第17話 素材を回収しよう!

「みなさんの頑張りのおかげで、地竜だけでなく飛竜まで撃退できました! ありがとうございます!」


 ひとまずアリスのことは後回しにして、兵士の人たちに労いの言葉をかける。

 すると兵士の人たちも勝利の実感が湧いてきたのか再び歓喜の雄叫びを上げる。きっとこのことは彼らの自信に繋がるはずだ。


 次に僕が行ったのは、倒した地竜と飛竜の回収。

 竜の硬い鱗は防具になり、牙や爪は武器となる。肉は栄養満点で美味しくて、血も薬に使える。


 竜の素材は無駄なところなどなく、その全てが役に立つ。他のモンスターが食べに来てしまう前に全部回収しないといけない。


自動製作オートクラフト、荷車!」


 大きめの荷車をいくつか作り、そこに竜を乗せていく。

 引っ張るのはゴーレムたちだ。人はその補助をする。竜の体は重くてとても人じゃ運べないからね。なぜかレイラは一人ですいすいと運んでたけど。


「半分は持っていったかな? じゃあ残りは……次元収納インベントリ!」


 運びきれなかった竜は次元収納インベントリに収納する。

 うわ、容量ギリギリだ。感覚でこれ以上は入らないっていうのが分かる。


 でもこれでも最初より物が入るようになってたりはする。収納能力もだんだん進化してるんだ。いつかは村まるごと収納とかもできるかもしれない。


「テオ、その能力ちから隠さなくなったのね」


 回収作業をしていると、アリスがそう話しかけてくる。

 彼女は昔から僕の『自動製作オートクラフト』の力を知っていた、数少ない人物なんだ。


「うん。最初は不安だったけど、みんなすんなり受け入れてくれたよ」

「よかったわね。あんたいきいきとしてるわよ」


 確かにアリスの言う通り、今の生活は楽しい。

 もっと早くこの能力を使い始めるべきだったかもしれない。


 ……いや、でもそうしてたら父上やニルスになにを言われたか分からないか。あの二人は戦闘能力の高さしか評価しないから見下されただろう。

この能力も戦えないわけじゃないけど、あの二人の求める分かりやすい強さじゃないからなあ。

 結果として追放されるのが正解だったかもしれない。


「ていうか気になってたんだけど、ガーランはいないの? こういう力仕事ならあいつが適役でしょ?」

「ああ、ガーランは一緒に来てないよ」

「は!? なんであいつが来てないのよ!」


 アリスは驚いたように声を上げる。


 ガーランは、以前僕と仲の良かった王国騎士だ。

 "鉄壁"の二つ名を持つ凄腕の騎士で、おおらかで優しい人だった。アリスも彼に剣を習っていたことがある。


「アリスと最後に会ったあと、他の地方に飛ばされちゃったんだ。ガーランは強いけど、平民出身だからよく思ってない人も多い。発言力があまりない僕じゃそれを止めることはできなかったんだ」


 平民出身の騎士が父上に気に入られるのが気に食わなかった他の騎士がやったのか、それとも僕が強い騎士を抱えていることを気に食わなかったニルスが手を回したのか、実際のところは分からない。


 もし一緒に来てくれたたら心強かったのになあ。


「はあ、本当に貴族ってクソね。もう一発あのバカ王子をぶん殴ってこようかしら」

「それはいいね。僕の分もお願いしようかな」


 しゅ、しゅ、とシャドーボクシングをするアリスに、僕はそう言う。

 するとアリスは「任せなさい!」と大きく成長した胸を叩く。頼もしい限りだ。


「あの、テオドルフ様。少しよろしいでしょうか……?」

「はい?」


 振り向くとそこには商人のローランさんがいた。

 後ろには後輩のアンさんもいる。どうしたんだろう。


「どうかしましたか?」

「実は竜の素材を私どもにも卸していただきたいのです。竜の素材は貴重でして、どこの商会も喉から手が出るほど欲しがっているのです」


 なるほど。早速商談というわけだね。

 これだけたくさんの素材を目にして、待ちきれなかったんだ。


「ええ、もちろん構いませんよ。ただ僕の村でも使いたいので、それほど多くはお売りできないと思いますが」

「はいもちろんです。そもそも今の手持ちですとそれほど多く買い取れません。地竜の鱗を少々と飛竜の翼膜を数枚。それと竜の血を樽一杯程度でしょうか」

「え、それだけでいいんですか?」


 地竜と飛竜、どちらも10匹くらいは倒しているはず。

 もっと欲しがると思ったんだけど、意外と少ない。


「本当でしたら何匹か丸ごと買い取りたいところですが、とてもではありませんがお金が足りません。竜の素材は高価ですからね」


 ローランさんはそろばんを叩いて僕に買取価格を教えてくれる。

 そこには目が飛び出るほどの金額が出されていた。竜一匹でそこそこ大きなお家が建つ金額だ……。


「こ、こんなに竜って高いんですね」

「はい、竜を仕留めるのはもちろん、その素材を街まで運ぶのも大変ですからね。新鮮な素材が街に届くのはまれなのです。今回の素材は死後すぐに解体できますから状態もよいですからね」

「なるほど。そうなんですね」


 ここ北の大地は瘴気の影響でモンスターが出現しやすい。それは普通デメリットに感じるけど、逆にモンスターの素材が手に入りやすいというメリットにもなる。

 まだ村は北の大地の端っこだからそこまでモンスターはいないけど、中央まで開拓し始めたらもっとモンスターが現れるはず。そしたらレアな素材がたくさん手に入るかもね。


 元ゲーマーとして、レアな素材には心を躍らさずにはいられない。楽しみだ。


「分かりました。それでは先程おっしゃっていた量の竜の素材をお売りします。ぜひお役に立ててください」

「あ、ありがとうございます! 商会を代表してお礼を申し上げます!」


 ローランさんは顔をパッと明るくする。

 彼にはお世話になっているし、喜んでもらえるのは嬉しい。


「ねえテオー、私お腹空いてきたんだけど」


 ローランさんと話していると、アリスがすねたように服の端をくいくいと引っ張ってくる。気が付けば時間は夕方、僕もお腹が空いてきた。


「村に戻ったらご飯にしよっか。竜の肉も悪くなる前に食べちゃおっか」

「やった! ほら、早く行きましょ!」

「わ!? ちょっと危ないって!」


 急に元気になったアリスに手を引っ張られて、僕は村に戻るのだった。

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