　それは龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の騒（さわ）ぎの有（あ）った月（げつ）曜（よう）日（び）の放（ほう）課（か）後（ご）の事（こと）。

　薫（かおる）は了（りょう）に会（あ）い、これからは龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が昼（ひる）休（やす）みに自（じ）分（ぶん）達（たち）の小（しょう）学（がっ）校（こう）に来（く）る事（こと）を教（おし）え、それを緋（ひ）衣（い）にも伝（つた）える様（よう）お願（ねが）いする。

　多（た）分（ぶん）何（なに）か理（り）由（ゆう）がないと、緋（ひ）衣（い）が自（じ）分（ぶん）の話（はな）しに応（おう）じてくれないと感（かん）じた薫（かおる）は、緋（ひ）衣（い）と話（はな）す機（き）会（かい）を作（つく）る為（ため）に龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の騒（さわ）ぎを利（り）用（よう）した。

　了（りょう）も薫（かおる）の考（かんが）えている事（こと）を何（なん）となく理（り）解（かい）していたので、その龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の事（こと）が緋（ひ）衣（い）に伝（つた）えられる。

「へぇ、そうなんですか。兄妹（きょうだい）と言（い）っても妹（いもうと）の部（へ）屋（や）に勝（かっ）手（て）に入（はい）らない、ほら帰（かえ）った帰（かえ）った！」

　自（じ）分（ぶん）の部（へ）屋（や）にやって来（き）て、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の事（こと）を話（はな）した了（りょう）を緋（ひ）衣（い）はそう言（い）って追（お）い返（かえ）す。

　了（りょう）を追（お）い返（かえ）した後（あと）、緋（ひ）衣（い）は窓（まど）の外（そと）を確（かく）認（にん）する。

　当（あ）たり前（まえ）だが、其所（そこ）に龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の姿（すがた）は無（な）い。

　前（ぜん）日（じつ）の日（にち）曜（よう）日（び）。緋（ひ）衣（い）が帰（かえ）った後（あと）で、薫（かおる）が臣器（おみき）達（たち）に頼（たの）んで緋（ひ）衣（い）の前（まえ）に現（あら）われようとした。

　しかしククリの力（ちから）の所為（せい）で、緋（ひ）衣（い）はまったく臣（おみ）器（き）に気（き）付（づ）かない。

　ククリの力（ちから）は対（たい）像（しょう）者（しゃ）が、自（みずか）らの行（こう）動（どう）でどうにかするしかない。

（お昼（ひる）に向（む）こうの学（がっ）校（こう）に着（つ）くにはまず、自（じ）転（てん）車（しゃ）を学（がっ）校（こう）に隠（かく）しておいて、昼（ひる）休（やす）みに学（がっ）校（こう）を抜（ぬ）け出（だ）して、途（と）中（ちゅう）のスーパーまで自（じ）転（てん）車（しゃ）で行（い）って駐（ちゅう）車（しゃ）場（じょう）に止（と）め、坂（さか）道（みち）は走（はし）っていけば、掃（そう）除（じ）の時（じ）間（かん）中（ちゅう）には私（わたし）の体（たい）力（りょく）でも……）

　緋（ひ）衣（い）はバレたら怒（おこ）られるリスクを承（しょう）知（ち）で、そんな計（けい）画（かく）を立（た）てる。

　しかし火（か）曜（よう）日（び）も水（すい）曜（よう）日（び）も、その計（けい）画（かく）を実（じっ）行（こう）する事（こと）は無（な）かった。

　道（どう）中（ちゅう）に両（りょう）親（しん）の知（し）り合（あ）いに出（で）くわす可（か）能（のう）性（せい）と、それの所為（せい）で両（りょう）親（しん）に迷（めい）惑（わく）が掛（か）かる事（こと）を天（てん）秤（びん）に掛（か）けて行（こう）動（どう）に移（うつ）せなかったのだ。

　かと言（い）って、放（ほう）課（か）後（ご）に玄（しず）見（み）小（しょう）学（がっ）校（こう）に行（い）っても意（い）味（み）が無（な）いし、日（にち）曜（よう）日（び）の事（こと）が有（あ）って薫（かおる）にも恥（は）ずかしくて聞（き）き辛（づら）い。

　他（ほか）に良（い）い安（あん）も受（う）かばず、傍（はた）から見（み）ても少（すこ）し様（よう）子（す）のおかしい緋（ひ）衣（い）を見（み）ていたククリは決（けつ）意（い）する。

　★★★★

【水（すい）曜（よう）　玄（しず）見（み）小（しょう）学（がっ）校（こう）　放（ほう）課（か）後（ご）】

（「……と、言（い）う訳（わけ）なんだけどお願（ねが）い出（で）来（き）る？」）

　龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の騒（さわ）ぎの有（あ）った週（しゅう）の水（すい）曜（よう）日（び）。

　その日（ひ）の放（ほう）課（か）後（ご）、ククリは念（ねん）話（わ）で嗣（つぐ）次（じ）とツクヨミに念（ねん）話（わ）で相（そう）談（だん）をしていた。

（「珍（めずら）しく叔母（おば）様（さま）から連（れん）絡（らく）が来（き）たと思（おも）えば、面（おも）白（しろ）い事（こと）を考（かんが）えましたね」）

　ツクヨミがククリにそう念（ねん）話（わ）で返（かえ）すと、嗣（つぐ）次（じ）も念（ねん）話（わ）で続（つづ）ける。

（「小（こ）太（た）郎（ろう）から話（はな）しは聞（き）いていたが、こんな作（さく）戦（せん）を考（かんが）えるとは……　私（わたし）は構（かま）いませんが、本（ほん）当（とう）に良（よ）ろしいのですか？」）

（「これに付（つ）いては私（わたし）が責（せき）任（にん）を取（と）ります、結（けっ）果（か）は彼（かの）女（じょ）次（し）第（だい）ですが……」）

　ククリが念（ねん）話（わ）でそう言（い）ったので、嗣（つぐ）次（じ）が念（ねん）話（わ）で返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

（「分（わ）かりました。では、私（わたし）の方（ほう）からスセリ様（さま）達（たち）に連（れん）絡（らく）しましょう」）

（「お願（ねが）いします」）

　ククリのその念（ねん）話（わ）を最（さい）後（ご）に、三（さん）神（しん）は念（ねん）話（わ）を切（き）る。

（……丁（ちょう）度（ど）良（い）い。こっちは自（じ）分（ぶん）でやらないと無（む）理（り）そうだし、劇（げき）の方（ほう）は鏡（かがみ）を使（つか）わ無（な）いで、あの子（こ）に劇（げき）の代（だい）役（やく）を頼（たの）んでみるか。さて、両（りょう）方（ほう）如何（どう）転（ころ）ぶか？）

　ツクヨミ――刻（とき）代（よ）はそう思（おも）いながら、恵（めぐみ）に会（あ）いに行（い）く事（こと）にした。

　★★★★

【木（もく）曜（よう）　場（ば）所（しょ）不（ふ）明（めい）】

「起（お）きてくれ、少（しょう）女（じょ）よ……」

　大人（おとな）の男（だん）性（せい）の声（こえ）で目（め）を覚（さ）ました緋（ひ）衣（い）は、目（め）の前（まえ）に光（ひか）り輝（かがや）く犬（いぬ）がいる事（こと）に気（き）付（づ）く。

「うわっ！」

　緋（ひ）衣（い）は声（こえ）を上（あ）げて驚（おどろ）き、辺（あた）りを見（み）回（まわ）す。

（どこです、ここは……）

　そう考（かんが）え、確（たし）か自（じ）分（ぶん）の部（へ）屋（や）に居（い）たはずと思（おも）い出（だ）した緋（ひ）衣（い）だが、今（いま）居（い）る所（ところ）は明（あき）らかに世（せ）界（かい）が違（ちが）った。

「驚（おどろ）かせてすまない、人（にん）間（げん）の少（しょう）女（じょ）よ。私（わたし）の名（な）前（まえ）は守（しゅ）護（ご）者（しゃ）フォルテス星（せい）人（じん）、星（ほし）神（がみ）アラハバキが復（ふっ）活（かつ）したので地（ち）球（きゅう）にやって来（き）た」

　光（ひか）り輝（かがや）くフォルテス星（せい）人（じん）がそう言（い）うと、緋（ひ）衣（い）は動（どう）揺（よう）しながら言（い）う。

「こっ、これは夢（ゆめ）でしょうか？　マンガやアニメみたいな事（こと）が起（お）こるなんて……」

　そんな緋（ひ）衣（い）にフォルテス星（せい）人（じん）は言（こと）葉（ば）を続（つづ）ける。

「落（お）ち着（つ）きなさい少（しょう）女（じょ）よ。天（てん）狗（ぐ）や鬼（おに）や大（だい）蛇（じゃ）が現（あら）われている時（じ）点（てん）で、そんな事（こと）を言（い）っている方（ほう）がおかしい」

「そんな事（こと）言（い）っても、私（わたし）は見（み）た事（こと）ありません！」

　緋（ひ）衣（い）がそう言（い）い返（かえ）すと、フォルテス星（せい）人（じん）は頷（うなず）き言（こと）葉（ば）を返（かえ）す。

「すまない。私（わたし）と君（きみ）の祖（そ）父（ふ）、円（まどか）との契（けい）約（やく）を忘（わす）れていた」

　その言（こと）葉（ば）を聞（き）いた緋（ひ）衣（い）は、不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）いフォルテス星（せい）人（じん）に聞（き）く。

「どう言（い）う事（こと）です？」

「アラハバキが復（ふっ）活（かつ）した時（とき）、君（きみ）が危（き）険（けん）に首（くび）を突（つ）っ込（こ）まない様（よう）に力（ちから）が働（はたら）いているのだ。円（まどか）が私（わたし）に頼（たの）んでいた事（こと）をすっかり忘（わす）れていた」

「忘（わす）れてって……　お祖父（じい）様（さま）とお知（し）り合（あ）いなのですか？」

「だからこそ君（きみ）の元（もと）にやって来（き）たのだ、これを見（み）て欲（ほ）しい」

　そう言（い）ってフォルテス星（せい）人（じん）の背（はい）後（ご）に映（うつ）し出（だ）されたのは、葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）の姿（すがた）。

　太（たい）耀（よう）との面（めん）織（しき）は無（な）いが、葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）は薫（かおる）の友（とも）達（だち）として会（あ）っていたので緋（ひ）衣（い）は無（む）言（ごん）で驚（おどろ）く。

「この子（こ）達（たち）はアラハバキに騙（だま）され、利（り）用（よう）されているのだ」

　フォルテス星（せい）人（じん）の言（こと）葉（ば）に、更（さら）に驚（おどろ）いた緋（ひ）衣（い）は聞（き）き返（かえ）す。

「説（せつ）明（めい）してもらえますか？」

　するとフォルテス星（せい）人（じん）は、神（しん）妙（みょう）な顔（かお）をして説（せつ）明（めい）を始（はじ）める。

「分（わ）かった。再（さい）度（ど）言（い）うが、この子（こ）達（たち）はアラハバキに利（り）用（よう）されている。子（こ）供（ども）達（たち）がロボットモドキに乗（の）ってアラハバキの部（ぶ）下（か）達（たち）と戦（たたか）っているのだが、このまま戦（たたか）い続（つづ）けると、最（さい）終（しゅう）的（てき）には現（げん）実（じつ）が怪（かい）異（い）……妖（よう）怪（かい）や神（かみ）々（がみ）の世（せ）界（かい）に浸（しん）食（しょく）されてしまうのだ。完（かん）全（ぜん）にそうなったら経（けい）済（ざい）社（しゃ）会（かい）が破綻（はたん）してしまう」

　緋（ひ）衣（い）はその言（こと）葉（ば）を聞（き）いて思（おも）う。

（あの子（こ）達（たち）が……　だったら尚（なお）更（さら））

　そして、少（すこ）し力（ちから）強（づよ）く言（い）う。

「だったら、アラハバキを早（はや）くどうにかしないと！」

　しかしフォルテス星（せい）人（じん）は困（こま）った顔（かお）で、緋（ひ）衣（い）に言（こと）葉（ば）を返（かえ）す。

「分（わ）かっている、準（じゅん）備（び）がもう直（す）ぐ整（ととの）うのでアラハバキに戦（たたか）いを挑（いど）む予（よ）定（てい）だ。しかし問（もん）題（だい）が１つ有（あ）る……」

「何（なん）です？」

　そう言（い）った緋（ひ）衣（い）に、フォルテス星（せい）人（じん）は教（おし）える。

「子（こ）供（ども）達（たち）を人（ひと）質（じち）に取（と）られる可（か）能（のう）性（せい）が有（あ）る。だから私（わたし）は君（きみ）に会（あ）いに来（き）たのだ、君（きみ）に子（こ）供（ども）達（たち）の説（せっ）得（とく）を頼（たの）みたい」

　その言（こと）葉（ば）を聞（き）き、緋（ひ）衣（い）は不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）う。

（どうして私（わたし）が？　いや、考（かんが）えるより聞（き）いた方（ほう）が早（はや）い）

　そう思（おも）った緋（ひ）衣（い）は、フォルテス星（せい）人（じん）に聞（き）く。

「どうして私（わたし）なのですか？」

「アラハバキの居（い）場（ば）所（しょ）は特（とく）定（てい）出（で）来（き）ているのだが、子（こ）供（ども）達（たち）に対（たい）処（しょ）すると、アラハバキに私（わたし）の存（そん）在（ざい）がバレて逃（に）げられる可（か）能（のう）性（せい）がある。それに彼（かれ）等（ら）の近（ちか）くには円（まどか）の孫（まご）が居（い）る。友（とも）達（だち）の様（よう）だし、君（きみ）が円（まどか）の孫（まご）を説（せっ）得（とく）すれば彼（かれ）の協（きょう）力（りょく）を得（え）られるかも知（し）れん」

　そう言（い）ったフォルテス星（せい）人（じん）に緋（ひ）衣（い）は言（い）う。

「それだったら薫（かおる）に……」

「彼（かれ）は利（り）用（よう）されている子（こ）供（ども）達（たち）に近（ちか）過（す）ぎて、もし何（なに）かの弾（はず）みでアラハバキに伝（つた）わってしまっても困（こま）る。奴（やつ）は円（まどか）と私（わたし）の関（かん）係（けい）を知（し）らん」

「……分（わ）かりました」

　説（せつ）明（めい）を聞（き）き、納（なっ）得（とく）し頷（うなず）いた緋（ひ）衣（い）だが、不（ふ）意（い）にある事（こと）に気（き）付（づ）きフォルテス星（せい）人（じん）に尋（たず）ねる。

「貴方（あなた）は、私（わたし）が危（き）険（けん）に首（くび）を突（つ）っ込（こ）まない様（よう）力（ちから）を使（つか）っていると言（い）いましたが、薫（かおる）や私（わたし）の兄妹（きょうだい）はどうなっているんです？」

「皆（みんな）、一（いち）応（おう）私（わたし）の力（ちから）が働（はたら）いている。円（まどか）の孫（まご）……薫（かおる）は間（かん）接（せつ）的（てき）な為（ため）、私（わたし）の力（ちから）が機（き）能（のう）していない様（よう）だが」

「それじゃあ何（なん）で、私（わたし）を選（えら）んだんです。妹（いもうと）はともかく、兄（あに）の了（りょう）でも良（よ）かったはずです！」

「それは君（きみ）が、そう望（のぞ）んだからだ」

　フォルテス星（せい）人（じん）の言（こと）葉（ば）に、緋（ひ）衣（い）は自（じ）分（ぶん）の気（き）持（も）ちを再（さい）確（かく）認（にん）し俯（うつむ）く。

（そう、私（わたし）は……）

　緋（ひ）衣（い）が俯（うつむ）き、その様（よう）子（す）を確（かく）認（にん）したフォルテス星（せい）人（じん）は、暫（しばら）くの沈（ちん）黙（もく）の後（あと）緋（ひ）衣（い）に言（い）う。

「準（じゅん）備（び）が整（ととの）うのは金（きん）曜（よう）日（び）の朝（あさ）だ、それまでに協（きょう）力（りょく）するかどうか決（き）めてくれ」

「私（わたし）が断（ことわ）ったらどうするんです？」

　そう聞（き）いた緋（ひ）衣（い）に、フォルテス星（せい）人（じん）は答（こた）える。

「子（こ）供（ども）達（たち）の安（あん）全（ぜん）が前（ぜん）提（てい）だ、私（わたし）が子（こ）供（ども）達（たち）を説（せっ）得（とく）する。アラハバキには逃（に）げられてしまうが……　だが安（あん）心（しん）して欲（ほ）しい、君（きみ）達（たち）は私（わたし）の力（ちから）でいつもの安（あん）全（ぜん）な生（せい）活（かつ）に戻（もど）るだけだ」

「いつもの……」

　そう呟（つぶや）いた緋（ひ）衣（い）は今（いま）、自（じ）分（ぶん）が考（かんが）えているのか迷（まよ）っているのか分（わ）からなくなった。

（出（で）来（き）る気（き）がしません。でもこれを断（ことわ）ったら、今（いま）と何（なに）も変（か）わらない……　私（わたし）は怖（こわ）い、ですが自（じ）分（ぶん）でこの事（じ）件（けん）を確（かく）認（にん）したい。私（わたし）は……）

　暫（しばら）く自（じ）問（もん）自（じ）答（とう）を繰（く）り返（かえ）した緋（ひ）衣（い）は、勇（ゆう）気（き）を出（だ）してフォルテス星（せい）人（じん）に言（い）う。

「分（わ）かりました、協（きょう）力（りょく）します」

「ありがとう少（しょう）女（じょ）よ。それでは早（さっ）速（そく）で悪（わる）いが、ロボットモドキに対（たい）抗（こう）するモノを考（かんが）えてはくれないか？　もしもの為（ため）に君（きみ）を守（まも）るモノが必（ひつ）要（よう）だ」

　そう言（い）われて緋（ひ）衣（い）は困（こま）った。

　そしてその理（り）由（ゆう）を、口（くち）に出（だ）してフォルテス星（せい）人（じん）に伝（つた）える。

「と言（い）われても私（わたし）はそのロボットモドキを知（し）りませんし、困（こま）りましたね……」

　しかし緋（ひ）衣（い）は話（はな）している最（さい）中（ちゅう）、妙（みょう）案（あん）を思（おも）い突（つ）き言（い）い直（なお）す

「……いや良（い）い考（かんが）えが有（あ）ります。でも、まず元（もと）の場（ば）所（しょ）に戻（もど）らないと！」

　フォルテス星（せい）人（じん）はその言（こと）葉（ば）を聞（き）いて言（い）う。

「なら皆（みな）が寝（ね）静（しず）まった時（とき）にまた来（こ）よう。目（め）を覚（さ）ますが良（い）い……」

　そう言（い）ってフォルテス星（せい）人（じん）が姿（すがた）を消（け）すと、緋（ひ）衣（い）は光（ひか）りに包（つつ）まれ、気（き）が付（つ）くと自（じ）分（ぶん）の部（へ）屋（や）の机（つくえ）で寝（ね）むっていた。

（夢（ゆめ）？　……いいえ、深（しん）夜（や）になれば分（わ）かる事（こと））

「とにかく、やってみましょうか」

　そう言（い）って意（い）気（き）込（ご）み、緋（ひ）衣（い）は掛（か）け時（ど）計（けい）に目（め）を向（む）ける。

（６時（じ）ぐらい、夕（ゆう）食（しょく）は大（だい）体（たい）半（はん）頃（ごろ）なので問（もん）題（だい）は無（な）いでしょう。……了（りょう）にはバカにされそうですが）

　そう思（おも）った緋（ひ）衣（い）は、足（あし）早（ばや）にリビングに向（む）かいテレビを点（つ）ける。

　そしてチャンネルを選（えら）び番（ばん）組（ぐみ）を変（か）えると、カメラを持（も）ったお下（さ）げ髪（がみ）の女（おんな）の子（こ）が、緑（みどり）髪（がみ）の男（だん）性（せい）に発（はっ）進（しん）基（き）地（ち）を教（おし）えているアニメがやっていた。

　その一（いち）連（れん）の様（よう）子（す）を、その場（ば）に居（い）合（あ）わせて見（み）ていた了（りょう）がからかう。

「何（なん）だよ緋（ひ）衣（い）。慌（あわ）ててテレビを点（つ）けたかと思（おも）ったら、そんなガキっぽいモノ見（み）んのかよ？」

　すると、そう言（い）われた緋（ひ）衣（い）が小（こ）バカにした様（よう）に了（りょう）に言（い）い返（かえ）す。

「良（い）いじゃないですか、ご飯（はん）まで時（じ）間（かん）は有（あ）りますし。子（こ）供（ども）向（む）けをガキとバカにするのは、子（こ）供（ども）の証（しょう）拠（こ）ですよ」

　緋（ひ）衣（い）の言（こと）葉（ば）を聞（き）いた了（りょう）は、一（いっ）瞬（しゅん）ムッとしたが、少（すこ）し呆（あき）れた顔（かお）をしてソファーに座（すわ）り一（いっ）緒（しょ）にテレビを見（み）始（はじ）めた。

　テレビを見（み）ながら、緋（ひ）衣（い）は夕（ゆう）食（しょく）の後（あと）の行（こう）動（どう）を考（かんが）える。

（後（あと）は小（ちい）さい子（こ）用（よう）に待（まち）合（あい）室（しつ）に置（お）いて有（あ）る、てれびくんやテレビマガジン辺（あた）りでしょうか……）　

　★★★★

【約（やく）５時（じ）間（かん）前（まえ）玄（しず）見（み）小（しょう）学（がっ）校（こう）】

　恵（めぐみ）から話（はな）しを聞（き）いた澪（みお）は、恵（めぐみ）と別（わか）れて直（す）ぐ空（あ）き教（きょう）室（しつ）で劇（げき）の小（こ）道（どう）具（ぐ）を作（つく）っている、太（たい）耀（よう）達（たち）の元（もと）へと向（む）かい様（よう）子（す）を窺（うかが）っていた。

　正（せい）確（かく）には太（たい）耀（よう）か刻（とき）代（よ）に話（はな）しかけたいのだが、話（はな）しかけられず固（かた）まっている。

　空（あ）き教（きょう）室（しつ）に居（い）るのは太（たい）耀（よう）、刻（とき）代（よ）、北（ほく）斗（と）、恵（え）理（り）花（か）、嘉（か）助（すけ）の五（ご）人（にん）。

「おい、何（なに）か様（よう）か？」

　校（こう）長（ちょう）室（しつ）から戻（もど）って来（き）た葉（よう）司（じ）に、背（はい）後（ご）から声（こえ）をかけられ澪（みお）は無（む）言（ごん）で驚（おどろ）く。

（！）

「うっうん。た……刻（とき）代（よ）ちゃんに用（よう）事（じ）が」

　澪（みお）が少（すこ）しオドオドしてそう葉（よう）司（じ）に言（い）い返（かえ）すと、葉（よう）司（じ）と澪（みお）の声（こえ）で二（ふ）人（たり）に気（き）が付（つ）いた太（たい）耀（よう）達（たち）が、二（ふ）人（たり）に目（め）を向（む）けた。

　そして太（たい）耀（よう）は澪（みお）をわざと無（む）視（し）し、葉（よう）司（じ）に話（はな）しかける。

「葉（よう）司（じ）。薫（かおる）と小（こ）太（た）郎（ろう）は？」

　澪（みお）も太（たい）耀（よう）の言（こと）葉（ば）の真（しん）意（い）を理（り）解（かい）したかの様（よう）に、太（たい）耀（よう）の言（こと）葉（ば）を意（い）に関（かん）せず刻（とき）代（よ）に近（ちか）付（づ）いて行（い）く。

「薫（かおる）は後（あと）でダンボール持（も）って来（く）る。小（こ）太（た）郎（ろう）は校（こう）長（ちょう）先（せん）生（せい）と話（はな）しが有（あ）るってさ」

　葉（よう）司（じ）の太（たい）耀（よう）への説（せつ）明（めい）が終（お）わるのを確（かく）認（にん）して、刻（とき）代（よ）は澪（みお）に言（い）う。

「今（いま）、凄（すご）く忙（いそが）しいんだけど。用（よう）事（じ）は何（なに）、澪（みお）？」

「……さっき恵（めぐみ）ちゃんから聞（き）いたんだけど、劇（げき）の代（だい）役（やく）の事（こと）どうにかならない？」

　澪（みお）のこの言（こと）葉（ば）に嘉（か）助（すけ）以（い）外（がい）の子（こ）供（ども）達（たち）は驚（おどろ）き、視（し）線（せん）を澪（みお）と刻（とき）代（よ）に向（む）ける。

　元（もと）々（もと）刻（とき）代（よ）は、恵（めぐみ）に代（だい）役（やく）頼（たの）んだ事（こと）を葉（よう）司（じ）達（たち）に話（はな）していなかった為（ため）、葉（よう）司（じ）達（たち）には話（はな）しの内（ない）容（よう）が分（わ）からず、気（き）になった事（こと）も有（あ）るが、嘉（か）助（すけ）以（い）外（がい）の五（ご）人（にん）は学（がく）年（ねん）内（ない）で身（しん）長（ちょう）の所為（せい）で目（め）立（だ）ち、内（うち）気（き）で有（ゆう）名（めい）な澪（みお）と恵（めぐみ）が二（ふた）人（り）で会（かい）話（わ）をした事（こと）、澪（みお）が恵（めぐみ）の為（ため）に行（こう）動（どう）しているで有（あ）ろう事（こと）を不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）い。

　刻（とき）代（よ）にも澪（みお）と恵（めぐみ）の行（こう）動（どう）は予（よ）想（そう）外（がい）だったらしく、刻（とき）代（よ）は少（すこ）し考（かんが）える。

（……恵（めぐみ）から聞（き）いたと言（い）う事（こと）は、私（わたし）が教（おし）えた後（あと）に恵（めぐみ）がこの子（こ）に話（はな）したのか？　澪（みお）が如何（どう）にかしてくれるとは思（おも）えないが、仲（なか）間（ま）意（い）識（しき）でも目（め）生（ば）えたか……　それとも自（じ）分（ぶん）で聞（き）いたのか、この子（こ）もこの子（こ）で話（はな）し下手（べた）で内（うち）向（む）きの癖（くせ）に、変（へん）に行（こう）動（どう）力（りょく）が有（あ）る……　面（おも）白（しろ）い）

　皆（みんな）に見（み）えない様（よう）に微（ほほ）笑（え）んだ刻（とき）代（よ）は、申（もう）し訳（わけ）なさそうな顔（かお）を作（つく）り太（たい）耀（よう）達（たち）に言（い）う。

「ごめん皆（みんな）。私（わたし）から頼（たの）んで悪（わる）いんだけど、私（わたし）明日（あした）学（がっ）校（こう）来（こ）れなくなっちゃったの。だから代（か）わりを春日（かすが）さんに頼（たの）んだんだけど」

「そう言（い）う事（こと）か。でも伏（ふし）見（み）さん、そう言（い）うのは早（はや）めに言（い）ってくれないと」

　太（たい）耀（よう）がそう刻（とき）代（よ）に言（い）い返（かえ）すと、刻（とき）代（よ）は話（はな）しを続（つづ）ける。

「ごめんなさい、でも私（わたし）も春日（かすが）さんを思（おも）っての事（こと）なの。前（まえ）にもっと自（じ）信（しん）を持（も）ちたいって言（い）ってたから、春日（かすが）さんから皆（みんな）に言（い）ってもらった方（ほう）が良（い）いかなと思（おも）って黙（だま）ってたし、頼（たの）んだんだけど……」

　すると葉（よう）司（じ）が、呆（あき）れた様（よう）子（す）で言（い）う。

「だからって、自（じ）分（ぶん）が休（やす）む事（こと）も黙（だま）ってる事（こと）はないだろう！」

「今日（きょう）の朝（あさ）、急（きゅう）に決（き）まったからどうしようか悩（なや）んだんだけど、ほら人（にん）間（げん）追（お）い詰（つ）められた方（ほう）が力（ちから）が出（で）るって言（い）うじゃない？　私（わたし）はそれで今（いま）ここに居（い）るんだし。渡（わた）辺（なべ）先（せん）生（せい）には説（せつ）明（めい）しては有（あ）るけど」

　半（はん）分（ぶん）ふざけた感（かん）じでそう言（い）った刻（とき）代（よ）に、恵（え）理（り）花（か）は諭（さと）す。

「刻（とき）代（よ）。皆（みんな）貴女（あなた）みたいな子（こ）だと思（おも）わない方（ほう）が良（い）いと思（おも）うわ」

　更（さら）に北（ほく）斗（と）も続（つづ）けて言（い）う。

「そうだよ。……でもどうしようか、話（はな）しを聞（き）いてミオッチが来（き）たって事（こと）はムリそうなんだよね？」

「別（べつ）のヤツ探（さが）すか？」

　葉（よう）司（じ）がそう言（い）うと、嘉（か）助（すけ）が答（こた）える。

「オレがやっても良（い）いけど？」

「待（ま）って！　春日（かすが）さんは受（う）けてくれたんだし、私（わたし）は春日（かすが）さんに任（まか）せたい」

　しかし刻（とき）代（よ）がそう言（い）って嘉（か）助（すけ）を止（と）め、太（たい）耀（よう）が言（い）う。

「彼（かの）女（じょ）自（じ）身（しん）が言（い）いに来（き）た訳（わけ）じゃないし、僕（ぼく）も彼（かの）女（じょ）に任（まか）せた方（ほう）が良（い）いと思（おも）う。いざとなったら僕（ぼく）がフォローする」

「でも……」　

　恵（めぐみ）に任（まか）せようとする太（たい）耀（よう）の言（こと）葉（ば）に、澪（みお）が力（ちから）なく反（はん）対（たい）すると、それに対（たい）して太（たい）耀（よう）は澪（みお）を馬（ば）鹿（か）にした様（よう）に言（い）い返（かえ）す。

「だったら、自（じ）分（ぶん）が代（か）わりをやったらどうだ澪（みお）？」

　言（い）われた澪（みお）はムッとして太（たい）耀（よう）を睨（にら）むが、反（はん）論（ろん）はしない。

（それが出（で）来（き）たら、最（さい）初（しょ）から……）

　そう心（こころ）の中（なか）で言（い）った澪（みお）を尻（しり）目（め）に、葉（よう）司（じ）が太（たい）耀（よう）に向（む）かって言（い）う。

「春日（かすが）よりしゃべらないミオッチが、出（で）来（き）る訳（わけ）ないだろう！」

　すると恵（え）理（り）花（か）も続（つづ）ける。

「だいたい天（てん）狗（ぐ）丸（まる）の衣（い）装（しょう）、澪（みお）君（くん）には大（おお）き過（す）ぎて使（つか）えないわよ。作（つく）り直（なお）してる時（じ）間（かん）は無（な）いし」

「分（わ）かってる。僕（ぼく）の言（い）いたいのは、格（かっ）好（こう）付（つ）けたいなら、自（じ）分（ぶん）が代（か）わりにやるぐらいの事（こと）は言（い）えって言（い）ってるんだよ」

　太（たい）耀（よう）に図（ず）星（ぼし）を付（つ）かれ、澪（みお）は反（はん）射（しゃ）的（てき）に怒（おこ）って言（い）い返（かえ）す。

「何（なん）だよ、自（じ）分（ぶん）がそうだからって他（た）の人（ひと）も出（で）来（き）ると思（おも）うなバカ！」

「馬（ば）鹿（か）にバカと言（い）われても、何（なん）とも思（おも）わないぞ」

　そう言（い）い返（かえ）した太（たい）耀（よう）の言（こと）葉（ば）を発（ほっ）端（たん）に、太（たい）耀（よう）と澪（みお）が口（くち）ゲンカを始（はじ）めた。

　★★★★

【木（もく）曜（よう）深（しん）夜（や）　夢（ゆめ）の世（せ）界（かい）】

「これがロボットモドキに対（たい）抗（こう）する手（しゅ）段（だん）です！」

　そう言（い）って緋（ひ）衣（い）がフォルテス星（せい）人（じん）に見（み）せたのは、眠（ねむ）る前（まえ）に手（て）に持（も）っている事（こと）で、夢（ゆめ）の世（せ）界（かい）に持（も）ち込（こ）んだてれびくんとテレビマガジンの、特（とく）撮（さつ）ヒーローのロボットの載（の）ったページ。

「コ（・）レ（・）は一（いっ）体（たい）？」

　そう言（い）って本（ほん）当（とう）に不（ふ）思（し）議（ぎ）がるフォルテス星（せい）人（じん）に、緋（ひ）衣（い）は言（い）う。

「近（きん）代（だい）兵（へい）器（き）に付（つ）いて私（わたし）は詳（くわ）しくありませんし、使（つか）える気（き）もしません。なので子（こ）供（ども）向（む）けの特（とく）撮（さつ）ロボットをお願（ねが）いします。考（かんが）えろとおっしゃったのだから出（で）来（き）ますよね」

　緋（ひ）衣（い）にそう言（い）われたフォルテス星（せい）人（じん）は、少（すこ）し困（こま）った口（く）調（ちょう）で答（こた）える。

「特（とく）……無（む）論（ろん）だ。……君（きみ）の考（かんが）えた通（とお）りのモノを用（よう）意（い）しよう」

「ありがとう御（ご）座（ざ）います。申（もう）し訳（わけ）ありませんが、一（ひと）つ御（お）願（ねが）いを聞（き）いて頂（いただ）けますか？」

　そう少（すこ）し申（もう）し訳（わけ）なさそうに尋（たず）ねた緋（ひ）衣（い）に、フォルテス星（せい）人（じん）は内（ない）心（しん）少（すこ）し困（こま）って言（い）う。

「何（なん）だ少（しょう）女（じょ）よ？」

「念（ねん）の為（ため）、薫（かおる）君（くん）やその友（とも）達（だち）以（い）外（がい）には姿（すがた）を見（み）せたくないのですが？」

　恥（は）ずかしそうにそう答（こた）えた緋（ひ）衣（い）を見（み）て、フォルテス星（せい）人（じん）は安（あん）心（しん）し頷（うなず）くと言（い）う。

「了（りょう）解（かい）した。それは此方（こちら）で何（なん）とかしよう、それより戦（たたか）いの日（ひ）が決（き）まった。悪（わる）いが明日（あした）の夕（ゆう）方（がた）５時（じ）に君（きみ）の通（かよ）う小（しょう）学（がっ）校（こう）に来（き）て来（く）れ、君（きみ）を護（まも）るモノをそこで渡（わた）す」