第24話 おまわりさん事案です。あそこに少女を尾け回す怪しい男性が…………あ、俺か①
翌日。
俺は朝から町を散歩していた。
しかし、その顔は爽やかな早朝の空気とは裏腹にデロンデロンだった。
「はぁ……」
昨日は最悪だった。
得るものはなく、失うものばかりのクソみたいな一日(半日)だった。
仲間になるという目的は結局果たせず、スマホは失い、そして
死にかけながら錬成魔法を行使した結果がこれなんて、最悪以外のなにものでもない。
あれかな? キャバ嬢に貢ぎまくった挙句捨てられる男ってこんな気分なのかな?
キャバクラとか恐いイメージしかないから行ったことないけど。
「でも……喜んではいたんだよなぁ」
まあ、そこだけが唯一の救いだった。
自分のプレゼントで他人が――それも若い女の子が喜んでくれた。
肉親以外の女性にプレゼントしたことのなかった俺としては、その事実だけで少し満足してしまっている自分がいた。
そういう意味では、キャバクラにハマる人間の心理も理解できそうになってくるから恐ろしい。
ともかく次の手を考える。
方針はひとまず変えない。元から一回で落とせるなんて思ってない。
こういうのは氷を砕くように少しずつ地道に攻めてこそだろう。よくわからんがきっとそう。
さて、そうと決まれば新しいプレゼントを検討しないとな。
とりあえず前回は好評だったし、また美容系とかの方がいいのだろうか?
それとも他にもっと喜びそうなものがあればそっちでもいいが……。
「ん?」
質屋の前を横切る。
ふとショーウィンドウの中に見覚えのあるシルエットが見えた気がした。
もしかして……と足を止めて中を覗き込む。
『美顔器(異世界産)=5,000G』 ←NEW!
「……………………」
「あの野郎ぉぉぉおおおおおッッッッ!!!!!!」
吉川は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐のメスガキをわからせねばならぬと決意した。
あのメスガキ……今度こそ完全に許さんッ!!
もう容赦しねぇっ! どんな卑怯な手でも使ってやるっ!
俺は質屋で5000Gと引き換えに美顔器を回収し、すぐさま人のいない路地裏へと入り込んだ。
「――【
暗い路地の奥で緑色の光が炸裂する。
「フフ……できた」
錬成された“ブツ”を見て笑う。
俺が作ったもの――それは『発信機』。
いつぞやメスガキが持っていたものとよく似たタイプだ。
こいつでメスガキの家を特定し、家族を人質にとる。
これが俺の次の作戦、『シンプルにストーカー作戦』!
もはや心は完全に悪に染まり切っていた。
だが、これでいいのだ。ヤツはそれだけのことをした。
待ってろよメスガキ。
30歳童貞の純真無垢な想いを踏みにじったこと、必ず後悔させてやるっ……!!!
◇
そして翌朝――。
「さて、ヤツの現在の居場所は……」
俺は早速尾行を開始した。
発信機は昨日のうちに仕掛けておいた。
いつも通り斬首される刹那、今際の際になんとかメスガキの服に取り付けた。執念のなせる
発信機を頼りに町の中を移動する。
安物ゆえに受信機に備わるレーダーはシンプルな表示しかしない。分かるのはせいぜい距離と方角のみ。気を付けないとうっかり壁や柱にぶつかりそうだ。
そこそこ歩くと見知らぬ通りに出た。
俺の仕事は基本町の中心部であり、行動範囲もその近辺のため、まだまだ町には知らない場所がたくさんある。
レーダーに映る光点に動きはない。
たぶんヤツはまだ家だろう。いったいどんな場所に住んでいるのやら。なんとなく高級な住宅街が想像つく。
この時間ならまだ寝てるか?
きっとフカフカのベッドで暢気にスヤスヤ寝てるんだろうな。こっちは渾身のプレゼントを質に出されて絶賛傷心中なのに。
それにしても、いったいどんな両親がアイツを育てたんだ? ぜひ家に着いたらまず顔を拝んでやりたい。
なんせあの生意気な性格だ。きっと相当甘やかして育てたんだろう。
これで案外俺と年齢が近かったらどうしよう? もしそうだったらなんか余計に腹立つな、なんとなく。
というか、もし両親まであんな性格で強かったらヤバいのでは?
もしや一家総出で返り討ちに合うんじゃ……うん、考えないようにしよう。
「うへぇ」
さらに歩くと、どういうわけかどんどん路地が細くなっていった。
石畳もデコボコしており歩きづらい。一見して整備されていない道だと判る。
この町は区画ごとに各所の色が分かれている。
とてもこんな昭和の下町チックなエリアの先に、高級な家が立ち並んでいるとは考えづらい。
もしかして道を間違えたか……?
しかし、発信機の故障の気配はない。
そうこうしているうちにどんどんレーダーは拡大表示となり、対象との距離が迫っていることを告げてくる。
だいぶ近づいたことで、対象の動きも細かい精度でわかるようになってくる。
どうやらもうメスガキは起きて活動を開始しているらしい。さっきから同じ箇所を行ったり来たりしている。
朝から忙しないヤツだな。いったい何をしているんだ?
う~ん、わからん。こうなってくると直接確かめないことにはなにも……。
「ここか」
そして、俺はついにレーダーの示す場所へとたどり着いた。
「…………あれ?」
目の前に建つ建物を見て、俺はポカンとしてしまった。
「酒場……?」
まるで西部劇に出てきそうなボロい酒場。
寂れてはいるが、どうやら営業はしているらしい。下品な笑い声が外まで漏れてきている。
これは……いったいどういうことだ?
どう考えても、こんな場末の酒場にあのメスガキがいるとは思えない。
発信機は……?
ちゃんと動いている。レーダーはたしかにこの場所で点滅しており、今もなお光点は動き続けている。
やはり故障ではない。なら、いったいこの状況は……?
「!」
まさか……!
もしや発信機の存在に気付かれた?
それで昨日のうちに誰か別の人間に取り付けたとか……あり得る。むしろそうとしか考えられない。
にしてもアイツ、ただ捨てないあたりやっぱり性格が悪いな。
大方俺をかく乱しようとしたか、あるいはただ馬鹿にするためとかそんな理由だろう。
でもってあとになって「こんなの気づくに決まってんじゃんw」とか言ってきそうな気がする。
くそぉ、仕方ない。今日のところは出直すか――。
そう思って、俺はその場を離れようとした。
その直後だった。
「おーい、ミーサ! ちょっと店の前掃除してきてくれー!」
「は~い」
酒場の中から聞こえてきたやり取り。
「!?」
え……今の声……。
キイィ――。
あ……!!
思わず大声を出しそうになった。
扉を開けて出てきたのは、恐らく『ミーサ』と呼ばれた女の子。
それは紛れもなく――あのメスガキだった。
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