要みたいね」


「おばさん待って!ほらちっ遅刻しちゃう!?おばさんごめんなさい!次からちゃんとお姉さんって………お姉さん!………おばさん!!ぎゃぁーーー」


僕はみっちりおばさんからお説教を受けた。


お母さんが信頼を寄せるこの女性は高野雪子(たかのゆきこ)。


お母さんとは学生の時からの付き合いで、お母さん曰く人生の大半を彼女と一緒に過ごしているとのことだ。


僕とお母さんがお父さんのいないこの家で笑って暮らしていられるのもおばさんのお陰だ


最愛の人を事故で亡くし失意のどん底にいたお母さんをおばさんは自分の管理するマンションに住まわせてくれて、幼い僕の面倒を一緒に見てくれていた。


もしかしたらお母さんよりおばさんと過ごした時間の方が多いかもしれない。それ位親身になって僕達を支えてくれている。


おばさんはなんでも美容に関する会社の社長をしているそうだ。


そのせいなのか、お母さんも綺麗で美しい人だけどおばさんはそこに何処となくなんというか…………不思議な魅力を感じる。


1つ1つの言葉や動きに不思議と引き寄せられる。そんな人だ。


その不思議な魅力に気がついたのは最近だ。それまではおばさんはもう1人のお母さんみたいに僕の面倒を見てくれていた。


けど、僕が今の学年に進級してから変わった。


胸元のザックリ空いた服を着たり、太ももから上が見えるか見えないか際どい服を着たりやたら抱きついてきたり…………


その度に恥ずかしがる僕をからかうようになった。


「ただいま…………」


お母さんしかいないはずの家に挨拶する。何故ならドアを開けたらおばさんの靴があったからだ。


おばさんに気付かれないようにゆっくり自分の部屋に行こうと試みる。


「ブーー!?」


台所で鼻唄を歌いながら何かを作っているおばさんの姿に目を疑う。


「おばさん!なんて格好してるのさ!?」


「あら優太おかえり。ちゃんとただいまって言わなきゃダメじゃない」


「言ったよ!そんな格好で鼻唄歌ってないで早く服着てよ!?」


「そんな格好ってエプロン着けてるじゃない?」


「それ以外はどうしたのさ!?」


「…………あら優太どうしたの?顔、そんなに真っ赤にして」


ニヤリと笑うおばさんは僕の感情をお見透しだ。


「エプロン以外の服を着て!!」


「…………ハイハイわかったわよ。まだまだおませなんだから」


そういうとお母さんの部屋に入りものの数十秒で着替えを済ませた。逆にエプロンが消え普段通りの服装だ。


僕としてはもう少し露出の少ない服装を希望したいけど…………


「学校はどうだった?」


おばさんが作ってくれたお菓子を食べながら食卓で談笑する。


「どうって、いつも通りだよ」


「確か今日テストだったでしょ?見せなさい」


「えっ!…………はい」


今日返ってきたテストの答案用紙をおばさんに見せる。


「…………ダメじゃない!これくらいのテストは満点取らなきゃ!!」


「でっ、でも!クラスでは一番だよ!?」


「…………クラスで一番なんて当然よ。学校一いや、全国一を目指しなさい。」


「そんな無茶苦茶な〜」


おばさんはやたら高いハードルを求めてくる。そして毎度僕はこの言葉に言い包められる。


「真理を………お母さんを幸せにしたいならそうしなさい」


「うっ……………」


「優太。この世界は残酷よ。強い者が弱い者を搾取する。そんな社会に私達は生きているのよ」


「一番になることが全てじゃないってお母さんは言ってるよ!」


「それはね。お母さんがまだ一番でいる世界があるからそう言えるのよ。あんたのお母さんは目に見える一番なんて持っちゃいないけど、目に見え無い一番を持ってるわ」


「なに?目に見えない一番って?」


「それはね……………私よ」


「へっ?」


思わぬ返答に僕は唖然とする。


「真理は私という親友を持っている!だから目に見える一番は何も持ってないけど、なに不自由無く過ごしているのよ!!」


冷ややかな視線をおばさんに送る。


「…………じゃあ聞くけど優太。あんたこの家と私がいない生活を想像しなさい」


「えっ…………それは…………」


「真理はあんた育てる為に自分を犠牲にして死にものぐるいで働くでしょうね。あんたとの時間を犠牲にして」


「そう…………だね」


「そんな状態の真理とあんた今みたいな暮らしが出来ると思う?」


「…………」


「そういうことよ。真理は私という親友を持っているから今女手1つであんたを育てる事が出来ているのよ」


「うん」


「……………真理を幸せにしなさい」


「えっ?!」


「それを出来るのは優太。あんただけよ」


「わかった!」


「ってことで始めるわよ~」


「始めるってなにを?」


そう言っておばさんは大量の本を持ってきた。


「なに…………これ?」


「真理が帰ってくるまで、みっちり勉強するわよ!」


「えぇ〜〜〜!?」


「感謝しなさい。日本一の大学を首席で卒業した私がマンツーマンで見てあげるんだから」


「やっ!ヤダ!!」


「こら!逃げるな!!」


「助けて〜お母さん!お母さん!!」




気がつくと、お母さんが既に帰って来ていて、おばさんと口喧嘩していた。

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