第7話 開戦の弾丸
ハードックの屋敷を訪れた一行は応接室に通されたのだがそこにはハードックと思しき男に妙な黒い甲冑の男、それに明らかにカタギには見えないチンピラ風の男が5人も居たのだ。
(間違いない、ちょっとでも妙なマネをしたら俺らを全員消す気だな)
「初めまして、私はキョウカ、しがない旅のシスターです」
「ほぉ…君がシスター・キョウカ殿か、私はクランツ・ハードック、上級貴族の一翼を担わせて貰ってる」
一見すると礼儀正しい男に見えるがその目の奥には隠しきれないドス黒い何かがあった。
(間違いないな、こいつはかなりの人数を殺ってる)
キョウカ達はソファに座り、そこで対話が始まる。
「シスター・キョウカ殿、貴女はルイスガルで教会を開くとお聞きしているのだが」
「はい、一応ハードック様にご挨拶にと…てっきり私ごときの頼みなど断られるかと思っていたのですがまさか受け入れてくれるとは、その懐の広さに感謝申し上げます」
するとハードックは嫌な笑みを浮かべながら口を開いた。
「なんと礼儀正しいシスター殿だ、貴女程の女性なら是非とも私の屋敷に迎え入れようと思ったのだが、教会を開くという目的があるなら引き止める訳にはいきませんな」
(よし、ここで畳み掛けるか)
「屋敷に迎え入れる?もしかして町で女性を勧誘して屋敷に連れていくっていう噂は本当なのですか?」
ハードックは明らかに顔を曇らせた。
「え、ええウチの屋敷は使用人の数が少なくてね、それを補う為に町人からスカウトしてるのだよ」
「ではアイラという女性について心当たりはありませんか?私、その方を探していまして…ついでにハードック様にも尋ねようと思っていたんですよ」
核心を突く質問に対してハードックが出した答えは。
「ええ…知ってるとも、でも残念だ…彼女は昨日2階から転落して亡くなってしまったのだよ」
なんと彼女は既に死んでいるという、考えうる中でも最悪の返答だった。
しかし転落死、という死因に関しては完全に嘘だということは奴の目を見れば明らかだった。
恐らくルシーラの時と同じく、手下のチンピラを使い無理矢理屋敷に連れ込んだのだろう。
ルシーラもそれを感じ取ったのか、怒りと悲しみに震えて拳を握りしめていた、血が滲むまで。
「…お前かぁぁぁ!!ハードック!!」
しかし彼女はいきなり家族を殺したかもしれない相手を目の前にして耐えられるほど我慢強くはなかった。
自慢の杖をハードックに向けて振りかぶる、が
「フンッ!!」
「きゃっ……」
ハードックの傍らに立っていた甲冑の男がルシーラを蹴り飛ばしたのだ。
「おいおいなんてことをするんだ、ん?もしかしてお前…アイラの姉か、まさか自分から捕まりに来てくれるとはな!すぐに死んじまった妹の代わりにお前を探してたのだが捕まえる手間が省けたよ」
ハードックはまるでルシーラを嘲笑うかのようなことを口にする。
「えっ…アイラ…嘘でしょ……そんなっ……ごめん…ごめんね、お姉ちゃん…あなたのこと…助けられなかった……」
床に転がりながらルシーラは謝罪の言葉を必死に口にする。
(クソ…やっぱり耐えられなかったか…連れてきたのがマズかったか…)
「それにシスター、お前もグルなんだろ?私の命を狙うとはいい度胸だな、おいお前ら…殺れ」
ハードックがおもむろにパチンッと指を鳴らすと部屋にいた男達が一斉に腰のサーベルに手をかけた。
「キョウカさん!ど、どうするんですか!あの人たち私達のことを殺す気ですよ!」
「ちょっと黙れ」
予想外の展開に狼狽えるレガリアスだったがキョウカが強烈な圧を彼女にぶつける。
そしてハードックと周りのチンピラにも言い放つ。
「おい、お前らソレを抜くな、抜いたらもう手加減は出来ねぇぞ」
しかし格下だと思い込んでるシスターの話を聞くほど奴らは利口ではなかった。
全員、サーベルを抜いてしまったのだ。
「そうか、残念だよ」
そして鳴り響く二発の銃声。
「なッ………」
ハードックやチンピラ達から驚愕に満ちた声が上がる。
キョウカが凄まじい速さでベレッタを抜き一呼吸で二人の眉間を撃ち抜いたのだ。
「ならお前らは最速で地獄に送ってやる、今まで殺してきた女性に詫びながら死んでいけ、仁義外れ共が」
そしてここから、元極道の大殺人劇が幕を開ける。
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