第13話 賑やかになっていく生活
「おはようございます殿下! いい朝ですなあ!」
目を覚まして外に出ると、突然大きな声が僕の耳を揺らす。
キーンとする耳を押さえながら声の方を見ると、そこには上半身裸で剣を振るガーランの姿があった。
朝から体を動かしていたみたいで、体からは汗が流れ湯気が登っている。
「お、おはようガーラン。朝から特訓?」
「はい! いついかなる時でも殿下をお守りできるよう、鍛えておかなければいけませんからな!」
ガーランはそう言うと再び剣を振るい始める。
ここしばらくは村も平和だけど、ガーランもレイラも鍛錬を欠かしていない。
二人の指導のおかげで村の兵士もどんどん強くなっていってるみたいだし、とても心強い。いつどんな敵がやって来ても大丈夫だろう。
「殿下は散歩ですかな?」
「うん。早く起きちゃったから少し見回りでもしようかなって」
「それは素晴らしい。なにか揉め事がありましたら私を呼んで下さい。どこにいようと飛んで参じます!」
「ありがとう、頼りにしてるね」
そう言ってガーランと別れた僕が次に向かったのは、村の中央にそびえ立つ巨大な世界樹。まだ生まれて間もないというのに、世界樹はすくすくと育ちもとの世界に見劣りしない立派な姿になっていた。
「うーん……この像、なんとかならないのかな?」
世界樹の前にたどり着いた僕は、そこに佇む自分の像を見て呟く。
エルフの人たちは世界樹の僕の像に毎日祈りを捧げている。僕の像はしばらくしたら撤去できるかなと思っていたけど、それはまだ叶っていない。
それどころか最近はエルフ以外の村人も祈りを捧げているところを見た。
「自分の像が祈りを捧げられているのを見るのは恥ずかしいんだけど……どうにかならないのかな」
「ふふ、それだけ旦那様が愛されているということですよ」
「わっ!?」
突然話しかけられ、驚いて振り返るとそこにはエルフの長、アンナさんの姿があった。その後ろには妹のエレナさんの姿もある。
「アンナさん、こんな朝早くからどうしたんですか?」
「この世界樹の様子を見に来たんです。私たちは聖樹の巫女、世界樹の成長を見守るのも使命の一つなのです」
アンナさんはそう言うと、世界樹を右手で触り目を薄く開ける。
世界樹を見る目は凄く優しく慈愛に満ちている。エルフの人たちにとって世界樹はかけがえのないもの。それを守ることができて本当に良かった。
「……と、そうそう旦那様。たまには私たちの家にもいらしてくださいね。私はもちろん、エレオノーラも寂しがっておりますので」
「んな……っ!!」
アンナさんの言葉にエレナさんが顔を真っ赤にさせて反応する。
「姉上!? なにを言っているのですか! こ、ここいつがいなくて私が寂しがっているだなんて嘘はやめてください!」
「あらそう? 寝言で旦那様の名前を呼んでいましたがあれは違うのでしょうか」
「そんなことしていませんっ!!」
エレナさんはそう強く否定するけど、アンナさんは「あらあら照れちゃって」と全く聞いていない。
それにしてもエレナさんが僕の名前を呼んでいたなんて本当なのかな? 想像つかないけど。そう思っているとアンナさんは僕の右腕にいきなり腕を回してくる。
「あ、アンナさん!?」
突然のことに驚いていると、なんとエレナさんも左腕に腕を回してくる。
「世界樹の力は日に日に強くなっています。イルミア様が力を取り戻す日も近いでしょう。これも全て旦那様のおかげ……ありがとうございます。恩に報いるためにもこの聖樹の巫女の力、旦那様と村のために使わせていただきますね」
「ふん……まだお前のことを認めたわけじゃないが、まあ世話になっているのは確か。仕方ないから力を貸してやる。い、いいいい一応、私はお前の妻だからな、うん」
「アンナさんにエレナさん……はい! 頼らせていただきますね」
村の人数が増えたとはいえ、まだまだ課題は多い。
王座奪還の件もあるし、きっとこの先も大変なことはたくさんあるだろうけど、頼もしいみんながいれば、きっと乗り越えていける。
新しくできた頼もしい仲間を見て、僕はそう思うのだった。
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