第5話

 やがて、フォロワーが30000人になった。

 相変わらず、山BからDMを貰ったことへの批判が続いていた。


『病気のファンはいっぱいいるのに、この人だけずるい』

『最初からそのつもりでツイッターやってるんじゃないの』


 私は開き直って、山Bのツイートを毎回リツイートする。

 すると、山Bが『リツイートありがとう!』と返してくれた。

 さらに、ごみ虫たちが群がる。


『そろそろ〇にかけてるのに山Bのツイート見てて怖い』

 →『いいじゃない。死ぬまでファンなんだから』と知らない人が返信していた。


 ツイッター内で、アンチと心のきれいな天使たちが戦い始めた。

 ちょっと面白かった。


『私は山Bが十代の頃から応援してました。まぶたをプロデュースもう一回みたいなぁ…どうしたら見れるんだろう』と、私のツイート。

『あの頃もかっこよかったなぁ…』

『横アリに行ったのもいい思い出❤』

『これからも国際派俳優として活躍してほしい。新作見れなかったのは残念だけど』


 すると、山Bから再びDMが届いた。

『お見舞いに行きたいんですけど、どこの病院か教えてもらえませんか?』

 私は飛び上がるほどうれしかったけど、丁重にお断りした。

『どうしてもお礼を言いたいんです。今まで長いこと応援してくれているって聞いたので』

 それでもお断りして、三回くらいやり取りが続いた。

 私は判断力をなくしていたので、病院名と本名を書いてしまった。


『では、明日の3時くらいに伺います』


 私はドキドキして待った。髪が抜けてしまったから、介護士さんに帽子を買って来てもらった。化粧品は持って来ていないから諦めた。全身がりがりで肌にシミが浮き上がっている。こんな姿で会いたくなかったけど、病人だからあちらも気にしないだろう。


 2時になった。


 私は緊張してずっとツイッターを見ていた。

 みんなこれから私の病室に山Bが来ることを知らないで、ツイートしてるわ。

 馬鹿どもめ。


 そして、3時になった。


 もう来ちゃう。

 どうしよう。

 どうしよう。

 どうしよう。


 助けて!


 3時半だ。

 もしかして、ちょっと遅れるんだろうか。


 私は待ち続けた。

 やっぱり、お忙しいんだろう。


 4時だ。

 

 もしかしたら、日付間違ったかな…。

 そんなことはない。


 5時。


 やっぱり来なかった。


 あ~あ…。

 楽しみにしてて損した。


 すると、病室に一人の男性がすーっと入って来た。

 年齢的には二十代だろうか。チェック柄のフエルトの生地のダサいシャツを着ていた。

 中背で髪形がイケメン風だけど、よく見るとそれほどでもない。

 目が一重で切れ長だ。

 

 入院患者のネームプレートを一人一人見ながら、こちらに歩いて来る。

 お見舞いだろう。

 向かいに入院している若い子の彼氏かな。いいなぁと思う。


 そして、私のベッドのところまで来て、私のネームプレートを見ると、私の顔をまじまじと見た。今もその顔は忘れない。ほくろがいっぱいある顔だった。


 私はぺこりと頭を下げた。


 しかし、その人は何も言わず、Uターンして帰って行った。


 もしかして、山Bのふりをして私にDMを送って来たのか…。本当にいるとは思わなかったのだろう。なりすましだったのか…ぞっとした。


 もう一度ツイッターを見たら、昨日山BからもらったDMが見られなくなっていた。

 アカウントを削除したのだ。


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