第8話 教室にて

 少年のたわいものない一言から、金槌坊かなづちぼうたちはモンスターを作ることになったらしい。まあ、ダンジョンにモンスターが出たら面白いだろう。特に気にすることはないと思っていた。まるで、部屋の模様替えでもするような気持ちでしかなかった。



 最初にすべきことは整理整頓、何処に何を置くか、頭の中でダンジョンの光景を思い出してた。

 教室に向かいながら、モンスターについて考えてみることにした。



 ドワーフとモンスター、悪くないな。

 ドラゴンとかがいたらいいな。


 きっと、エリアのボスとして登場させたい、今度、金槌坊かなづちぼうに頼んでみようかな、すっかり、生徒会長のことなど忘れてしまっていた。



 ただ、気になることがある。金槌坊かなづちぼうたちが言っていた『黒い石』というのは自分が壊した石のことではないだろうか、あの石にそれだけの力が会ったのだろうか、そんなことを考えながら、ダンジョンを出ることにした。既に授業が始まっているらしく、生徒の姿はなくなっていた。




 3階の一年生のクラスの廊下を歩いていく。


 

 ただ、スクイ少年の魂に妖力がまとわり付いていた。野球ボールをすりつぶした力。きっと、自分もあやかしと呼ばれるべきなのかもしれないと少年は思っていた。



 少年は教室のドアを開けた。1時間目の授業は終わっていたので、教室の後ろ側で女子生徒たちが楽しそうに騒いでいた。

 


 自分の席に座ることにする。

 生徒たちを見渡して、生徒会長がいないことにほっとしていた。


 しばらくして、野球部の生徒がやってくる。




 彼は八町ヤマチ翔平ショウヘイという。

 笑顔が素敵なスポーツマン。


 誰にでも優しくて、対応に分け隔てもない。女子生徒から人気があるらしい。

 身長は190センチぐらい。

 背が高く、真っ黒に日焼けした顔が少年の方に向いていた。



「なあ、スクイ君。この前、話をしていたこと考えてくれた?」

 と、翔平の声がした。


「え、何だけ?」

 と、少年は言う。


 とっさのことで身構えていた。

 これ以上、面倒ごとにはかかわりたくないと思った。



「野球のこと。頼むよ。助っ人を頼めないか?」


「ああ、助っ人のことか……」


 少年はほっとしていた。

 その姿を見ると、翔平は笑っていた。


「試合に出るため、1人、部員が足りないんだ。助っ人が必要でさ」

「なるほど、そうだっけな…」


 スクイ少年は小学生の頃は野球部に所属していた。

 部屋に閉じこもっていたせいで、父親に連れていかれたせいである。


 だから、助っ人を頼まれていた。



 今更、野球なんてできるんだろうか、そんなことを考えていた。

 すると、翔平はミコト生徒会長のことを話していた。



「そう言えば、朝、生徒会長と話をしたことが話題になっているみたいだけど…。生徒会長と何かあったのか?」

「ああ、あれか、よくわからないんだよ」


「そっか。オレ、生徒会長みたいなタイプが苦手でさ…」

「お前にも苦手な相手とかいるんだな。まあ、わかる気がするわ……」


 その時、教室のドアが開いていた。


 噂をすればである。

 生徒会長がスクイ少年がいる教室に入ってきていた。


 仲間を連れてきていた。

 生徒会長の後ろに、背の高い女子生徒、筋肉質な男子生徒が付いてきていた。




「スクイ君、君に話があるんだけどいいかな? どうか、私のものになってくれないか?……」

 と、生徒会長の声がした。



 びっくりしたようにスクイ少年が生徒会長の方に視線を向けていた。

 3人の上級生が彼を見つめていた。



「な、突然、なんですか?」



 と、スクイ少年が返事をした。



 すると、生徒会長の横にいた大きな男がスクイ少年の前にやってきた。

 彼の名前は剛力雄太郎というらしい。


 副会長兼、パワーリフティングの選手をしていると言っていた。

 


「生徒会長、待ってください! こんなやつのどこが良いんですか? オレからしたら、まったく力など感じることがありませんけどね……」


 

 副会長はゴツゴツした体をしていた。

 ゴリラのような体つき。

 おっさんのような顔が少年を睨みつけていた。



 ただ、副会長の意見は正しい、と少年は思う。何故、自分が生徒会に入らなければならないのか、それとも「私のもの」とは何なのか。そんなことを考えていると、生徒会長が連れてきたもう一人の生徒の声が聞こえてきた。 



 女子生徒から厳しい声をかけられた。


 「あなた、今朝生徒会長の指示に従わなかったわね。これは命令なのよ!! 従わなければ、化け猫の力であなたを猫の従属にしてしまうわよ!!」


 彼女の名前は猫又股子。

 学校では生徒会の書記として知られ、人気者の猫又さんと呼ばれているらしい。


 副会長と猫又さんが迫ってくる。この状況にどう対処すればいいのか。少年は何もすることができなかった。いや、「猫の従属」というのはなんだろうか、意味が分からず、ますます少年は困惑していた。


 その時、ミコト生徒会長の声が聞こえた。


「みんな、待って。ねえ、スクイくん、生徒会に入ってほしいの。だから、ここに来たのよ。ちょっと一緒に来てくれる?」


 生徒会長の優しい声が聞こえてきていた。

 少年は、机に顔を埋めていた。


 何も見たくない。生徒会長なんてやりたくない。ずっと、ダンジョンを作り続けたい。

 どうしてこんなことになったのか。


 その言葉が頭の中で渦巻いていた。しかし、どうすることもできないことはわかっていた。

 少年は顔を上げると、生徒会長を見つめていた。



「わかりました。ただ、今は時間がないんです。放課後、ゆっくり話しをすることはできますか?」


「いいわ。放課後、生徒会室で話しましょう」



 ミコト生徒会長が答えた。


「わかりました…」


 と、スクイ少年は返事をした。


「逃げたら許さないわよ……」




 すると、猫又さんは、猫のようにキラキラとした目で、少年を睨みつけた。

 少年はコクンとうなずいていた。




 生徒会の3人が教室から出ていくのを見つめていた。

 なんてめんどくさいんだ~~。やっぱり、学校に来なければよかったんだよ~、と少年は思っていた。

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