第22話 『ポァ』第2予選
──あの爆破事件から一週間後。
学舎内で犯人探しが行われたが、結局リヨクたちの犯行は、バレずに済んだ。
メヒワ先生によるとシユラは今、医療の街『ミーウ』に入院しており、徐々に回復していっているらしい。
ルエロはあれからぼくらと居づらくなったのか、常にシユラの仲間たちと一緒にいるようになった。
リヨクは、シユラがいなくなったことで、呼ばれることもなくなったクロスケとタカシと共に、静かながらも充実した学舎生活を送っていた。
──そして、『ポァ』第2予選の前日。
死にかけていたシユラは、傷一つない状態で帰ってきた。
──「みなさん! シユラくんが治療を終え帰ってきました!」
「「「おかえりー!」」」
シユラは、仲間たちとハイタッチした後、教室にいる子たちを見回した。
リヨクはシユラと目が合った瞬間、決して目を逸らさないと決めていたにもかかわらず、反射的に目をそらしてしまった。
──そして、『ポァ』第2予選が始まった。
リヨクは、クロスケとタカシと一緒に、シユラの戦いを観戦していた。
──「第6試合シユラVSダヤン、向き合って〜始め!」
試合開始のアナウンスが響き渡った。
ダヤンとは、セイブと一緒にいるときにたまに話す仲だ。
リヨクは、シユラには勝てないと思いつつもダヤンを応援していた。
試合開始早々、シユラはダヤンに向かって丸い物体を投げつけた。
その丸い物体が服にくっついたダヤンは、叫びながらのたうち回る。
続けてシユラはゆっくりとダヤンに近づき、石術を駆使してダヤンを完全に覆い隠した。
事態の深刻さを察知した先生は、ダヤンを救出するために介入した。
そして、気絶したダヤンを抱えながら、先生はやむを得ずシユラの勝利を宣言した。
──「勝者、シユラ!」
「あー、負けちゃった」リヨクはつぶやいた。
「ぼく、あんなことされるまえにリヨクに負けてよかったよ」クロスケは、気絶し連れていかれるダヤンを見ながら言った。
「次…ぼくだ」タカシは不安そうな顔で言った。
「相手は?」
「……ヘムル」
「えー! やばいじゃん」
「……」
──タカシは試合を辞退した。
そして、リヨクの出番が来た。
入場したリヨクは、「頑張れ!」と観客席で応援するクロスケとタカシに手を振る余裕すらあった。
なぜなら、目の前にいる坊主の少年はいつもシユラにペコペコしており、シユラたちの中で、リヨクが唯一勝てそうと思っていた相手だったからだ。
──「第11試合ウィカブVSリヨク、向き合って〜始め!」
しかし、試合が始まると甘くはなかった。
リヨクは、開始早々握りしめていた芝のタネを1つ成長させ、芝を棒のようにピンとさせた。
ウィカブは、リヨクを警戒しているようで全然近づいて来ない。
リヨクはその間、残り2つのタネを地に撒いており、迅速に芝を増殖させていた。
──ずっと動かない2人。
痺れを切らしたリヨクは、棒のようにピンとした芝を、槍のように構え、「やー!」と言いウィカブに突進した。
ウィカブは、ねじれた植物を下に向けポキッと折り、上昇し、リヨクの攻撃をかわした。
リヨクは、その技を見たことがあった。
それは、4年生の優勝候補である『ンメ』が使っていた技だった。
ウィカブは、『ンメ』と全く同じ戦法で挑んできた。
空中に浮いたウィカブは、タネを落とし、すぐさま
──「あぶなっ!」
リヨクは、上から降ってきた《ゼズ》を、間一髪避けた。
そして、ウィカブは、長いムチのような植物を成長させ、大きく振った。
──(やっぱり)
『ンメ』と全く同じ戦法でくるウィカブに、リヨクはニヤリと笑った。
リヨクは、『ンメVSナノ』のバトルを観戦したあと、なんとなく自分なら『ンメ』とどう戦うかを考えていたのだ。
──(どうせ《ゼズ》に巻きつかせるんでしょ、こうゆうときは……なんだっけ…やばいっ)
リヨクは、とりあえず増殖させていた芝を、綱のように絡ませながら上に伸ばして上昇した。
ウィカブは、地面に突き刺さっている《ゼズ》にムチのような植物を巻きつかせた。
──(知ってるよ……けど一本だけじゃ、ンメの真似はできないよー ……え?!)
リヨクは目を丸くした。
(あれ、思ってたのとちがう……)
地上にいるウィカブは、巻きつかせたムチを上にひっぱり《ゼズ》引っこ抜くと振り回し始めた。
貧弱に見えるウィカブから、どうしてそんな力が出るのかと、リヨクは完全に混乱していた。
ウィカブは、リヨクに向かってムチを振り上げ、《ゼズ》を下から飛ばしてくる。
リヨクは、「あぶなっ──あぶっ──あっぶない!」と叫びながら身をよじってかわし続けた。
やがて、飛んでくる《ゼズ》は、綱のように絡まった芝にブスッと刺さり静止した。
「ハァ……」リヨクはほっと一息ついた。
下を見ると頑張って引っこ抜こうとしているウィカブの姿があった。
リヨクは、芝を上に伸ばしたまま、スルスルっと地上に降り、
そしてまた、槍のように構えウィカブにゆっくり向かっていく。
──リヨクは降参待ちだった。
しかし、ファイティングポーズを取り出すウィカブ。
「え…」急に力が入るリヨク。
ウィカブがぼくに向かって突進してきた。
リヨクは恐怖を感じ、「うわぁ〜!」と叫びながらとにかく芝棒を振り回した。
──すると「コツン」と音がして、ウィカブはバタンと倒れた。
「勝者、リヨク!」
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