第11話 温泉で疲れを癒そう!

「ふう、今日も疲れた……」


 宴を終えた僕は、疲れを取るために露天風呂に足を運んでいた。

 今はもう心も体もすっかりこっちの人になってしまったけど、僕も元々は日本人だ。温泉を愛する気持ちはまだ残っている。


 エルフの人たちにも温泉は人気らしくて、みんな一日の疲れを癒やしている。

 村の人たち用の入浴施設もいくつか作ってあるので、最初に作ったここは僕専用の温泉だ。


 前にアンナさんにエルフ風呂に一緒に入ろうと言われたことがあるけど……流石にその時は遠慮した。

 アンナさんだけじゃなくてその場にいた他のエルフの人たちの目も怖かったし……身の恐怖を感じたからだ。今でも思い出すだけでぶるりと体が震える。


「まあ今は一人だから関係ないんだけどね。さ、体を洗おうかな」

「えっと、石鹸はこれでいいのかな?」

「うんいつもそれを使っ……ええ!?」


 突然背後から聞こえてきた声に驚き、振り返る。

 凄い既視感デジャブを感じる。確か初めてこのお風呂を作った日にもレイラが勝手に侵入してきた。

 またレイラが同じことをしたのかと思ったけど、振り返ったそこにいたのはなんとレイラじゃなかった。


「アイシャさん!?」

「こんばんはテオくん。おじゃまするね」


 アイシャさんはいたって普通に、まるで部屋にお邪魔してきた時くらいの感じで言う。

 だけどよく見ると耳が真っ赤になっている。恥ずかしいならなんでこんなことを!?

 普段はゆったりした服を着ているからあまり体のラインが目立たないアイシャさんだけど、今は薄いタオルを軽く巻いているだけだから色々見えちゃって目のやり場にとても困る……。

 まあメイド服も露出高めではあるんだけど。


「ど、どうしてアイシャさんがここにいるんですか?」

「えっと、その、テオくん今日もたくさん働いたから疲れてるんじゃないかって思って。ほら、私も一応メイドさんだし、ご主人様の疲れを癒やさないといけないからっ」

「そういうものですか……?」

「そういうものだよ、うん」


 少し強引な気もするけど、アイシャさんはレイラの弟子なのでそういう教育を受けていてもおかしくない。いやむしろ自然だ。

 とっても恥ずかしいけど、ここまでさせて帰すのも可哀想だ。僕はそれを受け入れることにする。


「……分かりました。それじゃあお願いしていいですか?」

「っ! うん! 頑張るね!」


 パッと明るい笑みを浮かべたアイシャさんは、手にしたスポンジを石鹸とこすり合わせ、たくさんの泡を作って僕の体を洗い始める。

 うう……恥ずかしい。体のあちこちにやわらかいものが当たっているし、アイシャさんが動くたびなんだかいい匂いがする。


「大丈夫? かゆいところとか、ない?」

「は、はい」

「よかった♪」


 実際アイシャさんの洗い方はとても丁寧で気持ちが良かった。

 恥ずかしいことを除いたら毎日でも受けたいくらいだ。これもレイラに教わったのかな? 一般的なメイドの心得ではなさそうだけど……。


 そんな感じでしばらくなされるまま洗われていると、いつのまにかアイシャさんは僕の正面に来ていた。そして僕の手や腕をごしごしと洗いながら、その大きな目で僕のことを覗き見てくる。


「ねえテオくん。私、今とっても幸せなの」

「アイシャさん……?」

「きっと私だけじゃない。村の人たちも同なじ気持ち。みんなで楽しく働いて、美味しいものを食べて、安全なところで寝られる……前にいた村とは比べ物にならないくらい幸せな生活を送っている。これも全部テオくんのおかげだよ」

「そんな! みんなが手伝ってくれているおかげですよ。僕はただきっかけを作っただけで」


 自動製作オートクラフトの力があるとはいえ、僕にできることは限界がある。

 こうしてみんなが楽しく暮らせているのは、間違いなくみんなのおかげだ。僕の方こそみんなに感謝の気持ちでいっぱいだ。


「テオくんはそう思ってるかもしれないけど、みんなはそうは思ってないよ。私もそう……」


 言いながらアイシャさんの顔がゆっくりと近づいてくる。

 ほんのり赤く上気した頬と濡れたまつげが、いつもより彼女を綺麗に見せる。


「私、テオくんが好き。優しくて頑張りやさんで、とっても強くて頼りになるテオくんが大好きなの。私はレイラさんみたいに凄い剣士じゃないし、ルーナさんやアリスさんみたいに特別な力も持ってないけど……それでも大好きなテオくんの側にいたい」

「アイシャさん……」


 突然の告白に僕は驚き絶句する。

 弟くらいにしか思われてないのかと思ってた。まさかこんなに好意を持ってくれていたなんて……恥ずかしけど、嬉しく思ってしまう。


「ありがとうございます、アイシャさん。僕もその、アイシャさんのことは……好き、ですよ」


 勇気を出してそう言うと、アイシャさんはガバっと更に距離を詰めてくる。

 もはや僕の視界にはアイシャさんしか映っていない。


「だめだよテオくん、そんなかわいいこと言っちゃ。私、我慢できなくなっちゃうから」

「アイシャさん……?」


 なんか目が怖い。急に寒気がしてきた。


「私は普通の女の子だから加護はつかないけど、その分たくさん『愛』は込めるから……!」

「それってどういう……んむっ!?」


 アイシャさんは僕を抱きしめると、唇を重ねてくる。

 包容力抜群の、優しいキス。それを突然食らった僕の頭はくらくらしてしまう。


「好き……大好き♡」


 その後もたっぷり甘やかされてしまった僕は、お風呂に入る前よりも疲れた状態で解放されたのだった。

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