第15話 飛竜も倒そう!

 飛竜はその名の通り、空を飛ぶことができる竜種だ。

 別名ワイバーン。前足が翼になっていて空を自在に動き回ることができる。

 地竜より軽く、力も弱いが、鋭利な爪と牙を持っていて危険なモンスターだ。中には火を吹く種類までいる。


「地竜だけじゃなくて飛竜まで来るなんて、いったいなにが起きてるの?」


 テオドルフはその理由について思考を巡らせようとして、それをやめる。

 今は撃退するのが先だ。考えるなら後でできる。


「魔導砲の弾を拡散弾に変更してください!」

「は、はい!」


 テオドルフの指示を受け、兵士とゴーレムたちが魔導砲の弾を変更する。

 そして照準を空に向けて、発射準備を整える。


「発射!」


 号令とともに、弾が発射される。

 しかし空を飛んでいる飛竜に、直撃せず個体同士の間をすり抜けてしまう。


 外した。そう思うローランだったが、テオドルフはそれも折り込み済みであった。


「今だ!」


 砲弾がカチ、という音と共に起動し、爆発する。

 その衝撃波は大きく広がり多くの飛竜たちを巻き込む。


 先程テオドルフが使用させた『拡散弾』は、直撃を狙わない特殊な弾だ。

 発射後、周囲にモンスターを感知すると起動し、衝撃波を周囲にばらまく仕様になっている。これなら空中にいるモンスターを効率的に倒すことができる。


「飛竜たち大量撃破を確認! 残り二体がこちらに接近しています!」

「二体だけだからなんとかなるかな。この距離で拡散弾を使ったらこっちまで衝撃が来ちゃうからお願いできる?」

「はい、もちろんです」


 そう言って前に出てきたのは、今まで控えていたレイラだった。

 飛竜を相手にするというのに、彼女はいつも通り冷静沈着だった。


「竜と戦うのは久しぶりですが、あの程度の飛竜でしたら問題ないでしょう」


 飛竜は城壁に高速で接近してくる。

 レイラは城壁の先端部に立つと、腰に差している銀色の剣に手をかける。


「オルスティン流剣術――――銀閃」


 とっ、と城壁から跳躍したレイラは、目にも留まらぬ速さで剣を抜き放つ。

 そして閃光が走ったかと思うと、飛竜の体が空中で真っ二つになってしまう。かつて"天剣"の二つ名で呼ばれた彼女の神速の剣技は、メイドとなっても鈍ることはなく、むしろ更に磨き抜かれていた。


「あと一匹……」


 レイラは落ちる飛竜の体を足場にして、もう一体の飛竜に接近しようとする。

 しかし仲間がやられたことで焦ったその飛竜は、方向転換をしてレイラを避けて城壁に向かおうとしていた。


 間に合うか、いや間に合わせる。

 レイラがその飛竜になんとか追いつこうとしたその刹那、地上から影が跳躍しその飛竜に追いつく。


「あんたの相手は……こっちよ!」


 元気で可愛らしい声が響く。

 その声の主の少女は飛竜に急接近すると、手にした剣を振るう。

 すると先程と同じ様に飛竜の体は両断されてしまう。突然斬られた飛竜は驚いたように目を見開きながら落下していく。


「え、だれ!?」


 突然のことにテオドルフも驚く。

 この村にレイラと同じ様なことができる剣士は他にいないはず。いったい誰が来たんだと、テオドルフはその少女が着地した場所に駆ける。


「ふう、大活躍だったわね」


 その少女は城壁の上で満足気に笑みを浮かべていた。

 彼女の顔を見たテオドルフは、驚いたように声を上げる。


「アリス!? なんで君がここにいるの!?」


 赤いツインテールと気の強そうな目が特徴的な少女は、アリスであった。

女神に選ばれた勇者として、各地で戦っているはずの彼女がなぜここに? テオドルフは混乱する。


 一方アリスはテオドルフを見つけて嬉しそうに彼に近づく。


「あ、いたいた! テオ! あんたが北の大地に追放されたって聞いて来てあげたわよ! きっと一人で寂しく生活して泣いていたんでしょ? しょうがないから私が慰めてあげ……って、なんか人多くない? なんで?」


 アリスはここに来て初めて他にも人がたくさんいること、そして殺風景な村がかなり発展していることに気がつく。


「そんな! 私の完璧な計画が……っ!」


 寂しがっているテオドルフを慰めるという計画が崩れ、アリスはショックを受ける。

 テオドルフはいったいなにから彼女に説明すればいいだろうと悩みながら、彼女に近づくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る