第8話 罠カード発動!……え?そんなのない?②

「よし、早速やるか」


 昨日のことはもういい。忘れよう。

 今日から本番。


 というわけで、俺は罠作りに取り掛かることにした。


 で、肝心の何を作るかだが……ここはやはりオーソドックスに“落とし穴”でいくにした。


 本当はもっと手の込んだものにしたかったが、冷静に環境を考慮するとコレしかなかった。

 俺が目覚める場所は決まってこの見晴らしのいい草原。である以上、立体的なものを作ろうとすると隠しようがないのだ。

 その点、落とし穴であれば隠蔽は比較的容易。草で隠せば上空からでも気づかれにくい。


 ―¬―そして一週間後。


「……完成だ」


 見事な出来栄えだった。

 自分で言うのもなんだが、もしかしたら俺には工作の才能があるのかもしれない。

 こうやって見ると、完全に他の地面と同化している。上だろうと横だろうと至近距離だろうと、そこに落とし穴があるようには全然見えない。

 下手するとうっかり俺が引っかかってしまいそうな勢いだ。マジで慎重に歩かないと恐い。


 クク、これならあのメスガキにも絶対気づかれんだろう。

 これでこの一週間の尊い犠牲たち(俺)の魂も報われる。


 ちなみに嬉しい誤算もあった。

 というのもこの一週間、徐々に起きる時間が早くなり続けていた。

 おかげで作業時間が増え、思ったよりずっと短い製作期間で済んだ。実にラッキーだった。


 なお、一応この一週間無抵抗だったかというとそうでもない。ちゃんと抵抗もした。

 ヤツの手刀を打ち破ろうと果敢に挑戦したのだ。


 とはいえ、そんなことしても無駄なのはもうわかってる。当然あっけなく返り討ちだ。

 だが、あえて本気で挑み続けた。その理由は二つある。


 一つは、罠から注意を逸らすため。

 あえて毎回少し離れた位置でメスガキを待ち受けることで、作りかけの落とし穴の存在をより悟られないようにするためだ。


 もう一つは、今日の本番に備えてのシミュレーションのため。

 勝負の際、俺は迫りくるメスガキの手刀をあえて余計な動きをせず真正面から受け止め続けた。それもこれも、真っすぐ俺に向かってくるよう仕向けるためである。


 いや、正確には俺に、ではない。

 その手前にある落とし穴に向かって、だ。


「……きたか」

 西の空に現れた小さな影に、俺は小さく呟いた。


「ふ~ん。今日もちゃんと起きてたんだ。感心感心。ま、すぐまた寝ることになるけど」

 フワリと地上に降り立ったメスガキは、相変わらず余裕綽々の態度だった。というか舐め腐っていた。


 くそ、ガキのくせに上から目線で物を言いやがって。だが、その油断が命取りだ。

 準備は万端、シミュレーションも完ぺき……やれるはずだ!

 自信と覚悟を内に秘め、俺はツインテールの死神と相対した。


「こい。今日こそお前の手刀を見切ってやる」

 あくまでいつもと同じように装う。

 絶対に悟られてはならない。俺は細心の注意を払いながら拳法家っぽく構えた。


 そんな俺を見て、メスガキが呆れたようにため息をつく。


「はあ。一週間もやってまだ懲りないの? ま、私は楽だからいいけど」

 なんとでも言え。今日でこの関係もおしまいだ。


 勝負開始。

 メスガキはやはりまっすぐとこちらへ近づいてきた。

 よし、ここまでは順調。命を削って刷り込んだ甲斐がある。


 ――あと5メートル。

 頼む。気づくなよ。


 ――あと3メートル。

 もう少し。あともうちょいだ。


 ――1メートル。

 …………ゴクリ。


 そして、“そのとき”がやってきた。


「はいはい、これでおしまい――」

 一歩。俺の作った落とし穴の真上に、メスガキの足が踏み込まれる。

 ズブリ、と沈むはずのない大地が地の底へ引きずりこまれる。


 きたッ……!!!

 心の中で叫ぶ。


『勝利』


 脳裏に浮かんだその二文字を、俺はたしかにこの手に掴んだ。


 …………はずだった。


 ピカッ。

 何かが光る。緑色の小さな光だ。

 その次の瞬間、不思議なことが起こった。


「おっと」

 ヒラリと宙に舞うメスガキが、落とし穴を回避して俺の背後に着地する。

 その身体は謎の光と同じ淡い緑色に包まれていた。


「なっ……!?」

 馬鹿な!? 躱されただと……!?


 ありえない。反応じゃ間に合わないタイミングだったはず。

 もしやこの前みたいに最初からバレていた……?


 いや違う。今のはもっと機械的な動きだった。

 まるで、みたいな……。


「ふ~、何かと思えばやってくれたね、おじさん。落とし穴か。いつの間にこんなの掘ってたんだか。でも残念だったね。私に罠は効かないから」

「!?!?」

 効かない!? 罠が!? いったいどうして……。


 驚く俺に、「ほらこれ」とメスガキが左の手首を掲げて見せる。


 ブレスレットだ。

 そしてよく見ると、謎の光の発信源はどうやらそのブレスレットのようだった。


「これ、実は罠除けの加護が付与されてるの。いわゆる『マジックアイテム』ってやつね」

「なっ……!?」

 マジックアイテム……? なんだそれ……!?


「ププ。せっかく頑張ったのに残念だったね。ムダな努力ごくろーさまでしたw」

「ぐ……」

「ま、でもいい線いってたよ。ムダだったけどw 実際気づかなかったし。ムダだったけどw」

「ぐぐ……」

 ちくしょう。一週間もかけたのにこんなあっさり……。

 てゆーかなんだよ罠除けって。ズルすぎるだろっ! 知らんわそんなんっ!


 プルプルと身体が震える。もはやヤケクソだった。

 こうなると、俺が取れる行動は結局一つしかない。


「う、うおおおぉぉぉぉ――!!」

 気づけば、俺は叫びながらメスガキに襲い掛かっていた。



 ザシュ。



 で、結果はいつもと同じ。


「じゃ、今日もごちそーさまでした。バイバイ♪」




☆本日の勝敗

●俺 × 〇メスガキ


敗者の弁:ある意味、今回は引き分けだと思っています。だって向こうは罠の存在自体には気付いてませんでしたし。アイテムの有無。正直これだけの差だったかと。え? それも含めて実力? 何を言ってるんですか怒りますよ。(吉川)

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