第21話 要塞化しよう!

「アダマンタートルは、その名の通り超絶硬い鉱石『アダマンタイト』のごとき硬さを誇る巨大なだ。大砲も剣も効かない、正真正銘の化け物。それが奴だ」


 兵士たちを前に、サナさんがそう説明してくれる。

 冒険者としての経験豊かな彼女は、モンスターにとても詳しい。彼女がいてくれて良かった。


「生命力も高いこいつを倒すには、体の中心部を叩く必要がある。手足をいくら切ってもすぐ再生されるのがオチだ。首を斬り落とすという手もあるけど……オススメできない」

「それはなぜですか?」


 兵士の一人が尋ねる。


「奴の首はとびきり硬い・・。お嬢とそこの強いメイドさんでも斬り落とすのは難しいだろう。ゆえに叩くなら比較的柔らかい体内だ」

「でもサナさん。アダマンタートルの甲羅って硬いですよね。どうやって体内まで攻撃を通すんですか?」


 次に僕が質問すると、サナさんは待っていましたとばかりに「良い質問です、殿下」と言ってくれる。


「奴は巨大な魔力の塊を吐き出し、攻撃手段として用います。その隙を狙ってあの『魔導砲』を撃ち込んでやるのです。さすがの奴も体内が爆発すれば活動を停止するでしょう」

「なるほど……」


 難しそうだけど、確かに他に方法はなさそうだ。

 やってみる価値はある。


「ということはアダマンタートルを足止めする手段が必要ですね。城壁を増やし、要塞化する必要がある。後はレイラとアリス、ゴーレムたちには足を攻撃してもらって動きを鈍くする……とかですかね」

「はい、それが最善だと私も思います。そして……この策の要はテオドルフ様です。アダマンタートルが来るまで時間がありません、それまでに防衛態勢を整えなければ勝機はありません」


 サナさんの言葉に、僕はこくりと頷く。

 大変そうだけど、やるしかない。必ずこの村を守って見せる!


◇ ◇ ◇


 その日はみんな夜通し作業をした。

 資材を集め、物を運び、そして僕がクラフトする。


 地竜と飛竜から取れた魔石をゴーレムにして、人手を足したことでなんとか時間までには間に合いそうになった。

 村の東部だけだけど、立派に要塞化されつつある。これならアダマンタートルでもそう簡単には突破できないはずだ。


「……もう朝か」


 気がついたら地平線から太陽が登っている。

 明るくなったことで、遠くから歩いてくるアダマンタートルのことを肉眼で見ることもできた。まるで山が歩いているみたいだ。あんなのがここに来ると考えると恐ろしい。


 だけど頑張らなくちゃ、城壁の上で一人そう覚悟を決めていると、誰かが階段を登ってやってくる。


「あんたまだ起きてたの? 準備はほとんど終わったんだし少し寝たらどう?」


 呆れたようにそう言ってきたのは、アリスだった。

 彼女も夜通し作業をしていたはずなのに元気そうだ。勇者の体力はやっぱり凄い。


「そうはいかないよ。僕は責任者だし最後まで見届けないと……」


 そう言って歩き出そうとすると、足元がふらついて倒れそうになる。

 するとアリスが素早く僕を受け止めてくれる。


「言わんこっちゃないわね。ほら、少し休みなさい」


 アリスはそう言って近くの椅子に僕を座らせる。

 強気な発言が目立つ彼女だけど、心根はとても優しい人なんだ。


「ごめんね。アリスには助けられてばっかりだ」

「……なに馬鹿なこと言ってんのよ。私のほうが助けられてるわ」

「え?」


 なんのことか分からず、首を傾げる。

 僕がアリスを助けたことなんて今まであったっけ? 記憶を遡ってみるけど、思いつかない。


 するとアリスはそんな僕の様子を見て「はあ」と呆れたようにため息をつく。

 そして鈍い僕にそれを説明してくれる。


「……私は8歳の時、突然女神様に『勇者』として選ばれた。それ自体は女神様に感謝してる、だけどそのせいで私は『勇者』としてしか扱われなくなったわ」


 勇者は人類の希望だ。

 勇者が見つかると、すぐに専門の育成プログラムが組まれて、様々な訓練を受けることになっている。

 剣技、魔法、そして戦いの知識。厳しい訓練をアリスは受けてきた。


 その間アリスは王都のお城で暮らしていたから、僕は彼女と知り合いなんだ。


「別に勇者として扱われるのが嫌だってわけじゃなかった。でも……誰も私を一人の人間として見てくれなかった。注目されるのは私の中にある勇者の力だけ。私個人を誰も見てはくれなかった」

「アリス……」


 その気持ちはなんとなく分かる。

 僕も周りの人から王子としてしか扱われず、寂しい思いをした記憶がある。


 そんな僕が病まなかったのは、母上と騎士ガーランのおかげだ。

 母上は息子として接してくれたし、ガーランは僕にまるで対等な友人のように接してくれた。


 だけど親からも離されたアリスにはそういう人はいなかったんだろう。


「でも……そんな私にも一人だけ、私を私として扱ってくれる人がいた。それがあんたよ、テオ」


 突然名前を呼ばれて僕は「えっ」とすっとんきょうな声を出す。

 まさかここで僕の名前が出てくるとは思わなかった。

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