第10話 花の舌
──4階、羽が生えた花の上──
「すげぇー!」と目を輝かすオウエン。
リヨクとユウマは、
『ハァ……』
「この方法はある程度感覚がいるから、やっぱりみんなは慣れるまでしない方がいいかも……落ちて死んだらぼくのせいだし……」
「じゃーなんで教えたんだよ」
──それから3人は、町を説明しながら進むグオについて行った。
「この花、《ヤユニル》の上に立ってる建物は、ポムヒュースの先生や学生、来客が利用するレストランだったり、図書館だったり、ホテルだったり──」
──
電柱のように立つ巨大な
「ぐぅぅ」
その匂いは、リヨクの空腹を刺激した。
「グオ、この匂いはなんの匂い?」リヨクが聞いた。
「多分ヤパルミュレルの匂いだと思う。
「それってメヒワ先生が言ってたやつだよね。どんななの?」
「ヤパルミュレルは、空を登る柔らかい実って意味で、《レル》ってゆう植物の実を、蒸してから《アカマヒョルテ》って名の植物から出るゼリー状のものを、溶かしてかけた食べ物なんだ。
名前の通りとっても柔らかくて、噛むたびに甘味がでてくるんだ。ソースも甘じょっぱくてクリーミーでおいしいんだ」
「へ〜、なんかおいしそうだね」
「近いんだろ? 早く食べに行こーぜ」
オウエンは、足を小刻みに揺らしながら言った。
「ヤパルミュレルでいい? テルトンの煮込みとかもおいしいよ?」
「そこも近いの?」
リヨクがグオに聞くと、オウエンはぼくにむすっとした顔を向けてきた。
「5分くらいで着くけど」とグオ。
「もー、エナなんとかでいいよ」
オウエンがそういうとユウマもうなずいた。
「わかった。あそこが
グオは、コインを2枚重ねたような形をした巨大な茎を指差し言った。
「へんな形…ま、なんでもいいや、早く入ろ!」
──オウエンにせかされながら歩き、4人はエナタポの前まで来た。
そして、茎の繊維にそってできた縦長の入り口から、レストランの中に入って行った。
──花の上のレストラン、
「全部で100本生えてるんだ。席に座ってたら注文をとりにきてくれるんだけど……」
「見た感じいっぱい…だね」
いくつものハスの花が等間隔に並んでおり、その中に座り、ご飯を食べながら談笑する学生や大人。
店内はガヤガヤと賑わっていた。
「人気だからね。この時間は特に、学生や教員のほとんどが食事しに4階に集まるんだ」
──店員らしき人物が、近づいてきた。
「只今、満席となっておりまして、お席が空き次第お声かけさせていただきます!」
──店員は、リストを確認し、待っているお客を席に誘導したり、他のスタッフに指示を出したりとバタバタとしており忙しそうだった。
「待ち時間はどのくらいですか?」とグオが聞く。
店員さんは、「先にお待ちの方がいらっしゃいますので」
と言い、手を横にそっと広げ、待ち並ぶ人の列を控えめに示した後「早くて1時間後かと……」と付け足した。
「だって。どうする? 待つ? それとも他の店を探す?」とグオはリヨクたちに聞いた。
すると突然、となりにいた芽のような髪型の少年が声をかけてきた。
──「お! グオ!」
「『ハツ』、君も来てたんだ」
「うん、今持ち帰りして帰るところ。リゼもいるよ」
──『ハツ』と言う少年のとなりに、グオの兄、リゼがいた。
知り合いと話し出したグオをじっと待つ店員。
リヨクは、「すこし考え、ます」と言い店員を解放した。
「もーポピュアのお友達ができたのか」
リゼは、ほほえみながらグオに言った。
「ユウマくんに、オウエンくん、それと…」
リヨクの顔を見て思い出そうとしているリゼに、「リヨクだよ」とグオは、兄に対して少し強い口調で言った。
「あー、そうだそうだ。ごめんよ、最近ど忘れがひどくて」
リヨクは笑い、気にしていない素振りを見せてはいたが、内心では少し傷ついていた。
(ポピュアは23人もいるんだし、忘れることもあるよね。オウエンとユウマは、問題児だから覚えられてるだけ)
リヨクは、自分を納得させることにより心の傷を塞いだ。
「これいる? ヤパルミュレルだけど」
リゼは手のひらサイズの葉の包みを2つ見せながらグオに言った。
「え? いいの?」
「うん。『エクギ』君のもあげてやってよ」
リゼは、となりにいた芽のような髪型をした人(おそらくハツの兄)に言った。
「えー」
「いいじゃん、このあとゲムレッチ行くんだからさ、プトゥピィでポンドさんのおすすめ料理でも食べに行こ」
「わかったよ、お前のおごりな」
エクギは、渋々と言った感じでヤパルミュレルが入った葉っぱの包みを2つリゼに渡した。
「ああ、おごるよ。──ほら」
リゼは、リヨクたち1人1人に葉っぱの包みを渡して行った。
「4つで足りなかったらまだあるけど」
リゼにチラッと見られたハツは葉の包みを後ろに隠した。
「足りると思う──」グオは、確認するようにリヨクたちを見た。
リヨクとユウマは、足りないと言いかけるオウエンに『しー』と言い黙らせ、グオにうなずいた。
「うん、足りるみたい。ありがとう!」
「ならよかった、店を出てすぐのところにベンチがあるから、そこで食べるといいよ」
リヨクたちは店を出ると、リゼに案内されベンチの形をした植物に座った。
──「ハツもグオたちと残るかい?」
「いや、ぼくはこのあとすることがあるから」
「そう、それじゃみんな、勉強がんばって!」
リヨクたちは「ありがとう」と言いリゼたちと別れた。
──「うまっ!」
口を真っ赤にしたオウエンが、目を見開きながら言った。
──リヨクも葉の包みを開ける。
すると、オレンジ色のソースがかかった、赤い斑点がついたオレンジ色の実があらわれた。
スモーキーな香りとクリーミーな匂いが絶妙に混ざり合い、湯気と共に顔に染みていく。──「いただきます」
はむっ。(‼︎やわらか)
一口食べた瞬間に広がる甘じょっぱいソースの味。噛むたびに甘みが滲み出てくる実の味。
「おいし! こんなの食べたことないよ」
4人は、あっという間に平らげた。
「ごちそうさまでした」
「あーあ、なくなっちゃった」
オウエンは悲しそうに包みの葉っぱを眺めながら言った。
「この葉っぱ食べれる?」
「食べれるけど、おいしくないよ」
「そっか」
「食べた後に残った葉っぱは、食べずに、
グオが《メヘム》と唱えると、葉っぱはみるみる縮んでいき、やがて跡形もなく消えた。
「やってみて」
3人は、グオをまねて葉っぱに向かって「《メヘム》」と唱えた。
「お! 消えた!」、「おれも消えた」、「うわぁ〜」
3人は見事
「もう《プロン》は使いこなせてるみたいだね」
「おう! もう楽勝だぜ」
「この世界の子はみんな使えるの?」リヨクがグオに聞いた。
「もちろん! 全員習得してるよ」
「そうだよね、てか何人いるの? そっちの子たち」
「ぼくらは…33人だったと思う」
「多いね」
「いや、今年は少ない方だよ。
──「あれは、この世界の太陽だよ」
グオは、空高くに浮かぶ、三日月形の植物を指差して言った。
「あれが?」、「植物が太陽なのか?」
リヨクとユウマは、はてな顔でグオに言った。
「あの中に見えてるある赤い火の玉あるでしょ? あれが太陽なんだ」
「へぇ、燃えないのか?」ユウマが聞いた。
「うん、ホオズキの親戚で、《ラフィア》って名前の植物なんだけど、火に強くて、葉脈が檻の役割になってるから、
──《ラフィア》の胴体は、月の三日月形をした分厚い葉脈の骨組みで形作られており、その網目の中には火の玉が収められていた。
「
《ラフィア》は太陽のほかに、時計の役割も果たしてて、あの花をみて時間を確認するんだ」
──三日月形の胴体の先に、黒色の花が1つ咲いている。
「今は
13時になると牛みたいな白と黒の色になる。そんなふうにして、色が変わることで時間がわかるんだ。
また
分は、7本の葉脈を見て確認するんだ。
1本ずつ次の花の色に染まっていって、全体が染まりきると花の色も変わり、1時間経過した事がわかるんだ。
1本染まれば10分で、1本のうち半分が染まっていたら5分って見かたなんだ」
──三日月形の胴体に入った
「てことは、今は……12時50分ってこと?」
「そうゆうこと! 6本目も少し染まってきてるから、12時52分ぐらいだね」
ユウマは、困惑した表情でグオに言った。
「おかしくね? それなら70分で1時間ってことになるぜ?」
「そっか、地球だと60分だったね。この世界の1時間は70分なんだ」
「なんで?」
「それはぼくも知らない」
ユウマは、肩をすくめお手上げをした。
「太陽を閉じ込めているラフィアが沈むと、交代でぼんやりと白く光る空っぽのラフィアが昇ってくる。
違いは、
──4人はベンチを離れ、来た道を歩いている途中で少年3人から声をかけられた。
「よぉ、グオじゃないか──ポピュア3人も連れてどこに行ってたんだ?」
グオに話しかけている黒と赤が入った髪色の少年は、下から強風を浴び続けたように髪の毛が立っており、意地悪そうな目をしていた。
「やぁ『シユラ』、別にどこだっていいだろ」
リヨクは、冷めたい言い方をするグオを見て、グオはこの少年のことがあまり好きじゃないと感じた。
「フン、
「そうかな?」
「ああ。それと、貴族の友だちが少ないからって、そんなに急いでポピュアのお友だちを作る必要ないぜ?」
『アハハハハ!』
シユラの言葉に、彼と一緒にいた2人は共感するように大きく笑った。
しかし、グオの表情は変わらず、ノーダメージのようだった。
──リヨクは、そんなグオを見て、自分もあんな風に動じない強い心になりたいと思った。
「行こうぜグオ。このむかつく爆発頭はほっといてさ」
ユウマはオウエンとグオを引っ張り先に進み出した。
リヨクは、先に進んでいく3人の背中を見て、まだユウマと仲直りできていないことを思い出した。
「ハァ」
「君はついて行かないの?」シユラはリヨクに言った。
「いや、いくよ」と言いリヨクが歩き出そうとすると、シユラはリヨクに向かって手を差し出し言った。
「はじめまして。ぼくの名は『ルカ・シユラ・ララレベル』。
君とは仲良くなれそうだから、ぼくと友達にならない?」
「ぼくの名はリヨク。仲良くなったら自然と友達になれると思うよ」と言い、リヨクは遠回しに断った。
「じゃ、仲良くしよう」と言いさらに手を伸ばしてくるシユラ。
リヨクは手を握らない。
シユラの顔をはちょっとずつ怖い顔になってきていた。
リヨクは、そんなシユラの顔を見て、いじめっ子の顔を思い出していた。
少しずつ恐怖を感じていくリヨク。
しかし、手を握ることなく只ひたすらにシユラの胸元を見て佇んでいた。
沈黙が流れる中、リヨクは、先を歩くオウエンに呼ばれた。
──「リヨクー!」
恐怖から解放されたリヨクは、真顔でじっと見続けてくるシユラをチラッとだけみて、オウエンの元に走った。
「リヨクー! 早くー!」
「うーん!」
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