第3話 あやかしの魂

 その夜、土砂降りの雨が降り続けていた。


 少年は部屋で横たわり、苦しげな声を上げていた。窓ガラスには彼の苦痛に満ちた顔が映り、生気を失ったかのように青白く見えた。妖気を帯びた石を壊したことにより、彼の体は熱を帯び、右半身が動かなくなっていた。


 前世からの記憶のような景色が浮かんでいた。見たこともない山々や川が頭の中に現れ、頭の中が混乱していく。雨のせいだろうか、段々と体が冷えてくると、少年の体は凍結するかのように冷たくなっていった。


 おやしろにあった丸い石を壊してから、数時間、少年は意識を無くしていたらしい。その間、少年は誰かの声が聞こえてきていた。



 知らない声が聞こえる。



 「石を壊してくれ……」と、その声は語りかけていた。

 その声が語り掛けてきた。

 


——やっと、目を覚ましたようだな。ずっと、語りかけていたというのに気が付いていなかったのだがな。いや、何かがおかしい。この世界に妖怪を甦らそうとしているみたいだな。きっと、地獄につながる穴でも開けようとしているのだろう。なあ、少年、いまのオレには魂が半分しかないみたいなんだ。もう半分のオレの魂を探してくれないか?




 その声を聞き、少年は目を覚ましていた。

 

 

 

 彼は起き上がろうと試みたが、右半身に重りが乗せられたかのように動かなかった。部屋でずっと眠っていたような気がしていたが、同時に見知らぬ山の中を走っていたような感覚が残っていた。ここは一体どこなのだろうか。



 いや、これは夢なのだろうか。

 

 


 声がまた聞こえてくる。



 

——少年、それは呪いだよ。オレの力を使ってお前の右半分を動かせるようにしてやろう。だから、オレの魂を探してもらいたいんだ……




 少年は頭の中で囁いてくるあやかしの声を聞いていた。



「あなたはいったい誰ですか? ぼくはただダンジョンを作りたいだけなんです!」



——オレが誰かだって? 


「そうです……」




——さあ、それはわからない。何か使命があったような気がする。ただ、それを思い出すことができない。ただ、お前に声をかけていた。その声が聞こえるようになったのはあの石の力だろう。金槌坊かなづちぼうが探し当てたんだろう? 特殊な石に違いない。ただ、何も思い出せない。俺は記憶を失ってしまったようだ……



「記憶を失っている?」



——そう、おかしい話だと思うだろ? それを否定はしないよ。だけど、自分が何者であったのか、それすら覚えていないんだ。突然、この世界に戻ってきていた……



「あの、ぼくの呪いって何ですか?」



——そうだ、呪いのこともある。お前は、呪いをかけられてしまったのさ。その呪いを解いてやる。だから、オレの魂の半分を探してきてほしい……



「た、魂ですか?」



——なんだ? 何かがおかしいな……



「え、どうしたんですか?」



——誰かがオレの力を押さえつけようとしている。しばらくしたら、オレは何もできなくなってしまいそうだな。最後に、お前の呪いを押さえつけておくことにする。お前は右半身を動かすことができるだろう。その間に、オレのもう片方の魂を探してほしい。そうだ、オレには世界を変えられるだけの力があった。少年にもその力を分けてやることだってできるから……




 


 声が途切れると、少年は深い闇の中へと落ちていった。


 何か異変が起ころうとしている。

 少年は、自分の中に別の魂が溶け込んでしまったような感覚に襲われた。




 周囲には誰の声も届かない。

 深い闇の中を落ちていく。少年はずっと眠り続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る