第17話 執念の果てに

 ルシーラがビンセントと死闘を繰り広げてるのと同時刻。


「クソが…ちょこまかと動き回りやがって…」


 キョウカは黒騎士達の動きに翻弄されていた。

 甲冑を全身に着込んでるのにも関わらず、奴等は素早い動きを見せ続けていた。


(これが帝国の精鋭ってか……冗談じゃないぜ)

 ほんの一瞬だけ隙を見せてしまったせいか、黒騎士達は三方向から別々に襲いかかる。


「これでどうだァ!!」


 瞬時に床から上に飛び上がるキョウカ、奴等の猛攻を回避しつつ一人の黒騎士の背後に回った。


「顔見せてよ〜それっ!」

「うわっ…やめろ貴様ッ!」


 そして奴の兜を強引に外し、同時にキョウカは首元を掴んでいた。


「お顔が見えた!チェックメイトだね、黒ネズミ君」


 そう言うとキョウカは奴の首を容赦なく捻り折った、即死だ。


「グハッ……」

「うっ…嘘だろ…こんな小娘の何処にそんな力が…」

「ひ、怯むな!隊長が来るまで持ちこたえるんだ!」


(…まさか、この洋館内に奴らのリーダーがいるのか…?だとしたらまずい)

 そう、キョウカは最悪の展開が頭に浮かぶ。


「なんとか無事でいてくれ…ルシーラ…!」


 ―――――――――――――――――――――


「どうした小娘!さっきからヒールしかしてないぞ!?」


 ビンセントから鋭い蹴りが飛んできた、満身創痍なルシーラが躱せるはずもなく、壁に叩きつけられる。


「ぐぁ……」


 ルシーラの体は既にボロボロであった、ダガーで何度も切られ、額から流れる血で視界も悪い。


 それでも生きていられたのは彼女のヒールの力と極限までの集中力だった。


「ヒール…まだまだ…大丈夫……」


 ルシーラは苦悶の表情を浮かべながらも冷静にヒールを唱え続ける。


「はぁ…大した根性だな、しかしその粘りもそろそろ飽きてきたぞ」


 ルシーラの執念深さに、ビンセントは忌々しそうな顔をした。

 もはや勝負と言うより一方的な暴力だった。


「ふふ…魔力が無くなるまで……私は諦めないッ!」


「もういい、次の一撃で貴様は終わりだ!」


 次の瞬間、ビンセントは異様な速さの踏み込みを見せた。

(極限まで奴を引きつけるんだ…隙がどこかにあるはず…)

 ルシーラはポケットに忍ばせていたソレを掴み、気を伺っていた。


 そして奴のフルスイングの横薙ぎが飛んでくる、それをルシーラは杖を差し込んで防御する。


「杖如きで俺のダガーが止まるかァ!!」

 なんと、そのまま力で押し切られてしまった。


「……あ…」

 致命傷は避けたものの胸部を切られてしまう、がルシーラはその瞬間に乗じて、ソレのピンを抜いて奴の目の前に落とした。


「…なんだこの光は……ぐっ!ぐわぁぁぁぁ!」


 その次の瞬間、辺りに眩い閃光と耳をつんざくような轟音が響き渡る。


 ルシーラが落としたのは閃光手榴弾だった。

(キョウカに護身用として貰ってて良かった…)


 光が晴れると超至近距離で閃光手榴弾を食らったビンセントは目を抑えながら悶えていた。


「クソ……目と耳がッ…」


 何はともあれ一発で形勢逆転だ、ルシーラは十分な距離を奴から取り、杖に魔力を再び集中させる。


「蒼き煉獄よ、姿を変質し、目の前の敵を穿ち給え…」


 ルシーラが詠唱を始めると、あの日のように彼女の頭上に火球が形成される、しかし今回はみるみる内に火球が変形していってるのだ、そうまるで竜のような姿に。


「……ドラゴンランスッ!!」


 ルシーラが叫ぶと、竜の姿に変質した炎がビンセント目掛けて襲いかかる。


「これは……油断したか…」


 ようやく視界を取り戻した奴が見たのは凄まじい魔力を持つ少女に生み出された巨大な魔法だった。

 そして竜の炎はビンセントの心臓に突き刺さった。


「ぐはっ……」


 多量の血とともに奴は床に倒れ伏した。


「これで…終わりです……」


「ふふ……見事だ…まさかあの状況から逆転してしまうなんてな…侮ってたぜ……ゴフッ……ハァ…最後にこんないい戦いが出来て……悔いは無い……」


 その言葉を最後に……ビンセントの呼吸が止まった。


「……早くレガリアスの拘束を…」


 もう殆ど魔力は残ってなかったが、僅かな量を使い、レガリアスを拘束している鎖を焼き切った。

 それと同時、ルシーラは倒れ伏した。

 今まで立っているのが不思議なくらい血を流しすぎていたのだ、慌てて駆け寄るレガリアスは傷の深さに絶句する。


「ルシーラさんっ…!そんな……この出血量…マズイです…」

 ルシーラは自分の視界が次第に霞んでいく感覚を覚えた、死が近づいているのは明白だった。


「ハァ…ハァ…レガリアス…助けられてよかった……私は…もうダメかも……」


(はぁ…このまま死んだらアイラのところに行けるんだよね……でも…新しく出来た仲間、キョウカやレガリアスさんと……もっと過ごしたかった…)


「短い間だったけど二人とも…ありが……」


 そしてその言葉を最後に、ルシーラの意識は闇に堕ちた。

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