第7話 ポムヒュース入学

 ──夢──


「きも」─「じゃま」─「ゴミ」─「*ね」─「きらい」─「だれ?」─「くさい」─「ブス」─「泣き虫」─「弱虫」


 いじめっ子の口からでた暴言ビームがリヨクに向かって飛んでくる。


 ──(こんなのよけっこない)


 どんどん近づいてくる暴言──リヨクは、うずくまり、心臓をおさえる。


 ──リヨクは、あたる瞬間、目を閉じた。


「うっ」──(あれ……痛くない)


 立ち上がり、自分の体を確認していると、また暴言ビームが飛んでくる。


 暴言ビームは、リヨクの体に当ると、ふわふわふわっと煙のように消えた。


「そっか、今のぼくには『オウエンの盾』と、『ユウマの鎧』があったんだ! アー、ハ、ハ、ハ」


 リヨクは笑いながら暴言ビームを無視して、いじめっ子に近づいていく──(かかってこい!)


「コンコン、リヨクー。コンコン、リヨクー」


 ──オウエンの声が家の外から聞こえてきた。


「コンコン、リヨクー」


「んーもう、いいところだったのに……」


 ──リヨクはベッドから起き上がり、ドアを開けた。


「お、やっとおきた。一緒に学校行こ!」

「おはよ、おれもコイツに起こされた」


 いつも通り元気なオウエンとまだ眠そうなユウマがいた。


「おはよ。…」

「早くいこーぜ」

「うん。…」

「はやく、はやく」


 ──リヨクは、リュックを持ち、家を出た。




 ──ポムヒュースの中──


 入り口には、校長のアーガバウト、清掃係のモア、イオ、メヒワ先生、そしてその他の大人たち。と多くの人が集まっていた。


 ──リヨクたちは、すでに集まっているポピュアの子たちに混ざり、アーガバウト校長の歓迎の言葉に耳を傾ける。


「入学おめでとう! 君たちは好奇心溢れる素晴らしい子じゃ。このポムヒュースで、たぁくさんの友達を作り、そして楽しく学び、成長してほしい。君たち一人ひとりの成長を、心から応援しておる。

 充実した学舎生活を送れるよう願いを込めて、わしからのプレゼントじゃ」


 アーガバウト校長が「《リベク! 》」と唱えると、ポムヒュース全体の芝生が一斉に伸び、光を完全に遮断した。

 一階が真っ暗闇になると、アーガバウト校長の低い声がまたポムヒュースに響いた。


「《ユ・アノン》」


 すると真っ暗闇の中、小さな光の玉がポツポツと現れた。


 ──ぼくたちは、まるで宇宙に浮かんでいるかのような感覚になっていた。


「うわぁ〜」

「すげぇ」

「あれ、なんか涼しくなった?」

「ほんとだ」


 リヨク、オウエン、ユウマは、星の光がわずかに周囲を照らし出す中、この神秘的な瞬間に驚嘆し、静かな感動を共有していた。


 ──アーガバウト校長は、輝く星々を見上げるぼくらに向けて話し始めた。


「宇宙じゃ──綺麗じゃろう。みんなには、あの星々のように輝く無限の可能性が宿っておる。大切なのは、恐れず常に向上心を持ち続けること。君たちは、どんな時も自分の光を見失ってはならん。暗闇の中で輝く星のように、光続けるのじゃ──充分に見れたかの? ──それじゃ、閉幕としようかの」


 映し出された宇宙の星々は、ぼくたちに何か特別なものを伝えている気がした。


 ──ぼくたちはただ静かに輝く星々を見上げていた。


 《メヘム! 》


 アーガバウト校長の太い声が響き渡ると、映し出された宇宙は閉じ、ポムヒュースに光が差し込んできた──。


「うわ! 眩し!」


 ──かざした手を下ろすと、やさしくほほえむ先生たちの姿が見えた。


「改めて。ポムヒュース入学おめでとう──それじゃ、入学初日の授業を楽しんでの」


 アーガバウト校長は、言い終わると清掃係の人と一緒に2階に上がって行った。


 ──メヒワ先生がぼくらに歩み寄ってきた。


「入学おめでとうございます。素晴らしいプレゼントを頂きましたね。それでは笛を出して、3階へ行きましょう」


「ピー」──「ピーピー」──「ピーピーピー」──「ピ」


 ──子どもたちは、昨日習った方法で笛を吹きながら3階へと上昇し、到着した。



 ──ポムヒュース3階、塔の中の教室──



「《リベク》」


 メヒワ先生が呪文を唱えると、地面から巨大な葉っぱが生えてきた。


 メヒワ先生が「《レンレ》」と言うと巨大な葉っぱの葉脈は動き出し、文字が浮かび上がってきた。


 〝①植物学『フィトヒュス』

 ②石学『ネランス』

 ③獣学『ミュース』〟


 ──メヒワ先生は、文字の形になった葉脈を、棒のような茎でなぞりながら話し出した。


「これから3年間、植物、石、獣と、3つの生態と扱い方について学んでいただきます。


 ですがその前に、基礎となる太陽エネルギー《プロン》を理解し、成長リベクを習得しておかなくてはなりません。基礎をしっかりと身につけた後、同い年の在学生と一緒に、3つの科目について学んでいきましょう。


「それでは教科書、自然の生態と接し方ヤフィムネリーピを出してください。──4ページ目に《プロン》を感じる方法が書かれています。

 いくつか方法が載っていますが、今回はこの、『水流法』を使って《プロン》の扱い方を理解していただきます」


『水流法』と書かれたページには、人の全身が描かれた図と、その横に水を使った練習方法が書かれていた。


「『水流法』とは、流れていく水を《プロン》と見立て、体を伝う水の感覚を通じて《プロン》を感じる方法です。

 ここに書かれてあるとおり、水を頭の上から流します。

 ですが、服をきたままだと感覚を理解しずらいですので、せめて両袖を縮め、ズボンをぴったりとさせましょう。

 片袖を見ながら笛を『ピー』っと一回吹いてください。ズボンも同じです」


 ── 一斉に笛を吹き始める子どもたち。教室内は「ピーピー」という音で満ちた。


 リヨクも右袖を見ながら笛を吹く。すると、右袖は徐々に縮まっていきノースリーブになった。


「おぉ〜〜」

「この笛ほんと便利だな」


 少し離れた席に座るオウエンは、興奮するリヨクとユウマを羨ましそうに見ている。



「なんかこっちみてるな。──ってかオウエンはなんで制服着てないんだ?」

「なんか女の子みたいだから嫌だって」

「ふーん。なのに今は着たくてたまらないって顔してる」


 ユウマは、ニタッと笑いながらジェスチャーで、オウエンに“見とけよ”と言うと、片脚を見ながら「ピー」と笛を吹いた。


 すると、ズボンはキュッと締まりユウマの細い足の輪郭がくっきりと浮かび上がった。

(ぼくの足より細いや)とリヨクは思った。


「両方縮めて待っていてください。水は私が配ります。《リベク》──《ロロ》──《ロロキュア》」

 メヒワ先生は、水色の円錐型の、花? を生やし、その花から湧き出る水を空中に浮かした──そして、指揮者のような手捌きで、浮かんでいる水を子どもたちの元に移動させた。


「オウエンくん、あなたはその服を着たまま授業を受けますか? それとも──」


 ──メヒワ先生の言葉は、オウエンによって遮られた。


 オウエンは「受ける!」と言い、ためらうことなく服を脱ぎ捨て、パンツ一丁になった。


「フッ、そうですか。念のため予備の制服を用意してましたが、まぁいいでしょう。そのほうが感覚を捉えやすいでしょうし」


「えっ」といい固まるオウエン。


 メヒワ先生は笑いながら、取り出した予備の制服を教卓の後ろに戻した。


「バカだなー」ユウマはボソッと言った。


 ポピュアの男の子はみんなオウエンを見て無邪気に笑っている。だけど、女の子からの人気はなさそうだった。


 ──リヨクは笑ったメヒワ先生を初めて見て、何だかうれしい気持ちになった。


「やっぱオウエンはすごいな」

「すごい? バカなだけじゃん。……てかあいつあんなにムキムキだったんだ」

「ほんとだ。どうやったらあんな体になるんだろう」

「バカだから一日中トレーニングしてんだろ、どうせ」

「すごいなぁ」



「──今から頭に水を流しますが、これはただの水ですので怖がらなくて結構です。体を伝っていく水に集中してください。


「《イーフィ》」


 メヒワ先生が唱えると、頭上に浮かぶ水のかたまりが、頭を伝いゆっくりと流れ落ちていく。


冷たっ子ども」──「集中してくださいメヒワ」──。



「水が流れていく感覚を覚えてください。水が体を伝い、芝生に流れていく──水を通じて、あなたたちは今、植物と繋がっているのです」


 ──頭の上から水を流し続けられる子どもたち。


「手や足をゆっくりと広げたり、戻したりして水がついてくる感覚を覚えて──」


(水が体を通って──芝生に流れていく──手を広げると水がついてくる──)

 リヨクは、水に集中し、ゾーンに入っていた。


 ──メヒワ先生の声が聞こえ、リヨクは集中を解いた。


「《ラウ》」


 ──メヒワ先生は、流れつづける水を止め、話し出した。


「水が体を伝う感覚を覚えましたか? ──感覚が残っているうちに《成長リベク》と唱えてみましょう。──それでは、芝生に手をつけてください」


 ──芝生に手をつける子どもたち。


「どうなんのかな?」ユウマはワクワクとした表情でリヨクに言った。

 リヨクは頭を傾げた。


「今も水が頭の上から流れていると思ってください──そして、その見えない水が、腕を通り、手に流れ──芝生に流れます──集中して──」


 ──ふたたび集中するリヨク。


(水が体を通って──芝生に流れていく──)


 リヨクは、どこからか〝がんばれ! 〟と言われたような気がした)


「流れましたか? その見えない水がプロンです。では一斉に唱え、プロンを芝生に与えましょう。それでは一斉に《リベク》と唱えますよ。せーの」


『《リベク》』


 リヨクの手元から上に向かって、緑の稲妻が走った。

 ──勢いよく伸びた芝は、高い塔の天井まで成長した。


 リヨクはポカンと口を開け、しばらく上を見て立ち尽くす。


「これ、リヨクがやったんだよな……」


 ユウマは、自分の手をみて驚くリヨクに言った。


「ぼく……なのかな?」

「周りみてみろよ、お前だけだぜ? こんなに伸ばせたの」


 ──周りを見ると、芝が伸び足に絡まり困ってる子が数名。

 芝が背と同じ高さまで伸び、掴んでいる子が1人。

 その他は平らな芝生の上に立ち、リヨクを見て拍手している。


「な、リヨクだけだろ、こんなに伸ばせたの」


 リヨクは、ユウマにうなずくと、また成長した芝を見上げた──ユウマに肩を叩かれ前を向くと、メヒワ先生がリヨクを見ており、先生はぼくに向かって言った。


「調整さえできれば、あなたが一番センスあるわね」


「え」

 大勢の前で褒められた経験がなかったリヨクは、体の中に空気が一気に入ってるような感覚になり、心の中から涙が溢れ出し、目をわずかに潤ませた。


「リヨク?」


 ユウマに声をかけられたリヨクは、顔を両手で覆い、目を乾かした。


「ん?」


「なんでもない、リヨク、なんか固まってたから」


 メヒワ先生はリヨクを見ながら「ふっ」とやさしく笑うと教卓に戻り、みんなに話し出した。


「リヨクくんの他にも、成長させることができた子は何人かいるみたいね。その中でも上に伸ばす事ができたのが、リヨクくんと、セイブくん。まぁ、最初からできる子は稀です。


 観察力の才能を見るために試しにやってもらっただけですので、落ち込む必要はありません。

 練習すれば誰でもできるようになります。


 ──それでは、《成長リベク》について学んでいきましょう。自然の生態と接し方ヤフィムネリーピ6ページを開いてください」

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