第6話 告白

 少年は走っている生徒会長の背中を見つめていた。



 おかしなことが起きようとしているな、と少年は思っていた。何か、対応策を練るべきかと考えたが、結局、何も考えることができず、少年は学校の通学路を歩き始めることにした。



 信号が青に変わる。



 その途端、生徒たちが一斉に歩き始めた。


 少年はたくさんの生徒たちの後を付いていくことにした。校庭では、野球部のメンバーが集まり、練習を始めていた。まだ夏の暑さが残っており、自転車が数台、楽しそうな会話をしながら、少年の横を通り抜けようとしていた。



 強い風が吹いていた。

 青々とした木々の葉が揺れていた。



 少年は学校に向かう坂道を登っていく。

 後ろから声が聞こえると、2人の女生徒が走ってきた。



「もー、早くしないと学校に遅れちゃうよ!!」



 たくさんの生徒が歩いている。


 

 ただ、少年は生徒会長のことを考えていた。ミコト生徒会長にあやかしの魂を宿しているとしたら、それは偶然ではなく、何かしらの意図があったのではないかと考えていた。



 ああ、勘弁してほしい。

 そんなことあるはずがない、そう思うと、少年は顔を左右に振っていた。


 

 生徒会長は模範生徒であり、文武両道の優等生である。うっかり、あやかしの話なんてしたら、どんな目にあうかもわかったものではない。



 「そうだ、見なかったことにしよう」と少年は思った。

 「あれは間違いだ」と自分に言い聞かせる。



 ただ、納得できるだろうか。

 頭の中は、それほど簡単には整理できないでいた。



 校庭を歩いていると、グラウンドでは野球部の練習が行われているようであった。 

 校内では吹奏楽部が練習しており、楽器の音が外に漏れ聞こえてくる。



 音楽室の音が大きかったせいだろう。

 そのせいで、野球部の声が聞こえなかったのかもしれない。



「あぶなーーい!!!」


 

 突然、野球部の大きな声がした。

 しかし、登校中の生徒たちには野球部の声が聞こえなかったらしい。



 ふと、少年が上空に視線を向けた。



 そこに野球部のボールが飛んできていた。

 2人の女子生徒の方へと野球のボールが向かって飛んでいった。



 ぶつかる。



 2人の女子生徒は間違いなく怪我をしてしまうだろう。

 助けなくては……と思う。



 その時である。

 少年の体が熱くなっていた。




 ズキッ!!!




 胸が痛くなる。

 段々と胸が熱を帯びていた。



 魂が燃えているようであり、体が壊れそうな感じがしていた。

 魂が震えていた。

 気が付くと体の中に不思議な力が入り込んでくる。



 その時、上空にある野球のボールが擦り切れていた。

 パラパラ。パラパラと……。



 野球のボールが粉々になって、徐々に消滅していった。

 消えて、なくなる。

 最後には、欠片すら残らなかった。



 頭が痛い。

 その時、少年は意識が途切れそうになっていた。




「君、大丈夫!? ところで、君。何で、妖力を使えるんだ!?」



 誰かの声が聞こえてきた。



 視線を向けると、ミコト生徒会長が立っていた。



 まさかと思う。

 生徒会長が妖力について語っていた。これは、彼女もこの力を知っているということか? 少年は、この不思議な力が何なのかを知りたかった。




 これが妖力というものなのか……。

 あやかしにはそのような力があるのだろうか……。



 いや、わからない。

 生徒会長も、同じような力が使えるんだろうか。




 頭が痛い。

 スクイ少年は花壇の近くに座っていた。



 グラウンドの方から、野球部の生徒が走ってきていた。



「ああ、ごめんなー。わりぃ、わりぃ……」



 野球部の声が近づいてきた。どうやら彼らはボールを探しているようである。


 ミコト生徒会長は、彼らを鋭い眼差しで睨んでいた。その視線を受けた野球部の生徒は、明らかに怯えた表情を浮かべていた。

 そして、野球部の生徒は校舎の花壇へと走り去った。


 その間、周囲はざわめきに包まれていた。登校中の生徒たちが、野球のボールが消滅する様子を目撃したに違いない。スクイ少年の内にもあやかしの魂がざわついていた。その魂を抑えつつ、少年が立ち尽くしていると、その前にミコトが歩み寄ってきた。



「スクイ君、君はどうしてそんな能力を持っているんだ!? いったい、何があったんだ!?」




 ミコト生徒会長が少年の肩をつかむ。


 彼女に問い詰められる中で、いつもは冷静な生徒会長が、困惑している表情でスクイ少年を見つめていた。



「聞きたいことがある。どうして君はそんな力があるんだ!?」

「生徒会長、ちょっと、待ってください……」



 スクイ少年は戸惑ってるふりをしていた。



「もしかして君は朝廷の使者にでもだまされて、変なことになっているんじゃないかと思ってるんだよ……」

「朝廷の使者?」



「そうだ、君は関係者なのか?」

「そんなの知らないです…。いったい、生徒会長が何を話をしているのか、自分にはよくわかっていないのです……」

「ああ、そうか…。わるい、冷静ではなかったな…」


「あの、話していることがわかりません。ただ、生徒会長は妖力の話をしているんですよね?」

「ああ、もちろんさ!」


「あの、この能力は何なんですか?」

「その話はあとにしよう。それより、私はずっと君に会いたかったんだ……」



 生徒会長が少年の手をつかんでいた。

 両手掴つかんでいた。



「え、ボクに会いたかった!? それは、どういう意味ですか!?」


 少年は驚いた声を上げた。突然の生徒会長の告白のような言葉に、驚きが込み上げてきた。


 ミコト生徒会長が握っている手を解こうとした。

 しかし、握る手は強く、少年はどうしてもそれを解くことができなかった。


 ミコト生徒会長が語り掛けてきていた。


「ずっと、君を探していたんだよ。私のものになってくれ!!」



 彼女は真剣な顔をしていた。その表情を見て、スクイ少年の胸のあたりが熱くなり始めた。

 あやかしの魂のせいだろうか。

 その気持ちに気づいていたが、少年は心を落ち着かせようとしていた。



「ちょっ、ちょょっと、待ってください。徒会長は何を言っているんですか!?」


「私は真剣だよ。君は半身はんしんなんだ!! 私のものになってくれ!!!!!」



 ミコト生徒会長の声が聞こえてきた。

 何が起こったのかと。

 その声に引かれるように、近くを歩いていた生徒たちが次々と2人の方へ視線を送っていた。



「あり得ないですよ、そんなことあり得ないですから!!」


 スクイ少年の声が聞こえてきた。

 ただ、生徒会長は真剣な顔をして少年を見つめていた。

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