第20話 こうして僕は30歳で魔法使いになった……いや、そういう意味の方ではなくガチで③
そうだ、ここからが俺の真の練習の成果だ……!!
その瞬間、俺はカッと目を見開いた。
「ふんっ……!」
伸ばしたままの右腕に意識を集中し、一気にこぶしを握り込む。
するとあろうことか、すでに俺の手からは離れていたはずの水流がピタリと停止した。
それも……メスガキの頭部を包み込んだまま。
「っ!?」
予想だにしなかった現象に、水の中でメスガキの目が大きく開かれる。
そう、これこそが俺の作戦。
そして
放出した水流を自在にコントロールし、メスガキを水でできた
名付けて、『いきなり地上でスキューバダイビング作戦』――!!!
クク……決まった。完全に決まった。
そうとも、単純な魔法の強さによる力比べでは俺に勝ち目はない。
そんなことは火を見るより明らかだ。
ならばどうする?
力で勝てないならどうすればいい?
そうして悩みに悩んで出てきたアイディアが、この水による窒息という方法。
これならば威力は関係なく、しかも少ない魔力で実現できて省エネ。
フハハ! これぞまさに知恵の勝利!
我ながらなんとえげつない作戦を思い付いたものだ……!
「…………」
メスガキの動きが完全に停止する。
恐らく何が起きたのかわかっていないのだろう。
フッ、まあ無理もない。感覚としては突然水中に放り込まれたようなものだ。
むしろ闇雲に暴れないだけ大したものだ。正直もっと慌てるかと思っていたのに。
だが、こちらとしてはむしろ好都合だ。
水流をコントロールする手間が省けるからな。
仮に動き回られても追尾できるよう練習を重ねてはいたが、動かないならそれに越したことはない。
コポポ――。
漏れた息が泡となって水中で弾ける音。
こうなるとこっちのものだ。息の補充はままならず、確実に窒息へと向かっていく。
ゴボゴボ――。
さらに漏れる。
もうすぐ吸い込んでいた分の息は底をつくだろう。
ゴボゴボゴボッ――。
……まだそんなに出るのか。肺活量すごいな。
その小さい身体のいったいどこにそんな空気が……コイツ水泳選手かなにかかよ? それとも前世が海女さんとか?
ゴボゴボゴボゴボゴボッ――――!!
うん……おかしい、よな?
え、これ大丈夫? ジェットバスどころの騒ぎじゃないんですが。
敵ながら心配になってきたんだけど……。
ゴボボボボボボボボボッッッッ!!!!!!!!
いやいやいやッ! ヤバいって! どうなってんのソレ!? なんかもうガスボンベ破裂したみたいな勢いなんだがっ!?
ど、どうする、いったん魔法を解くか……?
いや待て、それがヤツの狙いかもしれん。安易に動いて反撃されたら……うぅ~、でも万が一もあるし。
いくら積年の恨みがあるとはいえ、命を取るのは本意ではない。
くそ、四の五の言っている場合ではない。
取り返しのつかないことになる前に魔法を――。
ボシュゥゥゥウウウウウウウウウウッッッ!!!!!!!
と、俺が魔法を解除するより早く、水の塊がすさまじい勢いで霧散した。
え、ええええぇぇぇぇっ…………!?
目の前で起きた爆発とも呼べる現象に唖然とする。
なにがなんだかわからない。
だが、事はこれで終わりではなかった。
蒸気が天へと立ち昇る。
徐々に景色が晴れていく。
そして――。
「……やってくれたわね」
「ひぃ……!?」
そこにいたのは、まさしく“鬼”だった。
真っ赤に顔を紅潮させたメスガキが、阿修羅のような形相でこちらを睨んでいた。
あまりの迫力に圧倒され、思わず尻もちをつく俺。
「あっ……あぁっ……」
それと同時に、俺はようやく何が起きたかを理解した。
恐らく、メスガキは熱系統の魔法で水を沸騰させ消し去ったのだ。
息だと思っていたのは沸騰する過程でできた水泡。
圧倒的力業。
抵抗されることは想定していたが、まさかこんな返し方をされるなんて……。
もはや決着はついた。
俺の完敗だ。またしても、あのメスガキの方が俺より一枚上手だった。
だが、今はそんな事実よりもっと大事なことがあった。
「あんた……自分がなにしたかわかってる……?」
や、やべえ! めちゃくちゃブチギレてらっしゃる……!!
「あ、えっと……はい。魔法で水を操って窒息させようとしました……」
「……違う。そんなことじゃない」
「え……?」
ち、違うの……?
てっきり窒息させるなんて姑息な攻め方に怒ってるかと思ったのに……。
それとも魔法が使えるようになったことを黙っていたこと?
でもそれはさすがに言う義務はないし……。
――ギロッ。
「ひっ……!」
答えの出ない俺にイライラのピークに達したのか、さらにメスガキの眼光が鋭くなる。
こんなにギロッなんて擬音が当てはまる眼光初めて。恐すぎる。
ちょちょちょ、ダメだわかんねぇ……! いったいこの子はなにに怒ってるんだ……!? 誰か教えてくれ!!
ゆっくりとメスガキが近づいてくる。過去最大級の迫力とともに。
そして思いっきり右腕を振りかぶりながら、彼女はこう叫んだ――。
「女子の髪を不用意に濡らすなッ!!!」
ザシュッ!!
…………あぁ~、なるへそ。
☆本日の勝敗
●俺 × 〇メスガキ
敗者の弁:今だから白状すると、魔法を展開してるとき「あれ? 今解除したら服びちゃびちゃになってまたOPPAI見れるんじゃね?」ってずっと考えてました。(吉川)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます