第2話 ベロニカの内心
《ベロニカ視点》
ううぅ、怖いぃ。
魔王城の会議室の隅に立って、私は内心ビクビクしていた。
部屋の真ん中にある円卓の奥には、すごく大きな悪魔の姿があったからだ。
それが私のよく知るゲームの登場人物。四天王のオルガノフだというのは分かってる。
でも、実際目の前にしたらすごく強そうだし、顔は怖いしで足が動かなくなってしまった。
なんでこんなことになったんだろう……。
ゲームばかりしてて、学校での人付き合いを避けてきたバチが当たったのかもしれない。
私は高校1年の秋。帰宅途中に事故に遭った。次に目が覚めた時、私の姿は好きだったゲームのキャラクターになっていた。
そのキャラクターの名前はベロニカ。魔王軍の四天王で、強くてキレイな大人の女性。真の姿がドラゴンなのもカッコよくて好きだった。
でも、これが噂に聞くゲーム世界への転生なのだとしたら。
私は勇者に倒されるってことになっちゃう。
そんなの嫌だ!なんとかして、生き残らないと。
ただ、悪いことばかりじゃない。
ベロニカは四天王の中では2番目に戦う相手だから、まだ時間に余裕はあるはずだった。
今から始まる作戦会議が終わってから、ゆっくりどうするか考えよう。
でも、この作戦会議も私にとっては大きな試練だった。
だって、私はただでさえ喋るの苦手で、前の世界でも女子グループの会話にはちっとも混ざれなかったくらいだし。
四天王はみんな強いモンスターで見た目も迫力満点だから、緊張して絶対話せないもん。
そんなことを考えていたら、会議室のドアがガチャリと開いた。
入ってきたのは、ツンツンした青髪とたくましい身体つきが印象的な大男だった。彼はたぶん雪男のゼレンだ。ベロニカとは犬猿の仲で、よくケンカをするという設定だったはず。
緊張で心臓が張り裂けそうになる。でも、落ち着いて。
ベロニカのセリフ回しは好きで、真似したりしたこともあるからきっとなんとかなる。
記憶の中にあるベロニカを演じていれば、会議もすぐ終わってくれる。たぶん。
「ぉ、遅いわよ、ゼレン。ワタクシを待たせるなんてどういう了見かしら?」
い、言っちゃったぁ。こんな喧嘩腰のセリフ人前で言ったことないからやっぱり恥ずかしい!
「うるせぇな。遅れたわけじゃねーんだから、そんなに吠えるなよ」
ゼレンは威嚇するようにこちらを睨みつけてきた。
分かってたことだけど怖いいぃ。早く会話終わって欲しいぃ。
「ぁ、相変わらず生意気ね。まぁいいわ。会議なんて早くすませたいの。さっさと始めましょ」
ゼレンは室内を見回して言葉を続けた。
「いいのか?まだソウマが来ていないみたいだが」
そういえば、四天王の最後の一人がまだ来てないんだった。
どどど、どうしよう。この場合なんて言ったらいいの!?
「……無限卿は欠席だ。これで揃った。会議を始めるぞ」
部屋の奥からオルガノフが私たちに声を掛けてくれた。
た、助かったぁ。
「ソウマの奴、舐めやがって。俺もさぼればよかったか」
ゼレンは眉間に皺を寄せて悪態をつきながら、席に向かった。
とりあえず、ゼレンにならって私も席につくことにした。
それにしても、やっぱりこの人怖いよぉ。できるだけ話したくないなぁ。
「議題は伝わっているな」
席につくとオルガノフが淡々とした調子で問いかけてきた。
とにかく、早く会議を終わらせなきゃ。
たしか、この会議ではゼレンが一番手を買って出てくれるんだったよね。
私がその流れを作れば、すぐに会議は決着するんだ。よし!
「ゅ、勇者討伐の作戦会議だったかしら?くだらないわね。誰かが戦って倒せばいいだけじゃない」
「ではベロニカ。オマエが行くか?」
オルガノフの言葉に心臓がドクンと拍動する。あ、焦らない焦らない。
ゼレンは他の四天王をライバル視してるから、彼に話を振れば手を上げてくれるはず。
でも言い方も工夫しないと。彼のプライドを刺激するように。
なんというかこう、挑発的に!
「別に構わないけど、いいの?ワタクシが手柄を独り占めしてしまうわよ?」
私にできる渾身の演技で、ゼレンを煽る様に視線を送る。
どう!?
内心ドキドキしながらゼレンの反応を見る。すると……。
「別に1人で行くことないんじゃね。四天王全員で戦えば楽勝だろ?」
「「え?」」
思わず変な声が出てしまった。オルガノフも驚いたみたい。
一瞬その場の空気が凍り付いたのをひしひしと感じる。
ていうか、なんで?ゼレンは協力プレーをするようなキャラクターじゃなかったよね?
いやいやそんなことより、もしみんなで戦うことになったら私もすぐ勇者に挑まなきゃいけないじゃない!
まだ心の準備なんてできてないのにぃ!
そう思ったとたん、頭の中がぐちゃちゃになった。
そこからは、しばらく夢中で喋って、喋って。
気が付いたら体中から熱がこみあげてきて。
「待て。ベロニカ。私闘は見過ごせん」
そして、オルガノフの強力なオーラで我に返った。
「っ……、しかたないわね」
でも、まだ頭に血が上ったままだ。ゼレンの意見が通って、私もすぐ出動することになったらどうしよう。そんなことばかり考えてしまう。
するとオルガノフが口を開いた。
「ゼレン。共闘とはオマエらしくない」
あっ、もしかして反対してくれる?
「が、悪くない提案だな」
え。
「そこでだ。まずはオマエたち2人で勇者討伐に行ってもらおう」
ええええええぇ!?
「ちょ、ちょっと待って?なんで私まで行かなきゃならないのよ?」
思わず考えていたことがそのまま口をついて出てしまう。
オルガノフは困惑したように首を傾げた。
「……?さっきは構わないと言っていたはずだが」
「……!それは……、そうだけどぉ」
私の頭はもうパンク寸前で、なにを言うべきなのかまったく分からなくなってしまった。
やっぱり、人とコミュニケーションを取って来なかったバチが当たったのかな。
それか、四天王のゼレンを見捨てようとしていた私への報いなのかも。
そこから先の会話はもうよく覚えていない。
すべてが終わって自室に戻った時、私はようやく冷静さを取り戻した。
……待って?よく考えなくても、1人で勇者に挑むより他の四天王と協力した方がなんとかなりそうじゃない?
あー、私のバカ!素直にゼレンの話に乗ってるだけでよかったんじゃない!
もしかして、私が1人で空回りしてただけ?
なにやってんのよぉ、私ぃ!
自分のダメダメさに我ながら呆れてしまう。
でも、本当に大変なのはこれからよね。
ゼレンと2人で勇者に挑む。
運命の瞬間は早まってしまったけど、絶対生き残ってやるんだから!
私は自分の頬を叩いて気合いを入れなおした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます