おむかえ

鈴乱

第1話

※作者注 フィクションです。

―――――――――――――――――――――


「おやおや、遅いお着きで」


 にこにこ笑いながら、どやどやと騒々しくやってきた人々を迎えに出る。


「ここの店主か!?」


「いかにも」


「詐欺の容疑で逮捕する!」


「あぁ、はいはい」


 特に抵抗する気もない。抵抗するだけ、彼らの感情に油を注ぐだけなのは自明の理だからだ。


『じゃあ、中から拝ませて頂きましょうかねぇ』


 そろそろ市井での生活にも飽いたところだ。ちょうどよいところに来てくれた。

 次は警察の中からでも、この世界を眺めるとしようか。


「お仕事、ご苦労様ですねぇ」


 そうやって素直に声をかけてやれば、相手は目を吊り上げて疑いの目を向けてくる。


 さしずめ『何の魂胆だ』とでも考えてらっしゃるようで。


 魂胆なんてないですけどね。ただ、率直にそう思っただけで。




 逮捕、か。おもしろいことだ。


 実に面白い展開がやってきた。


 ……わくわくする。



 生きている途中で気づいてしまったが、私はどうやら刺激を求めてやまない性格のようだ。


 とても弱い生き物を装いつつ、その実、この世界を十二分に楽しみたい。そういう欲求が心の奥に巣食っている。


 人生のすべては「ゲーム」なのだ。


 どんなゲームでもいい。どんな展開でもかまわない。


 それが、たとえ誰かをひどく傷つけるとしても……私は私の快楽のために、ゲームを演じる。


 できれば、あまり他者は巻き込みたくないが……この世界のルールがそれをよしとしないらしい。


『面倒なことだな』


 きっとここで私が捕まれば、親兄弟へ連絡でもいくのだろう。


『ひとり、静かにしていたいというのに』


 私のその小さな願望は叶わないらしい。


『……いっそ、操っちゃいましょうか』


 人を操るなんて造作もない。私を好きにさせて、気に入らせて、こちらのために動く駒となってもらえばいい。


『あなたがたは……、何に飢えて、何を欲しているのでしょうね?』


 険の宿った警官の顔をこっそり眺めながら、頭の中でそろばんをはじく。

 

 計算通りに動けば、私の勝ち。計算通りに動かなかったとしても……それはそれで楽しい展開。どっちに転んでも、私は愉快でおもしろい。


 さぁ……、せいぜい、私を楽しませて下さいよ?


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おむかえ 鈴乱 @sorazome

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