第21話 女の子にプレゼントしたこと? ……も、もちろんありますよ、当然じゃないっすか①

 翌日。


 昨日は失敗だった。

 まあ正確には昨日も……なんですが。


 まさか俺の編み出した水流魔法による窒息攻撃をあんな形で対処されるとは……。

 どうやら想像以上に魔法とは自由らしい。威力や範囲だけでなく応用の仕方でいかようにも進化できる余地がありそうだ。


 くそ、知ってはいたが認識が甘かった。

 まあ俺の使い方もだいぶ特殊な部類だったとは思うけど。


「さて」


 それはともかく次の策を練ろう。


 と言っても、材料がないんだよなあ。

 師匠の本は期限を迎えたので返却してしまったから。


 本当は延長したかったのだが、俺にはできないルールとなっているらしい。

 図書館を利用できるのはあくまで町の住民だけだからだ。ということは当然、借り直すこともできない。


 ならば役所で住民登録すればいいのでは?


 しかし、それも一筋縄ではいかない。

 どうやら戸籍のない異世界人が登録するためには、現地人による後見人が必要なのだとか。


 果たしてそんな人間が俺の周りにいるだろうか?

 残念ながら答えはノーだ。


 一応候補を考えてみると、まず師匠は本人が後見される側異世界人のためアウト。


 続いて思いついたのが武器屋の店主だが……まあこれもダメだろう。

 所詮ただの客と店主の関係だし、プライベートで交流があるわけでもない。


 残りは仕事仲間であるが、彼らとはあいさつや雑談を交わすことこそあれど、自分だけ異世界人という引け目もあってそれ以上の交流はない。第一、俺は人見知りだ。


 とまあ結局、そんなこんなで俺はあの本とお別れせざるを得なかった。

 無念だ。できることならもっと読みたかったのに……。


 ま、どうしても必要になったら本屋に行って自腹で買うさ。

 タダで入手できるものにカネを払うのは若干癪だが、師匠の印税に貢献すると思えばまあいいだろう。


 というわけで、ここからは自力で頑張るしかない。

 幸い、本の内容自体は簡単だったので結構頭に入っている。

 小難しい理論が必要なわけでもないし、なんとかやっていけるだろう。


「と、思っていたんだけどな……」


 う~ん、と首を捻る。


 浮かばない。アイディアがなにも。

 なにもかれこれ1時間近く悩んでいるのに。

 妙案どころか試してみようというレベルの案すら出てこない。重症だ。


 俺がこんなに煮詰まっているのには理由がある。

 というのも、これがもし魔力が潤沢にあったなら、俺だってポンポンいろんな魔法を試しつつ策を練っていただろう。


 だが現実はそうもいかない。

 俺はあくまで駆け出しの魔法使い。つい最近魔力に目覚めたばかりの半人前。

 なんとか限られたリソースでやり繰りしないと……と思うとどうしても考えが狭くなってしまうのだ。


「いかん。なんとか発想を転換しないと……」


 どうしよう。もういっそ補助魔法でも覚えようかな……?

 そんで「へへ。お嬢さま、サポートはあっしにおまかせくだせぇ」とか言いながら付き人スタイルで見逃してもらうとか……。


 そうとも。敵として勝てないなら、いっそ仲間になってしまえばいい。

 で、その代わりに殺すのだけは勘弁してくださいとお願いする。

 これこそまさに逆転の発想。


 まあこんなことを言っていると、以前同じような発想で逃走を試み失敗した苦い記憶が蘇ってくるのだが……。


 しかし、今度は違う。

 逃げた末の苦肉の策としてではなく。あえて自らヤツに近づいていく。

 もしくは擦り寄る……と言うべきか。


 まずもって一日が昼で終了する、この半日生活がおかしいのだ。

 こんなの人生半分損しているようなものじゃないか。


 思えば、もうしばらく夜空を見ていない。

 いい加減頭がおかしくなりそうだ。こちとら基本夜型人間なのに。

 人間は太陽に当たらないとおかしくなると言うが、逆もまた然りだ。


 それにもう一つ。

 いざ仲間になってしまえば、今後は午後以降も働けるようになる。こいつがでかい。

 そうなれば今より収入が増え、おいしいご飯を食べられたり、ホテルなんかでちゃんとしたベッドで寝られたり、もっとこの異世界を堪能できる。すごく魅力的だ。


「う~む……」


 ただ、気がかりな点もある。


 果たして俺程度で覚えられる補助魔法でメスガキヤツに取り入ることができるのだろうか……?


 魔法の実力は圧倒的に向こうが上。

 中途半端な魔法を引っ提げて出向いたところで、「いらない」のひと言でぶった切られる可能性がある(物理的にも)。


 くっ……やはりこのアイディアもダメか……?


 俺がそう諦めかけたそのときだった。


「あ」


 閃く。



「――プレゼント」



 ふと浮かび上がったワードに、俺はなんとなく光明が差した気がした。


 一般的に、プレゼントを喜ばない女子はいない。

 特に俺の調査では、ああいう生意気な小娘は他人に自慢できるものをプレゼントとして好む傾向にある。

 例えば学校に持って行って、「え~それどうしたの~!?」「すご~い! 私もほし~い!」みたいなことを言われたいと考える人種なのだ。


 実際、市場マーケットで発信機なんて入手するヤツだ。

 常に珍しいものにアンテナを張っているに違いない。


「いける……」


 徐々に自信が確信へと変わる。


 なにより師匠の本の中には、この発想を成功へと結びつけるためにうってつけの魔法があった。

 それが――。


「錬成魔法……コイツなら!」


【錬成魔法=アルキマイズ】

 物体を物質へと分解し、さらに別の物体へ具現化する魔法。

 まあ簡単に言ってしまえば、要らないモノを妄想で好きに作り変えちゃう魔法だ。リサイクルみたいなもんよ。

(『ゴブリンでもわかる魔法入門』より抜粋)


 俺はこの魔法で、モノを作り上げる。

 これなら異世界人であるという俺の特徴も活かせるうえ、珍しさという点でプレゼントとしてもってこいだろう。

 これなら絶対あのメスガキにも刺さるはず。


「クク……完ぺきだ」


 これぞズバリ――『ねぇキミ、ちょっとイイものあるんだけど……ほしくない?』作戦!!


 というわけで、やるべきことは決まった。

 あとは錬成魔法を習得し、あのメスガキが欲しがりそうな代物を作り出すだけ。

 なんてことはない。簡単なミッションだ。


「あれ?」


 だがしかし、ここにきて俺はある問題点に気付いてしまった。

 それはこの作戦の根幹を揺るがすほどの致命的な問題。




「……で、なにを作ればいいんだ?」


 そう、童貞が女の子の喜ぶプレゼントなど知るはずがないのだ。

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