強制送還

鈴乱

第1話



「強制送還とは……っ」


 ギリ、と唇を噛み締める。


「不本意! 実に、不本意だ!」


 自分のミスだとは理解している。

 だからと言って、到底納得できるものではないが。


 強制送還の指令が出たのは三か月前。

 私は激高する自分の意識を、必死になだめつつ、この敗北を認めるしかなかった。


 流石に帰還直後は荒れた。

 荒れに荒れた。


 放心状態にもなった。

 悔しさのあまり、食事も喉を通らなかった。

 どんどん痩せていった。


 だが。


 それで終わる私ではない。

 敗北を敗北のまま、終わらせる私ではないのだ。


 現実、三か月もたてば、文句をギャンギャン言えるレベルには回復するのだ。


 まぁ……帰って早々暴れた咎で、半ば軟禁状態ではある。


 しかし、ならば、その状況でやれることを考えて実行するのみだ。



 送還先の者どもは知らない。私が、消えていた間にしてきた努力を。

 私が私を諦めずに、与えられた環境の中で精一杯考えて、動いて紡いできた日々を。

 私を応援してくれた人々が、その姿でもって私に与えてくれたものを。


 

 私は、強制送還までに、何もしてこなかったわけではないのだ。


 そして、私の周囲にいた勇気ある人々によって、私の命は繋がれてきた。



 だから。


 決して諦めるわけにはいかない。


 私は私を諦めるわけにはいかないのだ。


 決して。



 私が私を諦めては、私を信じ、私を愛してくれた人々に顔向けが出来ないからだ。


 愛など、と笑う輩が多いかもしれない。


 それでも、私は、彼らが彼らなりに私に向けてくれた愛情に応えたいと思うのだ。


 強制送還という、憂き目に遭おうが、そんなものは箔がついた程度のものだ。


 私が、さっさと乗り越えてしまえば済むことだ。



 その一歩が、こうして文句なのか決意なのか分からない言葉を紡いでいくことだ。



 ふっふっふ。


 待っていろ、世界。


 私とは、人間とは、ただ運命だと諦めて嘆くだけの弱い存在ではないのだ。


 嘆いた過去があるなら、嘆く必要のない現在に変えていけばいい。


 悔しいと涙を流した日があるなら、それを糧に前に進んでいけばいい。


 長い人生。立ち止まっても、動けなくても、泣き暮らしても、それでもいい。


 それでもいい。


 諦めさえしなければ、道は必ず開く。


 必ず。必ずだ。



 悲劇は、悲劇のままで終わらせはしない。


 悲劇なぞ……、ひっくり返してやるためにあるのだから。



 さぁ、始めようか。


 強制送還を経て、さらにたくましくなった、本物の私の華麗なる復活劇を。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

強制送還 鈴乱 @sorazome

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る