子供達と神々の神楽 ～月の章～

鏡よ鏡

「嫌（いや）、放（はな）して！」

　そう言（い）って暴（あば）れる緋（ひ）衣（い）に、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）は言（い）う。

「そこに居（い）る小（こ）僧（ぞう）への嫉（しっ）妬（と）心（しん）を利（り）用（よう）しようと考（かんが）えたが、以（い）外（がい）に使（つか）えんな」

「適（てき）当（とう）な事（こと）を言（い）わないで下（くだ）さい！」

　そう天（てん）狗（ぐ）丸（まる）に怒（おこ）る緋（ひ）衣（い）に、風（かぜ）丸（まる）が話（はな）しを続（つづ）ける。

「他（た）人（にん）の事（こと）を羨（うらや）ましがって何（なに）が悪（わる）い、その気（き）持（も）ちをまったく持（も）たぬ人（にん）間（げん）など人（ひと）では無（な）い。お前（まえ）は自（みずか）らの意（い）思（し）と俺（おれ）の協（きょう）力（りょく）で、要（い）らぬ運（うん）命（めい）の意（い）図（と）を引（ひ）き千切（ちぎ）ったのだ。協（きょう）力（りょく）してやった対（たい）価（か）として、少（すこ）し付（つ）き合（あ）ってもらうぞ！」

「どう言（い）う事（こと）ですか？」

　風（かぜ）丸（まる）の言（こと）葉（ば）を、緋（ひ）衣（い）は不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）い聞（き）き返（かえ）す。

　しかしそれを無（む）視（し）して、風（かぜ）丸（まる）は緋（ひ）衣（い）の目（め）の前（まえ）に黒（こく）水（すい）鏡（きょう）を出（しゅつ）現（げん）させた。

「黒（こく）水（すい）鏡（きょう）よ緋（ひ）衣（い）の姿（すがた）を写（うつ）し出（だ）せ。そして緋（ひ）衣（い）よ、写（うつ）りし姿（すがた）こそ自（みずか）らの心（こころ）と知（し）れ！」

　風（かぜ）丸（まる）がそう言（い）うと、緋（ひ）衣（い）の姿（すがた）が黒（こく）水（すい）鏡（きょう）に写（うつ）る。

　そして黒（こく）水（すい）鏡（きょう）に写（うつ）った緋（ひ）衣（い）は、緋（ひ）衣（い）にだけ聞（き）こえる様（よう）に語（かた）り出（だ）す。

「……私（わたし）は薫（かおる）が羨（うらや）ましい。私（わたし）は危（あぶ）なくても危（き）険（けん）でも構（かま）わない、自（じ）分（ぶん）の目（め）で確（たし）かめたい。助（たす）けたい気（き）持（も）ちは嘘（うそ）じゃないけど、それ以（い）上（じょう）に不（ふ）思（し）議（ぎ）な事（こと）を見（み）てみたい。その為（ため）なら……」

「違（ちが）います、私（わたし）は……――」

　　ガコン　ガコン　ガコン

「おい天（てん）狗（ぐ）丸（まる）、緋（ひ）衣（い）を放（はな）せ！」

　黒（こく）水（すい）鏡（きょう）に写（うつ）った自（じ）分（ぶん）の言（こと）葉（ば）を否（ひ）定（てい）しようとした緋（ひ）衣（い）の言（こと）葉（ば）を、緋（ひ）衣（い）の元（もと）にやって来（き）た葉（よう）司（じ）の言（こと）葉（ば）が遮（さえぎ）った。

　同（おな）じくやって来（き）た北（ほく）斗（と）や太（たい）耀（よう）共（とも）々（ども）、葉（よう）司（じ）達（たち）の視（し）線（せん）は風（かぜ）丸（まる）達（たち）に向（む）いている。

「動（うご）かない敵（てき）を放（ほう）置（ち）して此方（こちら）に来（き）たか……甘（あま）いな。来（こ）い大（だい）竜（りゅう）神（じん）！」

　鬼（おに）丸（まる）がそう言（い）うと、大（だい）竜（りゅう）神（じん）は動（うご）き出（だ）し、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）達（たち）の背（はい）後（ご）に飛（と）んで移（い）動（どう）する。

　そして黒（こく）水（すい）鏡（きょう）は葉（よう）司（じ）達（たち）の方（ほう）へ裏（うら）返（がえ）り、黒（こく）水（すい）鏡（きょう）に写（うつ）った緋（ひ）衣（い）は葉（よう）司（じ）達（たち）に喋（しゃべ）り出（だ）す。

「貴方（あなた）達（たち）がこの事（じ）件（けん）の原（げん）因（いん）なら、私（わたし）の本（ほん）心（しん）が知（し）られなければ私（わたし）の行（こう）動（どう）も許（ゆる）される……」

「その言（こと）霊（だま）、貰（もら）い受（う）けるぞ！　オン、ヒラヒラケン、ヒラケンノウソワカ」

　　ジャラン

　天（てん）狗（ぐ）丸（まる）がそう言（い）って緋（ひ）衣（い）を放（はな）し、呪（じゅ）文（もん）を唱（とな）えて錫（しゃく）杖（じょう）を振（ふ）ると、錫（しゃく）杖（じょう）の音（おと）と共（とも）に天（てん）狗（ぐ）丸（まる）の手（て）の開（ひら）に目（め）に見（み）える風（かぜ）が集（あつ）まる。

「我（わ）が神（じん）通（つう）力（りき）で捕（と）らえし女（めの）童（わらわ）の事（こと）の葉（は）よ。現（うつし）世（よ）の者（もの）を核（かく）に、鎖（くさり）、楔（くさび）と成（な）りて我（わ）が形（かた）代（しろ）と成（な）らん。オン、ヒラヒラケン、ヒラケンノウソワカ……」

　更（さら）に天（てん）狗（ぐ）丸（まる）が続（つづ）けてそう言（い）うと、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）の手（て）の開（ひら）に有（あ）った目（め）に見（み）える風（かぜ）と共（とも）に。緋（ひ）衣（い）は光（ひか）りに包（つつ）まれ消（き）えた。

「おい、緋（ひ）衣（い）をどこにやりやがった！」

　葉（よう）司（じ）が慌（あわ）てて天（てん）狗（ぐ）丸（まる）にそう言（い）うと、大（だい）竜（りゅう）神（じん）に近（ちか）付（づ）いた鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）から、通（つう）信（しん）機（き）能（のう）で太（たい）耀（よう）が葉（よう）司（じ）に説（せつ）明（めい）をする。

「落（お）ち着（つ）け葉（よう）司（じ）、あの呪（じゅ）文（もん）は前（まえ）に聞（き）いた事（こと）が有（あ）る……」

（火（カ）流（ル）羅（ラ）ガイストが出（で）て来（こ）ないという事（こと）は……）

　そう考（かんが）えた太（たい）耀（よう）は、大（だい）竜（りゅう）神（じん）に視（し）線（せん）を移（うつ）し言（い）う。

「多（た）分（ぶん）、緋（ひ）衣（い）さんは大（だい）竜（りゅう）神（じん）の中（なか）だ！」

　太（たい）耀（よう）がそう言（い）うと、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）が続（つづ）ける。

「ご名（めい）答（とう）。自（みずか）らの罪（つみ）を他（た）人（にん）の罪（つみ）で計（はか）り、自（みずか）らを許（ゆる）した所（ところ）で、真（しん）実（じつ）を知（し）った側（がわ）が如何（どう）思（おも）うかは判（わか）らぬ。その恐（きょう）怖（ふ）、偽（いつわ）った心（こころ）は歪（ゆが）みモノの怪（け）へと変（か）わり行（ゆ）く。さぁ、お前（まえ）達（たち）はコ（・）レ（・）を如何（どう）対（たい）処（しょ）する？」

　錫（しゃく）杖（じょう）で葉（よう）司（じ）達（たち）を指（さ）しながら天（てん）狗（ぐ）丸（まる）はそう言（い）い、黒（こく）水（すい）鏡（きょう）共（とも）々（ども）風（かぜ）丸（まる）、鬼（おに）丸（まる）、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）は姿（すがた）を消（け）す。

「コ（・）コ（・）は……」

　大（だい）竜（りゅう）神（じん）から緋（ひ）衣（い）の声（こえ）がする。

「緋（ひ）衣（い）さん、大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）ですか？」

　薫（かおる）が大（だい）竜（りゅう）神（じん）に向（む）かってそう言（い）うと、緋（ひ）衣（い）は言（い）い返（かえ）す。

「……はい。何（なに）か暗（くら）い空（くう）間（かん）に居（い）て、目（め）の前（まえ）の穴（あな）みたいな所（ところ）から薫（かおる）君（くん）達（たち）が見（み）えています」

「待（ま）ってろ、今（いま）僕（ぼく）が捕（つか）まっている場（ば）所（しょ）をっうわ！」

　太（たい）耀（よう）が喋（しゃべ）っている最（さい）中（ちゅう）、大（だい）竜（りゅう）神（じん）は行（い）き成（な）り動（うご）き出（だ）し鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に斬（き）り掛（か）かって来（き）た。

　その攻（こう）撃（げき）を躱（かわ）す太（たい）耀（よう）だが、大（だい）竜（りゅう）神（じん）はその後（あと）も執（しつ）拗（よう）に鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）を狙（ねら）い攻（こう）撃（げき）を繰（く）り返（かえ）す。

　攻（こう）撃（げき）自（じ）体（たい）は遅（おそ）いものの、移（い）動（どう）速（そく）度（ど）が上（あ）がっており、太（たい）耀（よう）は鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）で大（だい）竜（りゅう）神（じん）を振（ふ）り切（き）る事（こと）が出（で）来（き）ず、躱（かわ）すのが精（せい）一（いっ）杯（ぱい）。

　　ガコン　ガコン

　　　カキン　カコン

　葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）は隙（すき）を見（み）て、大（だい）竜（りゅう）神（じん）に龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）と狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）で体（たい）当（あ）たり攻（こう）撃（げき）を行（おこな）ってみる。

　が、効（こう）果（か）が有（あ）る様（よう）には見（み）えない。

「このままじゃ……　そうだ、止（と）まって大（だい）竜（りゅう）神（じん）」

　そう口（くち）に出（だ）し、緋（ひ）衣（い）は大（だい）竜（りゅう）神（じん）を止（と）めようとするが、大（だい）竜（りゅう）神（じん）は一（いっ）瞬（しゅん）止（と）まるだけでまた攻（こう）撃（げき）を繰（く）り返（かえ）す。

「……無（む）駄（だ）よ」

　その直（ちょく）後（ご）、緋（ひ）衣（い）の後（うし）ろから声（こえ）がした。

　振（ふ）り返（かえ）った緋（ひ）衣（い）が目（め）にしたのは、もう一（ひと）人（り）の自（じ）分（ぶん）。

　もう一（ひと）人（り）の緋（ひ）衣（い）は言（い）う。

「私（わたし）は貴女（あなた）、貴方（あなた）の心（こころ）」

　一（いっ）方（ぽう）で、大（だい）竜（りゅう）神（じん）の攻（こう）撃（げき）を躱（かわ）し続（つづ）けている太（たい）耀（よう）は焦（あせ）っていた。

「二（ふ）人（たり）共（とも）、早（はや）く大（コ）竜（イ）神（ツ）の動（うご）きを止（と）めてくれ。このままだと日（ひ）が沈（しず）んで、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）がきちんと力（ちから）を使（つか）えるか分（わ）からなくなる！」

　葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）にそう教（おし）える太（たい）耀（よう）だが、葉（よう）司（じ）は困（こま）った口（く）調（ちょう）で言（い）い返（かえ）す。

「そんな事（こと）言（い）ってもよぉ」

　葉（よう）司（じ）の言（い）う通（とお）り、葉（よう）司（じ）や北（ほく）斗（と）は緋（ひ）衣（い）の居（い）場（ば）所（しょ）が分（わ）からず、大（だい）竜（りゅう）神（じん）に下手（へた）に攻（こう）撃（げき）が出（で）来（き）ない。

　なので体（たい）当（あ）たりで大（だい）竜（りゅう）神（じん）に効（こう）果（か）が無（な）い以（い）上（じょう）、二（ふた）人（り）にはどうしようもない。

「大（だい）竜（りゅう）神（じん）を動（うご）かしているのは私（わたし）、貴女（あなた）が大（だい）竜（りゅう）神（じん）を動（うご）かすには、私（わたし）を受（う）け入（い）れるしかない」

　大（だい）竜（りゅう）神（じん）の内（うち）、もう一（ひと）人（り）の緋（ひ）衣（い）が緋（ひ）衣（い）にそう言（い）うと、緋（ひ）衣（い）はもう一（ひと）人（り）の自（じ）分（ぶん）に聞（き）く。

「なら、どうすれば良（い）いんです……」

「教（おし）えなさい。あの子（こ）達（たち）に私（わたし）の内（うち）、……私（わたし）がここに居（い）る為（ため）に貴方（あなた）達（たち）を利（り）用（よう）したと」

「そんな事（こと）はありません。私（わたし）はあの子（こ）達（たち）を助（たす）けたいと……」

　すると外（そと）から薫（かおる）の声（こえ）がする。

「緋（ひ）衣（い）さん。貴女（あなた）の声（こえ）しかしませんが、他（ほか）に誰（だれ）か居（い）るんですか？」

　緋（ひ）衣（い）は自（じ）分（ぶん）以（い）外（がい）に、もう一（ひと）人（り）の自（じ）分（ぶん）の声（こえ）が聞（き）こえない事（こと）を理（り）解（かい）し、少（すこ）し考（かんが）えてから薫（かおる）に言（い）い返（かえ）す。

「いいえ、多（た）分（ぶん）私（わたし）は一（ひと）人（り）です」

「あの子（こ）は、貴方（あなた）に本（ほん）当（とう）の事（こと）を話（はな）してくれたのに……」

　もう一（ひと）人（り）の自（じ）分（ぶん）にそう言（い）われ、緋（ひ）衣（い）は怒（おこ）る。

「うるさい！」

「嫌（きら）われたくないなら、都（つ）合（ごう）の悪（わる）い部（ぶ）分（ぶん）は隠（かく）せば良（い）いの？」

　呆（あき）れた様（よう）にもう一（ひと）人（り）の自（じ）分（ぶん）にそう諭（さと）され、緋（ひ）衣（い）は強（つよ）い口（く）調（ちょう）で言（い）い返（かえ）す。

「悪（わる）い？　人（ひと）はそう言（い）うモノ、それにあの子（こ）達（たち）を助（たす）けたかった気（き）持（も）ちは嘘（うそ）じゃない！」

「ねぇ、緋（ひ）衣（い）さん。どうしたの？」

　今（こん）度（ど）は外（そと）から、恵（え）理（り）花（か）の声（こえ）が耳（みみ）に入（はい）る。

「何（なん）でもありません、貴女（あなた）には関（かん）係（けい）無（な）い事（こと）なので放（ほう）っておいて！」

　少（すこ）し怒（おこ）った口（く）調（ちょう）の緋（ひ）衣（い）の返（へん）事（じ）に、恵（え）理（り）花（か）は少（すこ）しムッとし言（い）い返（かえ）す。

「何（なに）よ、人（ひと）が心（しん）配（ぱい）してるのに。もしかして、何（なに）か隠（かく）してるんじゃ無（な）いでしょうね！」

　恵（え）理（り）花（か）のこの言（こと）葉（ば）に、緋（ひ）衣（い）は反（はん）射（しゃ）敵（てき）に恵（え）理（り）花（か）の方（ほう）を向（む）き文（もん）句（く）を言（い）う。

「関（かん）係（けい）無（な）いから、関（かん）係（けい）無（な）いって言（い）ってるでしょう！」

　元（もと）々（もと）緋（ひ）衣（い）は、自（じ）分（ぶん）との会（かい）話（わ）で口（く）調（ちょう）が少（すこ）し荒（あら）ぶっていた。

　そして緋（ひ）衣（い）の現（げん）状（じょう）が分（わ）からない恵（え）理（り）花（か）は、少（すこ）し前（まえ）に口（くち）ゲンカをしていた事（こと）も有（あ）り、緋（ひ）衣（い）の言（こと）葉（ば）を不（ふ）快（かい）に感（かん）じたのだ。

　更（さら）に緋（ひ）衣（い）も、対（たい）峙（じ）したもう一（ひと）人（り）の自（じ）分（ぶん）に煽（あお）られイラついていた為（ため）、売（う）り言（こと）葉（ば）に買（か）い言（こと）葉（ば）に成（な）ってしまったので有（あ）る。

　しかし緋（ひ）衣（い）の意（い）識（しき）が、一（いち）時（じ）的（てき）とは言（い）え完（かん）全（ぜん）に恵（え）理（り）花（か）の方（ほう）に向（む）いた為（ため）、大（だい）竜（りゅう）神（じん）は攻（こう）撃（げき）を止（と）め恵（え）理（り）花（か）の方（ほう）を向（む）いた。

　その隙（すき）を突（つ）いて、太（たい）耀（よう）が鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に命（めい）令（れい）をする。

「今（いま）だ鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）、大（だい）竜（りゅう）神（じん）に真（しん）実（じつ）を照（て）らす光（ひか）りを。真（しん）実（じつ）を照（て）らす光（ひか）りよ、大（だい）竜（りゅう）神（じん）の真（しん）実（じつ）の姿（すがた）を暴（あば）き出（だ）せ！」

　鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の真（しん）実（じつ）を照（て）らす光（ひか）りが、太（たい）陽（よう）から大（だい）竜（りゅう）神（じん）を照（て）らす。

　すると大（だい）竜（りゅう）神（じん）の胴（どう）体（たい）の部（ぶ）分（ぶん）に、緋（ひ）衣（い）の人（ひと）影（かげ）か現（あら）われた。

「二（ふ）人（たり）共（とも）、胴（どう）体（たい）だ！　恵（え）理（り）花（か）が危（あぶ）なく無（な）い様（よう）他（た）の部（ぶ）分（ぶん）を破（は）壊（かい）するぞ」

　太（たい）耀（よう）がそう言（い）うと、北（ほく）斗（と）が狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）で思（おも）い切（き）り、大（だい）竜（りゅう）神（じん）の足（あし）に艮（こん）比（ぴ）良（ら）の刀（かたな）で斬（き）り掛（か）かる。

　　ガギン

　……が、刃（やいば）が通（とお）らない。

　　ミシミシ　

　　　ガゴン　ガゴン

　その結（けっ）果（か）、北（ほく）斗（と）は攻（こう）撃（げき）を中（ちゅう）断（だん）。

　狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）は後（うし）ろに数（すう）歩（ほ）飛（と）び退（の）き、北（ほく）斗（と）は言（い）う。

「でもどうやって？　多（た）分（ぶん）ボク等（ら）の力（ちから）じゃ大（だい）竜（りゅう）神（じん）の破（は）壊（かい）は出（で）来（き）ないよ！」

　北（ほく）斗（と）の言（こと）葉（ば）の後（あと）、大（だい）竜（りゅう）神（じん）は再（さい）度（ど）動（うご）き出（だ）し臣器（おみき）達（たち）に攻（こう）撃（げき）を始（はじ）めた。

　大（だい）竜（りゅう）神（じん）は、今（こん）度（ど）は三（さん）器（き）をランダムに選（えら）んで攻（こう）撃（げき）を仕（し）掛（か）けて来（く）る為（ため）、葉（よう）司（じ）達（たち）は一（いっ）器（き）が攻（こう）撃（げき）された時（とき）に、他（た）の二（に）器（き）が隙（すき）を突（つ）いて攻（こう）撃（げき）をするパターンを繰（く）り返（かえ）すが……

　攻（こう）撃（げき）は通（とお）らない。

「動（どう）鱗（りん）剣（けん）!」

「ソーラーカッター！」

　　ドガッシャン

　しかし動（どう）鱗（りん）剣（けん）は弾（はじ）かれ、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）は弾（はじ）き飛（と）ばされた。

「うわっぁぁ！」

「チクショウ、どうすれば良（い）いんだ……」

　太（たい）耀（よう）が反（はん）動（どう）の揺（ゆ）れで叫（さけ）び、葉（よう）司（じ）がそう言（い）って悔（く）やしがると、何所（どこ）からかオモイカネの声（こえ）が聞（き）こえて来（く）る。

「それなら君（きみ）達（たち）も、合（がっ）体（たい）すれば良（い）い」

　更（さら）にオモイカネは言（い）う。

「話（はな）しは聞（き）いていた、如何（どう）やら封（ふう）印（いん）は解（と）けた様（よう）だな」

　そう言（い）って薫（かおる）の目（め）に前（まえ）に現（あら）われたオモイカネは、葉（よう）司（じ）達（たち）に向（む）かって続（つづ）ける……

　とても力（ちから）強（づよ）く。

「緋（ひ）衣（い）が言（い）っていただろう。そう言（い）うイメージが有（あ）るなら合（がっ）体（たい）すれば力（ちから）は増（ま）す。我（われ）々（われ）はそう言（い）う存（そん）在（ざい）だ！」

　ツクヨミの封（ふう）印（いん）を破（やぶ）り、オモイカネが手（て）帳（ちょう）から出（で）て来（き）た事（こと）に驚（おどろ）いていたスセリだが、オモイカネのその言（こと）葉（ば）を聞（き）き、更（さら）に驚（おどろ）いて……と言（い）うか呆（あき）れて反（はん）射（しゃ）的（てき）に言（い）い返（かえ）す。

「オモイカネ、何（なに）を世（よ）迷（まご）い事（ごと）を。臣器（おみき）にそんな力（ちから）は……」

「臣器（おみき）は業（ごう）と森（しん）羅（ら）の結（けっ）晶（しょう）、やってやれない事（こと）はない筈（はず）だ。それに世（よ）とは刻（とき）に由（よ）り変（か）わるモノ、他（た）に手（て）が無（な）いなら試（ため）してみるしかあるまい！」

　オモイカネにそう言（い）い返（かえ）され、スセリは頭（あたま）を抱（かか）える。

（また勝（かっ）手（て）な事（こと）を……）

　そしてククリとツクヨミに念（ねん）話（わ）を送（おく）るが反（はん）応（のう）は無（な）い。

　スセリがそんな事（こと）をしている時（とき）、葉（よう）司（じ）と太（たい）耀（よう）がオモイカネに文（もん）句（く）を言（い）い返（かえ）す。

「合（がっ）体（たい）ったって、どうすりゃ良（い）いんだよ？」

「大（だい）体（たい）、この状（じょう）況（きょう）で合（がっ）体（たい）なんて出（で）来（き）るのか？」

「それは自（じ）分（ぶん）達（たち）で考（かんが）えてくれ！」

　そう言（い）い返（かえ）したオモイカネに、北（ほく）斗（と）は文（もん）句（く）を言（い）う。

「そんな、学（がっ）校（こう）の先（せん）生（せい）みたいな事（こと）言（い）われても……」

「北（ほく）斗（と）君（くん）の言（こと）葉（ば）には賛（さん）同（どう）しますが、皆（みな）さんお願（ねが）いですから真（ま）面（じ）目（め）にやって下（くだ）さい」

　今（いま）までの会（かい）話（わ）を聞（き）いて緋（ひ）衣（い）がそう文（もん）句（く）を言（い）うと、オモイカネが緋（ひ）衣（い）に問（と）い掛（か）ける。

「それなら君（きみ）も協（きょう）力（りょく）してくれ、何（なに）を隠（かく）している？」

「私（わたし）は……」

　そう呟（つぶや）いた緋（ひ）衣（い）に、もう一（ひと）人（り）の自（じ）分（ぶん）が言（い）う。

「ほら。貴女（あなた）が嫌（きら）われたくないと言（い）う思（おも）いが、皆（みんな）に迷（めい）惑（わく）を掛（か）けている」

　もう一（ひと）人（り）の自（じ）分（ぶん）にそう言（い）われ、緋（ひ）衣（い）はもう一（いち）度（ど）自（じ）分（ぶん）と向（む）かい合（あ）う。

「分（わ）かっています、でも……」

　しかし大（おお）声（ごえ）でそう言（い）った後（あと）、俯（うつむ）いて黙（だま）り込（こ）んでしまった。

　その声（こえ）を聞（き）いたスセリは考（かんが）える。

（……仕（し）方（かた）ない。このままでは日（ひ）が沈（しず）んで御（ご）両（りょう）親（しん）に余（あま）り心（しん）配（ぱい）を掛（か）けてもいけない。もう少（すこ）し私（わたし）も臨（りん）機（き）応（おう）変（へん）に動（うご）いてみましょうか……）

「緋（ひ）衣（い）、貴女（あなた）は何（なん）でこんな事（こと）をしようと思（おも）ったの？」

　スセリがそう言（い）うが、緋（ひ）衣（い）からの返（へん）事（じ）は無（な）い。

（反（はん）応（のう）は無（な）いか、それなら……）

　そんな事（こと）を考（かんが）えながら、スセリは葉（よう）司（じ）達（たち）五（ご）人（にん）に念（ねん）話（わ）を送（おく）る。

（「悪（わる）いけど皆（みんな）、私（わたし）に話（はな）しを合（あ）わせてくれるかしら」）