きみにあいたい

成瀬七瀬

 

 ああ、どれぐらい歩いてきただろう? 振り返っても真っ直ぐな道の地平線がぼんやり見えるだけだ。


 ふと気付くと足元にゴキブリがいた。私は短い悲鳴を上げて飛び退く。


 ここらへんは汚いもんなぁ。


 たくさんの死んだ人が重なっている山を見上げる。服は着ていたり着なかったりだ。あまり見ていると知ってる顔を見つけそうだったから、やめた。




 ああ、きみにあいたい。




 陽炎がゆれる前方に目を凝らすと人影が見え隠れしていた。私はちょっと悩んで、でもこのまま歩いていても埒があかないし、と思ってその人影に向かって歩いていった。


 手を上げながらそーっと歩く。よく見るとその人は見慣れない服を着ていた。そーっと歩く。その人は背中を丸めて、何かに怯えて……ああ、この背中だ。なつかしい、ずっとずーっと見ていた背中だ。




「ユウちゃん!」


 思わず声を上げる。途端にユウちゃんは振り向き、敵に対峙した際にと訓練された素早い動きを見せた。そう、私に銃を向けたのだ。




「ユウちゃん……いきなりごめんね、きちゃって」


「うわぁあぁああがああ! うるさい! 黙れよ人殺し! ばけもの!」


 視線を落とすとユウちゃんの足元には死体が転がっていた。あ、タケシ君だ、ってすぐにわかった。




「タケシ君死んじゃったんだね」


「おまえ、おまえが、あぁあ……! なんでこんな所に来たんだ! みんなみんな死んでいきやがる! 俺は俺は俺は、俺だけだ、もう!」




「大丈夫だよ。ユウちゃんには……」


 あ。耳がきこえない。物凄い銃声を間近で聞いたからだ。

 ユウちゃんは私に銃を向けてる。

 まだ錯乱してて私が誰だかわかってないみたい……

 あれ……おかしいな……胸が、あつい……?




「俺は生き残ってやる! 生き残って、生き残って、俺の町に帰って、ハルに……あうんだ……」




 ユウちゃんの声がする……生き残って……生き残って……




 町なんかもうないよ


 全部焼けちゃったよ


 食べるものもないよ


 皆隠れて生きてるよ


 お母さんも死んだよ


 お父さんも死んだよ


 だから私は唯一人で


 ここまできたんだよ


 きみにあいたくてさ


 最後に……最後にね


 


 あいたかったのに。


 ねえ。




 ハルって、誰?








 ユウちゃんの狂ったように笑う声がする。

 ああ、それでも。今でも。


 きみにあいたい。






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きみにあいたい 成瀬七瀬 @narusenanase

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