第四章 エルフに会いに行こう!
第1話 収穫しよう!
アダマンタートルを倒してから、もう一週間の時が経った。
あれからはモンスターの襲来もなく、僕たちは平和な日々を過ごしていた。
畑を耕し、美味しいご飯を食べて、仲のいい人たちと過ごす。充実した毎日だ。
神の鍬で耕したこの土地で育った作物は、全て美味しい。
だからこそこの土地で育った
そして今日とうとう、それは完成したんだ。
「できた……! これでとうとう
僕の目の前に広がるのは黄金色に輝く
日本人のソウルフードと言ったらやっぱりお米。この世界ではお米は一般的に食べられていないから、ずっと食べたかったんだ。
「これが稲、ですか。どうやって食べるのか見当がつきませんね」
稲を見たレイラは首を傾げる。
料理経験豊富な彼女も初めて見るみたいだ。
ちなみにこっちの世界にも一応稲はあるみたいだ。実は昔一度だけ手に入る機会があったのでお城でこっそり炊いてみたことがある。
だけどとても日本のお米とは比べ物にならないほど、美味しくなかった。こっちの世界で流行らないのも当然だ。
だからもうあの懐かしい味を食べることは諦めたんだけど、女神のヘスティアさんにお願いしてみたら、なんと日本のお米の苗をもらうことができた。
善は急げ。僕は
試しに稲に『鑑定』をしてみると次のように出た。
稲(品種:こしひかり) 品質:至高
魚沼原産こしひかり。
ふんわりとした甘みともちもちとした食感が特長。
駄目だ、説明だけでよだれが出てくる。
13年間禁米してた禁断症状が出てしまう……早く食べたい!
「それでこれはどうやって食べるものなのでしょうか?」
「えっとそれは脱穀して……って、そうだ。ここから結構やることあるんだ……」
お米は収穫してからも工程が結構あったはず。
脱穀する機械とかは
「あれ、これってもしかして。
能力を発動すると、稲が一瞬で『白米』へと姿を変えた。
もう後は炊けばご飯になる状態だ。べ、便利過ぎる。そういえば麦を一瞬でパンにすることもできたっけ。なんでもありだねこの能力。
「よし、じゃあ後はこれを炊こう! レイラ手伝って!」
「かしこまりました。全力でサポートさせていただきます」
ご飯用の石釜を作り、ご飯を炊き始める。
基本的なことをレイラに教えると、彼女は僕よりも手慣れた感じでお米を炊いてくれた。
そして待つこと数十分。蓋を開けるとそこにはツヤツヤの白米が出来上がっていた。ふんわりと立ち上がる湯気に、粒だったお米たち。見てるだけでぐうとお腹が空いてくる。
「凄いですね、輝いています」
「早く食べよう!」
作っておいたしゃもじでお椀によそって、まずはなにもつけずに食べる。
口の中にふわっと広がる甘みと懐かしい食感に、僕は感動する。
「おいしい……」
まさに僕が前の世界で食べていた味だ。
この土地で取れたものだからか、むしろ前の世界のものより美味しいとすら感じる。体が変わっても心は日本人だったみたいで、僕はがつがつとお米を食べ進める。すると、
「ほう、いい匂いがするではないか。珍しいものを食べているな」
「なにそれ!? 私の分はないの?」
近くを通りかかったルーナさんやアリスもやって来て、最終的には村の人大勢を巻き込んだ大試食大会が開かれてしまう。
急いで僕とレイラはお米をたくさん炊いて、みんなに振る舞う。
「なんだこれ! 美味しい!」
「落ち着く味ですね」
「これはルカ村の名物になるんじゃないか?」
村の人たちはみんな笑顔でお米を食べる。
どうやらみんな気に入ってくれたみたいだ。嬉しい。
「わんっ!」
「シルクも食べる? はい」
物欲しそうにねだってくるシルクにあげると、美味しそう食べてくれる。
見れば他のフェンリルも美味しそうに食べていた。この分なら田んぼはもっと広げて良さそうだね。
「テオドルフ、もう少し貰ってもよいか?」
口の端にご飯粒を残しながら、ルーナさんが物欲しそうに尋ねてくる。千年の時を生きるフェンリルには見えない可愛さだ。
僕は釜の底に残ったご飯を丸めて、少し塩をかける。
日本のソウルフード『おにぎり』だ。ルーナさんはそれをもぐもぐと美味しそうに食べる。
「うまいっ! テオドルフの作るものはなんでもうまいなあ。このおにぎりという食べ物は、食にうるさいエルフも欲しがるであろうな」
「エルフ、ですか?」
ルーナさんの言葉に僕は反応する。
この世界には『エルフ』と呼ばれる種族が存在する。
長い耳と整った容姿を持つ人型種族で、森の中に住んでいるという。人間より優れた魔法能力を持つ彼らだけど、その数はとても少なくて人の前に現れることはほとんどないという。
僕も本で見たことがあるだけで、実際に見たことはない。一度会ってみたいと思っていたんだ。
「実はこの北の大地にはエルフの住む里がある。……とはいえ最後に行ったのは100年以上前のこと。あそこも瘴気に侵されつつあったから今も残っているかどうか……」
「そうだったんですね……」
この土地には人間はめったに来ない。エルフが住んでてもおかしくはないか。
それにしてもそのエルフの人たちは気になるね。もしまだその里があるなら、同じ土地に住むものとして仲良くできるかもしれない。
「ルーナさん、そのエルフの里に案内してもらうことは可能でしょうか?」
「ん? 構わんぞ。だが……奴らは『人』をあまり好まん。敵意を向けられる可能性があるぞ」
「構いません。瘴気に困っているのであれば、放っておくことなんてできませんから」
ルーナさんの目をまっすぐ見ながらそう言うと、ルーナさんは「そうか」と納得してくれる。
「覚悟が決まっておるならよい。なに、我も一緒に行く。エルフが襲ってきても一捻りにしてやろう」
「はは、あんまりやり過ぎないでくださいね……?」
こうして僕は新たな仲間を探しに、エルフの里に行くことになったのだった。
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