第3話



 もう、馬鹿みたい…


 なに、一人で勝手に期待してるのよ…


「あの山の峠道の途中にさぁ…

 絶好の観測場所があるんだよ…」


 そんな自分勝手で勘違いな昂ぶりの想いを他所に…

 部長は一人でそのスーパームーンの観測に盛り上がり、夜空にうっすらと見えている、県境の山を指差しながら、峠道へとハンドルを切った。


 そして車は軽快に、峠道を左右に曲がりながらゆっくりと登っていく…


「ほら、着いたぞ」


 山の斜面に面した開けたカーブ沿いの、約自動車三台分程の広さのスペースに車を停める。



「う、うわぁ…」

 すると、正面の夜空には降り注ぐ様な煌めく星々と、青く、蒼く、光輝く、巨大な満月が…

 まるで、手を伸ばせば届くかの様に、夜空に浮かんでいた。



「う、うわぁ、す、すごい…」


 その月の…


 満月の、あまりの巨大さに…


 その青く、蒼く、輝いているその月の光の明るさに…


 心が震え、一気に昂ぶってくる…


 本当に凄く…


 そして、神々しい輝きである…


「月は、月はさ…」


 その月を見ながら部長が囁いてきた…


「月はさ…」


 すごい不思議な魔力があって…


 満月の夜は、犯罪率や、交通事故率が高く上がるんだって…


 それは…


『満月の狂気』


『ルナティック』

 

 等と呼ばれているんだ…


「狂気…ルナティック…」

 わたしはドキドキと高鳴ってきていた。


 なぜならば…


 そう囁いてくる部長の雰囲気が…

 明らかに変わったのが感じられてきたからである。


 ドキドキ…

 心が高鳴り、昂ぶってくる…


 そして視線は、いや、心までもが、この目の前に浮かんでいる

『ブルームーン』

『スーパームーン』に魅了され、魅せられていた。


「そう…狂気…」

 

 あっ…


 部長の手が、膝に置いてあるわたしの手に触れてきた…


「この月の…満月の引力が…」


 人を…


 男を…


 狂わせる…んだ…


 そう囁きながら、キスをしてきた。




 ああ…


 心が震え、とろけてしまう…


 この満月の…


 青い…


 蒼い…


 ブルームーンの…


 青い光に包まれ…


 蒼い光に抱かれ…


 そしてルナティックな狂気に落ちていく…


 

 夏の夜の夢…


 狂気の…


 ルナティックブルー…





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ルナティックブルー アリス @camys

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