第15話 大庭
授業が終わると、いつもの3人はグオについていき、4階へ上がった。
──4階、大庭──
大庭と呼ばれるこの場所は、綺麗に整えられた芝生が広がり、中央付近には、石の円に囲われた噴水が点々としており、学生たちが集まって談笑していた。
リヨクたちは、石でできた円の縁に腰掛け、話し始めた。
──「ハツって子すごいよね」リヨクは、敗北感を抱きながら言った。
「ハツは努力家だからね、ほんとはもっとすごい技あったと思うんだけどな」と言うとグオは、顎に拳を置いた。
それを聞いたリヨクは、敗北感がさらに増した。
「ぼく、あんなふうになれる気がしないよ」とリヨクは小さく言った。
「リヨク、
「そうかなぁ」──「あ」
リヨクは突然思い出し、話題を変えた。
「あのルドラって奴、ほんとムカつくよ」
リヨクは苛立ちを隠しきれず、顔をしかめて言った。
「ルドラに何かされたの?」グオが聞いた。
「うん、アイツ、ぼくにだけクサイにおいを嗅がせてきたんだ」
リヨクは、笑うルドラの顔を思い出し、さらに眉間にシワを寄せた。
「え、パフォーマンスの時?」グオ。
「うん、みんなはいい匂いだったんでしょ?」
──3人は頷いた。
「まぁ、ルドラならやりかねないか……」とグオ。
「だからあの時、リヨク、うずくまってたの? あの怖い顔もそれ?」
オウエンが聞いた。
「うん、あんな眠そうな目をしたやつにからかわれるなんて、ふざけんなって感じだよ」
「殴る?」と言いユウマがニヤッと笑うと、オウエンも「うん、ぶっ飛ばそう」と賛成した。
「いや、それは…けどぼく、あいつになら負ける気しないよ」リヨクは拳を作りながら言った。
「リヨク、そうとう怒ってるな」ユウマは笑いながら言った。
「あんなにくさいの嗅がされたら誰だってムカつくよ。しかもボクだけだし、ずっとぼく見て笑ってたし」
「あ…」と言い口を開けるユウマ。
目線の先には、シユラたちがいた。
「どっから出てきた?」、「もしかして…聞かれた?」とユウマとリヨクは、しばらくシユラたちの後ろ姿を見ていた。
彼らの中には、もちろんルドラもいた。
──「ま、聞かれてたとしても全然いいけどね、なんか言ってきたとしても、あっちが先に悪いことしてきたんだし」と開き直るリヨク。
「だな、そん時はおれも一緒に戦うよ」とユウマ。
「おれも!」とオウエン。
──「ピピ。
胸元のバッジから授業開始のアラームが鳴った。
「やばっ」
「早く立って、2人とも」
グオは、リヨクとユウマを急かすが、2人は立ち上がらない。
「え、行かないの?」とグオ。
リヨクとユウマは顔を合わせ頷くと、『行かない』と言った。
「えー、わかった。オウエンは?」
「いーなー。けどグオ1人だし、おれはいくー」
リヨクとユウマは、授業に向かう2人を見届けると、
──4階、花の上のレストラン、
ヤパルミュレルを食べ終わったリヨクとユウマは、大きなハスの花びらに座り、くつろいでいた。
「あー、この世界に来て初めて自由って感じ」とユウマは背伸びしながら言った。
「だね! てか、店の中で食べたのって初めてだね」
「うん、昼じゃないからすぐ入れたな」
「うん、前と違って全然人いないね」
リヨクは、前回訪れたときとは異なる、静かな店内を見渡すうちに、何となく罪悪感を感じ始めていた。
「リヨク、リゼも言ってただろ? 自由にお過ごしくださいって、だから、自由でいいんだ」
ユウマは、リヨクの表情から罪悪感を察したようだった。
「だよね、初めてだし、一回ぐらいいいよね」
「うん。おれ、この世界に来るまで学校行ったことなかったからさ、授業ってあんまりなれてないし、
「なんかわかるかも……え、学校行ってなかったの?」
リヨクは、途中で聞き逃していた言葉に気づいた。
「うん、入ったこともない」
「え! なんで?」
「んー、なんでだろ。父さんと弟に食べ物もって帰れなくなるからかな?」
「食べ物もって帰るって、どうゆうこと?」
「家に何もないからさ、おれがもって帰ってやるんだ」
「だれかからもらうの?」
「んー、そんな感じ」
リヨクは、ユウマの家庭状況がいまいち想像できず、混乱していた。
「お母さんは?」
「いない、おれが1年の時にどっかいった」
「ふーん」
「別にいいけどな、元々たまにしか帰ってこなかったし」
「へぇ…」
リヨクは、会話が進むにつれ言葉を失っていった。
──2人は、
「オウエンとグオ、上がってこないのかな?」
「この世界だとこうゆう場合どうしてるんだろーな、電話みたいなのあんのかな?」
リヨクは、シユラたちの話し声が聞こえ、遠くに目をやった。
「なんかこっちに向かって来てない?」
リヨクは、自分の顔が徐々に強張っていくのを感じた。
「うん、おれらに来てる」ユウマは落ち着いた声で言った。
シユラたちはぼくらの目の前で止まった。
「やぁリヨクくん。ルドラに勝てるんだろ?」
シユラは、いじめっこのように、楽しげにリヨクを睨んでいた。
「え?」と戸惑うリヨク。
ユウマはリヨクに、「やっぱ話聞かれてたんだな」と言った。
リヨクは少し顔を赤らめ、小さく「ごめん」と言った。
「謝るんだったら最初っからゆーなよー」
ルドラはまたニヤッと笑いながら言った。
ユウマはルドラに「謝る必要なくね?」と言った。
ルドラはユウマをまっすぐ見てる。
黙っているルドラに、ユウマは続けて「おまえがリヨクにいたずらしたのが悪いんだろ? 悪口言われて当然だろ」と言った。
ルドラは無視を続け、眠そうな顔でただただユウマを見ている。
「黙るためにきたのか? おまえ」
言い続けるユウマと不気味に笑うルドラ。
シユラが口を開いた。
「さっき石学の授業来なかったな」
「不良ー」と煽る仲間たち。
「おれらは特別だから、自由にしていいんだ」
ユウマは冷ややかな笑みを浮かべ、軽蔑するように言った。
シユラは、急に目つきを変え、静かな声で繰り返した。
「特別?」
ユウマはシユラを無視して、彼らに、「てかお前ら、聞いてたんだったらその時言えよ」と言った。
無視されたシユラは、植物を成長させると、「【ヴァル】」と唱え火を浮かし、「勘違いするな、君らは特別なんかじゃない」と言った。
「あっそ、そんなのどーでもいいけど、あの時言ってこなかったのって、グオがいたからか? グオには勝てないから?」
シユラは、浮かしている火をさらに大きくした。
仲間は「あ」と言う表情を浮かべている。
「ダサいなおまえ。入学したばっかりのおれらにイキってて」
「シユラ、こいつビビってるよ」と間隔をあけて繋げた葉っぱの頭飾りを付けた少年が、笑いながら言った。
ユウマは肩をすくめ、『どこが?』と、顔で言った。
空気がピリつき始めたその時、バッジから救い鐘のように、アラームが鳴った。
──「ピピ。
「いかないの?」
ユウマは、シユラたちに向かって、落ち着いた声で言った。
シユラたちは静かに目線を外し、授業に向かった。
リヨクとユウマはまた、授業に行かなかった。
──「あいつらのせー。ま、今日もどうせサーテム対策だろ? 一回やったし、別にいいや」
ユウマは、自分を納得させた。
「ありがとう、ユウマ」リヨクは小さく言った。
「ん? おれ、なんもしてない。てか、あいつら弱いわー」
ユウマは呆れたように言った。
──ポピュア村、その日の夜──
村の中央広場にある
「早くいこーぜ、腹へった」
オウエンが来た。
「あれ? ユウマは?」
「まだ来てない」
「えー! 起こしに行こ」
「うん、コンコンだけしに行こっか」
オウエンについていき、ユウマの家に着いた。
リヨクは、ユウマの家を見て、驚いた。
「え! この家ってユウマの家だったの!?」
リヨクは、戦国武将のような格好をした仮面戦士(ファイアソード)の上半身をした家をみて言った。
「そうだけど、なんでびっくりしてんだ?」と言い、キョトンとするオウエン。
──眠そうな顔をしたユウマが家から出てきた。
「ごめん、おれちょっと寝『おはよ』
オウエンは、ユウマの手を掴み、無理やり外に引きずり出した。
──ポピュア村、食堂──
「「ごちそうさまでした」」
リヨクとユウマは声を合わせて言うと、オウエンを見た。
「こいつ、起こしてきたくせに寝やがって」
──「てか今日、シユラって子怒ったまんまだね」
「怒ってたな、火だしてせこくね? おれ使えないのわかってて」
「うん、術使われたら勝ち目ないよね」
となりのテーブルに料理を運んだ、ポピュア村の料理人、トリルトが、ぼくらに振りかえり話しかけてきた。
「メヒワ先生からあなたたちのことを聞いたわよ」
「え? メヒワ先生知ってるんだ!」と驚くリヨク。
「なに聞いたの?」
「3人とも、素晴らしい才能があるって褒めてたわ。それと、先生、ポピュアのランキングを作ってくれたらしいわね」
「うん、おれ、
「ぼく、
「こいつ、
「全員1位ってすごいわね」
「だよな? なのにリヨク、旧楽園の奴らのすごい技みて、落ち込んでるんだ」ユウマは、呆れるように言った。
「えー、そうなの? でもね、私も昔、ポピュアがいる学年で勉強してたんだけど」
「え、そうなの? ポムヒュースで?」とリヨク。
「うん、ポムヒュースよ。最初、地球から来た子たちは、私たちに追いつこうと一生懸命だったわ。
けどね、ポピュアは才能に目覚めたら止まらなくて、どんどん成長していったの。
気づけば、私たちが想像もできないレベルまでね。
だからあなたたちも時間が経てば、彼らに追いつき、そして超える日が来るわ。私がこの目で見てきたんだから、間違いないわ」
「ポピュアだからって、みんなすごいわけじゃないだろ」と、ユウマはボソッとツッコんだ。
「いいえ、ポピュアは全員、光の選択者に選ばれてこの世界にやってくるの。だからみんな才能ある子たちだわ」
「光の選択者ってなに?」
「地球にいて、地球にいる強くて良い心を持つ子どもたちを見つけて、この世界に送る人のことね。
「おれらを見張ってるのか?」ユウマは怪しむような目で言った。
「いや、そういうわけじゃないと思うわ。先生に聞いたりしてるんじゃないかな?」
「ふーん。てか、ポピュアって今までに何回ここに来たんだ?」
「んー」と言いトリルトは指折り数え出した。
──「あなたたち合わせて8回ね」
「へぇ、8回も来たんだ……なにしに?」ユウマは、首を傾げて言った。
「さぁね。それは私も知らないの」
「宇宙戦争」
オウエンが起きてきた。
「なに?」とユウマ。
「宇宙戦争に勝つために強いやつを集めてるんだ! おれみたいな!」
オウエンは、ひらめいた! という顔で言った。
「違うと思うよ?」リヨクが冷静に言った。
「いや、宇宙戦争だな。帰ろ」と言い、リヨクの肩をポンと叩いた。
「うん、そうかも」と言いリヨクは立ち上がった。
「え、いっつも起きたらすぐかえる…」と言うオウエンに「なら寝るな」とユウマは言った。
──3人は、食堂を後にした。
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