魂の召喚②
石術の授業が終わったあと、シユラに誘われたリヨクは、シユラたちと大庭で休憩していた。
「ハァ……疲れた」首を傾けたゾクニカが言った。
「やっぱ石術、むずい」へムルも疲れた表情で、口を開け、空を見ながら言った。
シユラたちは、例の的当てゲームをするグループと、クロスケの自慢を聞くグループに分かれていた。
「[ドゥグザネーラ]ってのは、こんな風に使うこともできるんだ」
クロスケは、習いはじめたばかりの石術[
「すげ〜!」、「おれたちも早く作りてーなー」と興奮するゾクニカとへムル。
「こんなの全然すごくないよ。ぼくはいつか、ゲームを発明するんだし、こんなの楽勝さ」
ドヤ顔をして言うクロスケに、リヨクは腹を立てていた。
クロスケは最近、この世界にない新たな石術システムを生み出し、(大したことないが)先生達に賞賛されていた。
発明者であるクロスケにより[アリー]と名付けられた石術は、簡単に言うと『ギャフンと作戦』で作った[爆発石ウオラトトマ]と[
を1つにした様な物。
ガチャガチャのカプセルのような、半円型の石が二つ。その間に1枚の薄く平たい石が挟まっており、その石に、ゼンマイのように巻くことができる小型の石がついている。
クロスケいわく、半円型の石はひらくことができ、この薄い板に見える石の上に爆発石を置き、閉じ、ゼンマイのような小型の石を巻くと、中で衝撃が起こるらしい。
まわした回数によって衝撃を与える時間が変わり時限式の爆弾となるらしい。
クロスケのドヤ顔──。
『ギャフンと作戦』で役にたたなかった奴が、そこからヒントを得て、賞賛を受けている。
罪を人になすりつけて、なんの悪びれもなく。
セイブたちのせいにして、ぼくのことも売っといて……「ヘラヘラしやがって……」
「石術の学年ランキングがあったとしたら、あいつが1番だろーな」
シユラに声をかけられ、クロスケを睨むのをやめたリヨクは、気持ちを落ち着かせ「うん」と静かに返した。
──次の日、大庭。
「リヨクー、おれらの分のヤパルミュレル、買ってきてくれ」
さも当たり前かのように言うシユラに「え?」と返すリヨク。
「『え』って……昨日あげただろ?」
「それが?」リヨクはキョトンとした表情で言った。
シユラの顔がどんどん怖い顔になっていく。
「いやなのか?」
「え……」とリヨクが困っていると、クロスケが話に入ってきた。
「リヨク、1人で行くのが嫌なんだよね。シユラくん、おれ、ついて行ってあげてもいいかな?」
「はぁ……クロスケは優しいなぁ。わかった。リヨク、クロスケに感謝しろよ」
リヨクは小さく頷いた。
──
「リヨクと話すの、久しぶりだな」
「そうだね」
「ぼくさぁ、あれから石学が好きになってさぁ、いっぱい勉強したよ」
「そうなんだ」
話す気がないリヨク。
すぐに会話が止まるが、なんとか繋ごうとするクロスケ。
「……毎日先生に褒められてさ、褒められるのってなんか恥ずかしいんだよ」
「クロスケ学内では有名だもんね」
「いいや、この世界になかった発明らしいから、世界的だよ」
「ふーん」
「……てかさ、リヨクってそんなに喋らないやつだったっけ?」
リヨクは、込み上げてくる怒りを必死に抑え「君のせいだけどね」と静かに言った。
「は?」
クロスケが放ったその『は?』が、リヨクの
ぼくは歩みを止め、溢れ出した怒りをぶつけた。
「あの時…なんでぼくを売った? なんで一緒にやった君ら3人は毎日楽しそうで、なにも悪くないセイブたちは地球に帰らないといけなくなったんだ?」
目を剥き、大声で言うリヨクに、クロスケは真顔で返す。
「だって君、弱いのにリーダーぶってたじゃん。ぼくらより上みたいな顔してさ。カッコつけてたから、なんかムカついて」
「……は?」
頭が真っ白になるリヨク。
やれやれといった表情を浮かべ、先を進むクロスケ。
「セイブ……セイブたちは……関係ないだろ!」
とリヨクは大声を上げながら走り出した。
そして、振り返ったクロスケの顔面を殴った。
「いってぇえ!」
クロスケは、頬を抑えながら叫んだ。
クロスケは、泣きそうな顔でポケットから[
「《
リヨクは、特に考えはないが、即座に地面の芝を一本伸ばし、クロスケを脅した。
(〝あれ〟を投げてきたら、上に上がればいい。いや、上に上る前に燃やされたら……)
と必死に考えるリヨクだったが、どうやら脅しが効いたようで、クロスケは、「シユラくんに言いつけてやる」と言い、走って大庭に戻って行った。
──「ハァ……」
爆弾の圧から解放されたリヨクはため息をついた。
クロスケの泣きそうな顔──怒りがおさまっていくのを感じる。
「ザコが……」勝ち誇ったぼくは、快感に小さく笑った。
──
買って戻っても、どうせいじめられるんだ。と思い、入るのをやめかけたリヨクだっが、シユラの怖い顔が頭に浮かび、結局買う事にした。
──頼まれた人数分(8つ)と自分のヤパルミュレルを持って、戻って来たリヨク。
「遅かったな」
とだけ言い、ヤパルミュレルを受け取るシユラ。
他7人は、腕を組み、ぼくを睨んでいる。
食べ終わった後、シユラが近づいて来た。
「クロスケは、なんで1人で戻って来た?」
とぼけ続けようと決めていたリヨクは、「知らない」と言った。
「へぇ、一緒に行ったのに知らないのか」
「うん、気づいたら帰ってた。ほんとは買いに行きたくなかったんじゃない?」
──「こいつがいきなり殴って来たんだ! ほら」
クロスケは、少しだけ赤くなった右頬を見せながら言った。
「ほらって、別になにもなってないじゃん」
「ほんとに何もしてないんだな」
怖い顔を近づけて言うシユラに、「うん」と平然を装い答えるリヨク。
シユラがそれ以上、問い詰めては来ることはなかったが、居心地の悪い空気は変わらないまま、休憩時間が終わった。
──教室。
「──今日は、昨日作った
メヒワ先生は、子どもたちのテーブルに、中央に丸い窪みがある平たい正方形の石と石の筒を配った。
「この筒の中には、
メヒワ先生は、黒板代わりの巨大な葉っぱの葉脈を操り、文字を浮かび上がらせた。
〝[
①平たい石の丸い窪みに光石を縦に1つ立てる。
②立てた光石に、上から血を流す。
③その上に、横にした光石を重ねる。〟
「この手順で組み立ててください」
リヨクは、前をチラチラ見ながら、手順通りに組み立てていく。
光石に流した血は、丸い窪みに溜まっていき、溢れる寸前で止まった。
そして、横にした光石を重ねると、流した血はまるで逆再生されたかのように、石と石の間に吸い込まれていき、斑点模様が、紫色の強い光を放った。
「うわっ!」と叫び、思わず後ろに飛び退くリヨク。
すると後ろから、「ああ!」と大きな声が聞こえてきた。
振り返ると、驚いた顔をした赤いドット柄のクロスケと、倒れた光石があった。
「おまえ……」
「ごめんっ!」
リヨクはすぐにあやまったが、クロスケの怒りはおさまらないようだ。
「わざとだろ!」と目を見開き大声で言うクロスケ。
「おまえは…きにいらないんだ…優秀なクロスケが…」
クロスケのとなりにいるタカシも怒った表情で言った。
「まぁまぁ」と興奮する2人をなだめるルエロ。
「ほんとにわざとじゃないんだ……」
とリヨクは小さく言い、ちらっと旧楽園の子たちがいる方を見た。──シユラが真顔で見ている。
駆けつけたメヒワ先生は、代わりの光石と血をクロスケに渡し、なだめると、教卓に戻り話し始めた。
石術が得意なクロスケは、自分が失敗したと思われるのがよほど屈辱だったのか、それからも肩を揺らしながら怒りをあらわにしていた。
前にいるリヨクは、そんなクロスケが気になって、あまり授業に集中できなかった。
「──それでは、重ねた光石を引き離し、{カウリ}を光で具現化してみましょう」
重ねた光石を引き離そうとするが、磁石の用に固く引っ付いており、苦戦する。
折るようにして力を加えると、なんとか引き離すことに成功した。
すると、[
その赤い妖精{カウリ}は、
教室内に溢れた赤い妖精たちは、6枚の黄みどり色の羽をブンブンと音を立て、蜂のように教室内を飛び回っている。
彼らは急角度で素早く方向を変え、ぼくや他の子たちの体をスルスルと通り抜ける。
(生きてるみたい……)
リヨクはその、{カウリ}の楽しそうな表情をみて、複雑な気持ちになった。
赤い妖精たちがいきいきと飛び交っている中、メヒワ先生が、話し始めた。
「それでは、[
引き離した光石を、再びT字に重ねると、{カウリ}が消え、光石の斑点模様が黒から紫に変わった。
先生は、黒板代わりの葉っぱに浮かぶ文字をなぞりながら、話を続ける。
[
生物の魂を扱う術は、“生物同士の絆”によって魂から力を得る
この力は主に、
魂はふつう、1体につき1つしか宿せませんが、非常に絆が深い生物が亡くなった場合稀に、2つの魂が1つの体に共存する、
──ですので、[ドゥグザネーラ]はあくまでも、石に情報を記憶させ、再現する為のものであり、魂を扱うものではないという事です。
──それでは、
次の授業、
──次の日。
4階に上がり、大庭に着くとシユラが言った。
「お前、またクロスケを殴ったか?」
シユラのとなりには、制服とズボンをまくって立つクロスケとタカシの姿があった。
植物の皮で覆われた腕や足を、痛そうに手でおさえている。
「なんのこと?」
リヨクは一瞬固まり、考える。
──クロスケ、タカシと目が合った。
2人はニッと笑った。
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