ツッコミ勇者

94

第1話

 ──この世界は魔王に支配されている。

 魔王は魔物を手下につけて、村人や弱小な魔物から食料や娯楽品を奪っていくのだ。

 それから、最近は魔王に直々に仕えている、幹部と言われる上級悪魔が暴れているらしい。平和に暮らしたい僕らにとって、実にはた迷惑な話である。

 そこでこの村、"サイショノ村"では、魔王に対抗する勇者を選抜することになった。勇者になる為には、村の中心にある台座に刺さっている、勇者の剣と呼ばれるやけにギラギラした龍の装飾付きの剣を抜かないといけないのである。

 その勇者の剣を抜けば、魔王を倒す勇者の資格があるそうなのだが……何だってそんな剣がこんな辺鄙へんぴな村にあるのかは疑問である。

 とにかく、そんなわけで今日、村の全員が招集された。一定の年齢を超えた男達は1列に並んで、剣を次々抜いていくことになっている。

 そんな中、この僕──シクル・フレイスは、あえて列の最後に並んでいた。その理由は、僕が平凡すぎるからである。何をしても平均的な僕に、勇者の資格があるはずがない。僕にできるのはツッコミくらいである。

「おいシクル、何ボーッとしてるんだ? 剣でも食いたいのか?」

「人間に剣が食えるわけないだろ! フリにもならない変なことを言うのはやめろ」

 こいつはツァーリ・ヴェルマ。僕の友人で、筋骨隆々の筋肉ダルマである。勿論脳筋である。

 そんな、突然メタいことを言い出したツァーリに対して、ベシュラリッとツッコミを入れた。

 うむ、今日も良い音だ。

「やっぱシクルのツッコミはいてぇ。俺じゃなかったら腕折れてたぞ」

「そんなわけないだろ。冗談はいいから、ほら、次はお前の番だぞ」

 言いながら、ツァーリの後ろを指差す。丁度前の人が剣を抜けずに横に捌けていくところだった。

 どうやら、まだ誰も剣を抜けていないらしい。

「お、そうか。じゃあ行ってくる。もしかしたら、俺なら引っこ抜けるかもな」

「確かに、お前なら引っこ抜けるかもな」

 というか、お前に抜けなかったら後はもう僕しかいないし、そうなればもしかしたら、この村に勇者はいなかったことになるのかもな。

「では、ツァーリ。早速抜いてみてくれ」

 村長の声を聞き、ツァーリは勇者の剣の柄を掴むと、力強く真上に引っ張った。

 その瞬間、大地が揺れるような音がして、台座や石畳、周辺の建物にヒビが入った。がしかし、それでも勇者の剣は抜けなかった。

 それを見て、僕はおかしいと思った。間違いなくこの剣はおかしい。村一番と言っても過言ではない程の力持ちであるツァーリが、地面が割れる程力を込めても抜けないなんて。まさか本当にこれは、勇者の剣なのか?

 だとしたらそんなもの、平均的すぎる僕に抜けるはずがない。

「……では最後、シクル。抜いてみてくれ」

 村長に呼ばれ、残念そうに台座を離れるツァーリを横目に、勇者の剣の前に立った。

 やっぱり、この村に勇者なんかいないんじゃないのか……そう思いながら柄に手を掛け、力を込めた。

 スポンッと変な音がして、剣が抜けた。


テッテレーテッテーテッテー

シクルは勇者になった


 たった今、僕は勇者になった。

「いや──なんで僕なんだよ!!!」

 僕は思いっきり、自分にツッコミを入れた。

 自分で自分にツッコむので妙な体勢になるが、唯一の特技であるツッコミを僕が失敗するはずもなく、ベシュラリッッッといつもの音が鳴った。

 腕が折れた。

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