第18話 こうして僕は30歳で魔法使いになった……いや、そういう意味の方ではなくガチで①
翌朝。いつもの草原。
最近また起床時間が早くなっている気がする。
なぜだろう? もしかしてだが、俺に魔力が宿り始めたことと何か関係があるのだろうか?
特に根拠はないのだが、なんとなくそんな気がした。
あーあ、そのあたりも師匠に聞いておけばよかったな。というか、住所やらいろいろ聞いとくべきだった。
せっかくの異世界出身同士、これでもう二度と会えないのはもったいなすぎる。もっと有益な話が聞けたかもしれないのに。
くっ、つい魔法が使えるかもとテンションが上がってそこまで気が回らなかった。
まあでも、案外あの居酒屋に行けばまた会えそうな気もする。
なんせボトルキープしてたくらいだし…………俺の金で。
礼を返すと言い出したのはこっちだから全然いいっちゃいいんだが、それにしても容赦なかったな……。
ちなみに昨日も例のごとくメスガキは草原にやってきたが、師匠の本は見つかっていない。
予め地面に埋めておいたおかげだ。
もし存在が知られたら最悪だったので、今朝掘り起こしたときは本当にホッとした。
俺が魔法を使えるようになっているかも、などと悟られたらもったいなさすぎる。不意を突けるという折角のアドバンテージをみすみす失いたくない。
それともう一つ。俺にはこの本をきちんと図書館へ返却するという義務があるのだ。
他人のせいで図書館の職員に怒られるなんてまっぴらごめんだ。
「さて……」
前置きが長くなったが、いよいよ魔法だ。
早速本を開く。
さてさて、いったいどんなことが書いているのやら……。
まずはパラパラとページをめくってみる。
さすが『ゴブリンでもわかる』と謳っているだけあって、図解が多く読みやすい。とっつきやすくて助かる。
そして肝心の内容だが、それも非常に解り易かった。
異世界人の俺にも、魔法を使っている自分の姿がきちんと想像できる。
各魔法の解説にはコツやワンポイントアドバイスなどが記されているのだが、どのようなイメージで魔法を放てばいいのか等の感覚的な話が多い。まるで書き手である師匠の思考を追体験しているようだ。
思えば、昨日もそんな感じだった気がする。
説明はフワッと、けれど結果的にきちんと俺は魔力を捉えることができた。
長年異世界人としてこの世界で過ごしたことで得た師匠の経験。
それがこの本に凝縮されている気がする。
ゴブリンでもわかる、と名付けたのは伊達ではないということだ。
……まあだからといってさすがにゴブリンは読めないだろうが。
いやでも、この世界のゴブリンがもし俺の想像するゴブリンと違って、海辺でハンモックに揺られながら読書をするのが日常みたいな知的生命体ということも……うん、ないな。
そんなインテリゴブリンいても会いたくない。そもそもゴブリンに会いたいとは思わんが。
「う~ん……どうしたもんか」
ひとしきり目を通したところで、俺は悩んだ。
開いたままの本を地べたに置き、腕を組んで唸る。
基本的に、ここに記されている魔法は練習すれば誰でも使えるようになるらしい。
『はじめに』のページにそう書いてあった。
――だが、ここで問題が一つ。
「いったいどの魔法を選択すべきか……」
そう、今の俺にはアレコレ手を出す余裕はない。
なんでも使えるようになるといっても、魔力にだって限りがあるだろうし全部習得は無理だろう。
それに仮にいくつも魔法を覚えられたとして、使いこなすというのはまた別次元の話だ。修練の時間がいる。
結局、まずは一個の魔法に全力を注ぐしかないのだ。
だがしかし、そうは言ったものの如何せん数が多い。
本にはゆうに100を超える魔法が収録されている。
攻撃系や回復などの支援系、その他の特殊なもの。しかもそれぞれに属性なんてあったりもする。
これで初心者向けなのだから、この世界にはとんでもない数の魔法がありそうだ。
こうなると迷う。迷いまくる。俺はこういうとき優柔不断なのだ。
より取り見取りなのはありがたいが、いっそ今のあなたにはこれしか使えなませんと言ってくれた方が楽だったかもしれない。
こんなときゲームだったら1回セーブして、試しに1個選んで気に入らなかったらまた戻してとかするんだがなぁ……。
あ~、どうしよう……マジで迷うな。
このままでは埒が明かない。
俺は今一度、自分の目的と向き合うことにした。
俺の目的……それはもちろん、あのメスガキを屈服させ、元の世界へと帰してもらうこと。
そしてそのためには、身動きを封じて反撃できないようにする必要がある。
というわけで、それを踏まえてもう一度最初から本を読み直す。
普通に考えれば、まず検討すべきは攻撃系の魔法だろう。
オーソドックスなのは炎やら雷やら氷だが……正直これらはすべて却下だ。
単純に出力不足。現状、俺にあのメスガキ相手にダメージを与えられるだけの威力が引き出せるとは思えん。
とすると、拘束魔法はどうだろう? それこそ動きを封じるという意味で。
これなら威力は関係ない。
……う~ん、微妙だ。
高度なタイプはできないため、俺ができるとしたらせいぜい縄などの拘束具を相手に射出するくらい。
が、これは簡単に避けられそう。仮に当たったとして、例のバリアに弾かれる危険性もある。
あれもダメ…………。
これもダメ…………。
どれもダメ…………。
「……」
マズいな……全然いい手が浮かばん。
それっぽい案が浮かんでも、どうしても素人の浅知恵感が拭えない。
なにより、俺のイメージの中のメスガキが強すぎる。
これまでの対決のせいで完全にトラウマを植え付けられてしまった。
生半可な手じゃまるで通用しないと身体の方が先に理解してしまっている。
ちくしょう、相手はたかが年下の女の子ひとりなのに……!
さっきから手刀で首を刎ねられるエンディングばかり浮かんでくる。
思わず首に手を当て、「ちゃんとつながってるよな……?」と確認してしまった。
「ん?」
ふと、なにげなく開いたページの“とある魔法”が目に留まる。
普通の魔法だ。全然特殊ではない。
たぶん、どんなマンガやゲームにもほぼ100%同じ系統のものがあるはず。
攻撃にも使えるし、日常でも役に立ちそうなタイプ。
だが……こんな方法で使おうという人間は少ない気がする。
俺は魔法そのものではなく、使い方に注目した。
本によると、この世界の魔法はどうやらあまり使い方を限定するということはないらしい。
さっき攻撃魔法で炎を例に挙げたが、別にそれを調理に使っても暖房に使っても問題はない。
逆に言えば、同じ魔法でも使い方次第で可能性は無限大に広がる。
「いけるかもしれない……!」
いける。これなら条件も満たしている。
威力はほとんど必要ない。ゆえに魔力が少なくても問題ない。
加えて成功すれば、相手は身動きが取れなくなり反撃も防げる。
なにより習得が簡単そうなのもいい。
本には『魔法はイメージ』と口酸っぱく書かれている。であれば触れたことのないモノよりも、日常にありふれたモノの方がよい。コレなら絶対毎日触っている。
本の返却期限まで一週間。それまでに形にできそうな気がする。
「クク……ククク」
思わず笑みがこぼれる。
よし、決まりだ。
「【
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