植物学 植物術実践②
──教室の中──
教室の中は、術による明らかな痕跡が残されており、焦げた匂いが漂い、シャボン玉が浮かんでいた。──
──ポピュアの子たちは、メヒワ先生の指示に従い芝生の上に適当に座った。
先生は、両手に持ったA4サイズの茶色い紙をポピュアに見せながら話し出した。
「これはあなたたちの適性を記録した紙です。
そしてこちらは、その適性に合った植物が書かれています。今からみなさんの名前を呼んでいきますので、呼ばれた子はこの2枚の紙を受け取りに来てください」
メヒワ先生は、名簿を見て、名前を呼んでいく。
──「アリスさん」
羊のようなモコモコとした髪型の少女、アリスは、静かに立ち上がり、紙を受け取りに前へすすんだ。
ユウマは不安そうな顔で、先生を見ている。
リヨクは、ユウマも緊張するんだと思った。
──「オウエンくん」
あいうえお順に次々と呼ばれていくポピュア。
──紙を取りに行ったオウエンが帰ってきた。
「遅かったな」
「うん、なんか先生いっぱい話しかけてきたけど、よくわかんなかった」
「見せて」
「うん」
リヨクとユウマは、オウエンの適性を記録した紙をみた。
──1枚目
〝オウエンくんの適性。
火 3
風 3
毒 2
匂 5
血 3
力 10
速 7
硬 5
捕 5
あなたの適性はほとんど獣。
多くの素質を持っています。
特に力を上げる植物との相性が良いようです。
速さを上げる植物も平均以上の反応をみせていました。
匂、硬、捕植物に関しては、もう少しで平均を超え、優れた使い手となることができるでしょう。
あなたは非常に有望です。
──「めっちゃ褒められてんじゃん」
「え? ほんとか!?」と目を輝かすオウエン。
「たぶん数字が大きかったらすごいんだと思う」
「力10もあるじゃん」
「いちにいさんしー……9個も植物反応したの?」
「いや、3つぐらい」
「そうなんだ」
──リヨクは、植物が反応しなくても適性を知ることができるとわかり、わずかに希望を感じた。
「しかもバトル大会に優勝できるかもって。『ポァ』ってのがよくわからないけど」
「バトル大会!? それっていつあんだ?」
「いつあるかは書いてない。また先生に聞いてみたら?」
「うん!」
──「タイシくん」
リヨクとユウマは、メヒワ先生が名前を呼ぶたびピクっと反応した。
ユウマは「あ、ちょっと」と言い、急に立ち上がった。
それから変なジェスチャーをした後、教室を歩き出した。
──「何やってんだ? ユウマ」、「さあ」
リヨクは、オウエンとしばらくユウマの様子を見ていたが、オウエンが「次の紙みよーぜ」と言うので、2枚目に移った。
──2枚目
〝メヒワがおすすめする、オウエンくんの適性にあった植物。
入門レベル(推定1〜3年生)
・マシ 食べると一時的に筋力を少し増加する。
・ココアルセン 食べると一時的に反応速度が少し向上する。
・ニゼユバの実 足の裏にくっつけるとジャンプ力が上がる
熟練レベル(3年生〜)
・イベラの葉 食べると一時的に反応速度が向上する
・イベラの根 食べると一時的に筋力を増加する。
・イェマの葉 食べると一時的に反応速度が向上する。
高等レベル(6年生〜)
・オハソマの葉 一時的に筋力を増加し、反応速度も向上する。
・ミアム 食べると一時的に筋力を大幅に増加し反応速度も大きく向上する。〟
──「へぇ、なんかいっぱい書いてるね。全部知らない名前だけど」
「食べるだけで強くなる? そうゆうのドーピングっていうんだぜ? おれには必要ないな」
「けどおいしいかもよ?」
「……なら食べる」
──「リタさん」
(リだ)
リヨクは、他の子の名前が呼ばれていくにつれどんどん落ち着かなくなってきていた。
──緊張を紛らわそうと周りを見ていると、ふと隣にユウマがいることに気づいた。
リヨクは驚き、ユウマに声をかけた。
「あれ? ユウマいつ戻ってきたの?」
「ずっと前からここにいるよ」と、ユウマは平然と答えた。
リヨクは首を傾げ「え、ほんと?」「気付かなかっただけか」とつぶやいた。
「名前呼ばれた?」
「うん」
「どうだった?」とユウマと話していると、リヨクの名前が呼ばれた。
──「リヨクくん」
リヨクは一瞬ドキッとしたが、緊張を隠しながら立ち上がった。
心臓の鼓動が高鳴るのを感じながら、先生のもとへと歩を進めた。
「こちらの紙に書かれてあるのがあなたの適性です。
翻訳されてると思いますが、横に書いてある文字はこの国の数字です。
数字が大きい程、その属性植物と相性が良いということになります」
──リヨクは、1枚目の紙に目を通した。
〝リヨクくんの適性。
なし
〟
──「……先生、どこにも数字書かれてない」
リヨクは、失望した声で言った。
「あら、ほんと、ごめんなさい。他の子たちにも同じ説明をしていたものだから、うっかり口にしてしまったわ。
《流れ作業のようになってしまってはいけません》ね」と言い、意味深な顔をする先生。
(先生、なんで喋んないでずっと見てくるんだろう)
〝流れ作業のように──流れ作業のように──〟
ループする先生の言葉。
──そしてリヨクは、先生が伝えたいことに気づき、ハッと目を見開いた。
(植物が反応しなかったのは、流れ作業で触れていたせいってことかな)
すると先生は微笑みながら言った。
「そう。あなたにはその観察力があります。植物と接する時は常に集中しなさい。わかりましたね?」
──リヨクは、反省を込めて静かに「はい」と答えた。
「あなたは心をもっと鍛える必要があります。
全然反応しないからって途中からあきらめているようにみえました。
諦めたくなったり、逃げ出したくなったときは、『諦めてはいけない、逃げてはいけない』と心の中で唱えるのです。ブレーキになってくれるわ。
──それでは、こちらが2枚目の紙です。
この紙には、リヨクくんに適した植物が書かれています」
──2枚目の紙
〝メヒワがおすすめする、リヨクくんに合った植物。
癒し
・タンポポ 日の光がある場所ならどこでも黄色い花を咲かせる。(見てると元気になる)
・キジムシロ 日の光がある場所ならどこでも黄色い花を咲かせる。(見てると元気になる)
・フウセンカズラ 熟した袋状の果実の中にハート模様のタネが入っている。(かわいいから見てると癒される)
楽しい
・とうもろこし タネに熱を加えると、弾けてポップコーンになる(楽しくて、しかもおいしいです。ただし食べる場合は、塩をかけるのを忘れてはいけません)
・クックソニア 地を這う茎から多数の茎が枝分かれし、その先に平らな胞子をつくる袋を持つ。茎の内部が空洞になっている。(大きく成長させて、胞子をつくる袋を踏むと音がなります。嫌なことがあった時のストレス発散におすすめ)
お守り
・福寿草(部屋で育ててみてください。そして、毎晩、前向きな言葉をかけて寝てみてください。気が向くと運を与えてくれます。続けていると、危険を回避できるかもしれません)
〟
──リヨクは、オウエンと自分の紙の内容の違いをみて、悲しい気持ちになった。
「──さ、戻りなさい」
リヨクは静かに「はい」と答えた。
──みんなのところに戻ってきたリヨク。
リヨクは、座り込むとすぐ「ハァ……」とため息をついた。
(なんだよ、楽しいって。オウエンと全然違うじゃないか)
リヨクは先生に見放されたと思い、深く落ち込んでいた。
オウエンとユウマは、落ち込むリヨクを見て首をかしげている。
「どうだった?」オウエンが聞いた。
「見る? ぼくの」とリヨクが紙を差し出すと、オウエンとユウマは目を丸くした。
「なし!?」──「癒し?」、「楽しい?」──「みて、お守りだって」
オウエンとユウマは、紙を読み進めるにつれ、表情がだんだんと緩んでいき、最終的には、2人とも堪えきれず爆笑した。
「だよね」
リヨクは少し笑いながらつぶやくと、下を向き深いため息をついた。
──「ごめんリヨク、元気出せよ」とユウマは笑いながら言った。
「別にあやまらなくていいよ」とい言い、話題を変えることにしたリヨクは、「ユウマはどうだったの?」と言った。
すると、ユウマは突然焦ったような顔になり、
「おれは……よくなかった」と言った。
「いいからみせてよ」
リヨクはウソだと思い、やや呆れた様子で言った。
ユウマは黙ったままだった。
「え、ぼくよりはいいでしょ?」
「……」
リヨクは、ユウマがなぜ見せてくれないのか理解できなかったが、ずっと黙ったままなので「もういいよ」と諦めるように言った。
すると、しばらくの沈黙の後、ユウマが「はい」と言い、紙を渡してきた。
「え? いいよ別に」と言い、紙を返すリヨク。
しかし、ユウマは受け取らない。
──「ならおれがみるー」
オウエンは、リヨクからサッとその紙を奪い取った。
リヨクが「あっ」と言いう間に、オウエンはその紙を口に出して読み出した。
「タイシくんの適性──火10刃5──」
「オウエン、それ違う人の紙だよ」
リヨクがオウエンにそう言うと、ユウマは気まずそうな顔をして言った。
「それおれの。おれ、本当はユウマじゃなくて、タイシって名前なんだ」
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