再成のリンカーネーション

スマ甘

あの日みた風景

「私の名前は調律者チューナー。 並行世界を調律・・し、そこから獲たエネルギーで大元の――『オリジナルの世界』を運営している者です」


 寝て起きたら世界が変わってて、いろいろと状況を把握したのがつい30分ほど前。 

 新しい世界を受け入れて、意気込んで、「物語はここからだ! 」ってタイミングでこの状況である。


「ここは?」


 ボクの体が変な光に包まれたと思ったら、違う場所に転送されてました。


「ようこそいらっしゃいました、牧野エリガ様。 いえ、マキ・ノリエ⋯⋯」

「その名前を口にしたら二度と口をきかないよ」


 そこは、宇宙空間に浮かぶ大きな部屋で、殺風景な部屋の真ん中には大きなテーブル、天井には太陽系を模した照明がある。


「これはとんだ失礼を。 ――ここは私の職場みたいなものです。 ここから、多種多様な並行世界を観測しているんですよ」

「パラレルワールド⋯⋯」


 ボクの目の前に居るヒトは、普通の人間の外見をしてない。

 ヒト型のヤギというか、どこかの神話に出てくる悪魔みたいな、そんな姿をしていた。


Theyゼイ・エリガ様から、新しい世界について感想を聞かせてもらおうかと思いまして」

「新しい世界って⋯⋯、世界をめちゃくちゃにしたのはあんたなの?」

「はい、そうです」


 とんでもないことをしておいて、にっこりと笑えるコイツの本性がわからない。

 とりあえず、コイツが事件の原因で黒幕なのはわかった。

 はじまりがいきなりクライマックスなのも理解した。

 けど、コイツを倒す方法なんてわからないし、やたらなことをして世界が元に戻らなくなっても困るから、いまは話を聞こう。

 

「どうしてそんなことを⋯⋯」

「別に特別なことではありませんよ。 他の並行世界でも、ゼイ・エリガ様が過ごしていた世界のように、それまでの世界に並行世界を上書きた事例はありますから」

「――ボクのことは呼び捨てでいいよ。 でも、なんでひとつの世界に別の世界を書き込むなんてことをしてるのさ」

「エリガ様に誤解されるのを承知で言いますと⋯⋯もったいないから?」

 

 もったいないから。 その言葉を発したとき、チューナーはすこし困ったような表情をした。

 たぶん、自分がやっていることを正しく説明できたか考えているのかな?

 

「もったいない?」

「私が理を書き換えた世界は、どちらも維持に必要なエネルギーを消費するばかりで、オリジナルの世界に負担をかけるだけ。 つまり、残す価値の無い世界でした。 ですが、その世界を壊してエネルギーを獲ても、回収できる量も少ないんです」

 

 説明しながら、チューナーはテーブルの上にティーポットやお菓子をテレポートさせる。

 そして、慣れた手つきで紅茶をいれはじめた。

 

「だから、足りない同士を融合させて、本来無くなる予定だった世界を残すことにした⋯⋯ってこと?」

「片方の記憶と記録のみを活かし、もう片方から情報や技術、理を組み込む。 そうして新たな世界を成立させ、その世界のニンゲンに繁栄してもらうことで、オリジナル世界の維持に使うエネルギーを作ってもらうことにしたんです」

「でも、その世界のヒトたちの記憶とかはどうなるの?」

 

 ひとつの世界に別世界の情報を上書きされたら、上書きされた世界のヒトたちが持ってた記憶とか人格は消えるかもしれない。

 どうしてもそのことが気になって、チューナーに聞いてみたんだ。

 

「上書きされた世界のヒトから、元々の記憶などが消えることはありません。 上書きに使った世界の記憶と記録は、そのヒトたちから見れば夢の中の出来事だったように把握されますから」

「明晰夢ってやつみたいに?」

「それに近いかもしれません」

 

 ボクの新しい物語は、殺風景な部屋でナゾの人物と話すことからはじまった。

 ボクの人生が小説だとして、これを読むのが気の短い読者だったら、いまごろページを閉じてるんじゃないかな?

 

「ですが、上書きされた知識と経験は反映されますし、上書きに使った世界が魔法の存在する世界であれば、上書きされた世界もまた魔法が存在する世界になりますね」

 

 じゃあ、ボクの世界はどんな世界に生まれ変わったんだろう⋯⋯。

 

「ボクの世界はどうなったの⋯⋯?」

「――いまの時間だと、エリガ様は目を覚まし、自分の横で寝ていたナゾの男の存在に気づいてパニックとなり、1階のリビングに行ったら、両親までナゾの存在と共に朝食を摂っている光景に出くわした頃になりますね」

「まさか、書き換えた直後からボクに目をつけてたの?」


 ずっと見られていたと思うと、ぞっとする。


「違いますよ。 あなたの小さな願いが、私が新しい世界を作るのにちょうど良いと思ったから、目を付けていたんです」

「ボクの、願い?」

 

 ボクは聞き返す。 チューナーはまたにっこりと笑う。

 

「物や歴史が、新たな生命に生まれ変わればいいのに。 あなたはそう願っていましたよね?」

「あれはただ、なんとなく思ってただけだし」

 

 ただ、学校に行ってもつまらなくて、寝て起きて学校に行く日常がイヤになってただけ。

 それで、自分だけの物語を考えて、小説として書いてみただけだ。

 

「エリガ様の世界は、なんの変哲もない、オリジナル世界とほとんど変わらない世界でした。 ですので、物や歴史が生命体に生まれ変わる理が存在する世界を上書きしたんです。 すこしトラブルも起きましたが」

「トラブル?」


 まさか、みんな記憶を失っちゃったとか?

 

「ひとつのゲーム会社のキャラクターが一堂に会して大乱闘する対戦ゲームをロボットモノにして、自分最強設定の二次創作を書いてるクメル様が居る世界を探すのが大変で」

「いますぐその作品のことは忘れて。 他人からその作品のことは聞きたくない」

 

 コイツ、いつからボクに目をつけてたんだ⋯⋯。

 

「あと、星の狐に出てくる星の狼の隊長とあなたが恋愛する夢小説⋯⋯」

「やめろ」

「冗談ですよ。 トラブルは、あなたが行っていた二次創作が原因ではありませんから」

「じゃあなんでここで本人に対して黒歴史を語るようなことをしたの?」

「趣味です」

 

 ――コイツ、いつか絶対ぶっとばす。

 

「トラブルは、私と同類のような⋯⋯まぁ、似た存在から干渉を受けたというものですね」

「似た存在?」

「ブローカーごときが私の世界に干渉してきて、世界を運営するプログラム内にバグを混ぜやがった⋯⋯という感じでしょうか?」

 

 紳士的な表情を崩して、荒っぽい言葉使いまでしたってことは、相当やばいことをされたってことなのかな?

 

「どんなバグ?」

「本来、私が考えた世界は、生まれ変わったモノたちと人間が共存し、日常を楽しむものだったんです。 ですが、あのクソ野郎が仕込んだバグのせいで、ヒトが恐怖の対象としているものがモンスターとして生まれるようになったんです」

「バグは直せないの?」

「不可能です。 あのクソ野郎は私と言語や成り立ちが違いますから」

 

 平和だった世界が、モンスターのせいで変わってしまった。


「さらに、干渉によって一部のヒトには記憶の喪失も起きています。 私は失われた記憶の中身まで把握することはできませんが、エリガ様も少し記憶を失っていますね」

「知らないうちに記憶喪失、か」


 でも、そんなことで絶望はしない。

 

「とりあえず、ボクたちはモンスターと戦わなきゃいけないってこと?」

「あなたの世界は時系列も変わっています。 エリガ様は、あの世界の歴史で半世紀前から続くモンスターとの戦いに参加するんです。 特別な力を使って」

「トクベツな力⋯⋯」

「あなたの二次創作から設定をお借りして、自分の願いを武器にできるようにしたんです」

 

 自分の願いを武器にして、モンスターと戦う。

 世界の仕組みも、これからボクがやらなきゃいけないこともわかったけど、チューナーの目的も知りたいなと思っていたり。

 

「ボクたちがモンスターと戦うことで、チューナーにも何か恩恵があるの?」

「ありますよ。 エリガ様たちがモンスターと戦い、新たな歴史が作られていくことによって、私は世界の維持に必要なエネルギーを回収できます」

「エネルギーの回収⋯⋯」

 

 なんかこのヒト、苦しむ少女たちの前に現れては契約を持ちかけて、願いを叶えてあげたと思ったら、少女を絶望させて怪物にするクソッタレな白いアイツみたいに思えてきた。

 アイツも、宇宙を維持するエネルギーを集めてたし。

 

「私はあんな白い小動物とは違います。 ヒトの命を消費してエネルギーを回収するのは非効率的です」

「だから、世界を繁栄させてエネルギーを回収するんだ」

 

 ヒトの心を読むのはやめてほしいと思ったけど、言わないでおく。

 ボクはもうすぐ、元の世界に戻されるはずだから。

 

「そろそろエリガ様を元の世界に戻さねばなりませんね。 そうしないと、世界は動き出しませんから」

「ボクまで世界の一部にしてたの?」

「機能が安定するまでの間だけです。 安定したらあなたも自由になれますよ」

 

 といっても、伝えなきゃいけないことができたとかで、すぐこの部屋に呼び出されるんだろうけど。

 

「元に戻す時間は、あなたが1階に降りるところで良いですか?」

「その時間でいいよ」

「承知致しました、エリガ様。 では、転送の用意をさせていただきます」

 

 そう言ったあと、チューナーがボクに手をかざす。

 そして、ボクの足下に魔法陣が現れた。

 

「武運長久を、エリガ様。 私は、あなたが作る未来をここから観測しています」

「ボクに声をかけるのはいいけど、緊急の要件がある時だけにしてよ」

「かしこまりました。 緊急時にのみ、エリガ様をお呼び致します」

 

 ボクの体が、光に包まれる。

 もうすぐ、元の世界に戻れるんだ。

 

「またお会いしましょう、エリガ様」

「いろいろとありがとう、チューナーさん。 お話ができて良かったよ」

 

 別れ際に言葉を交わす。

 その直後、目の前が真っ暗になった。

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