【書籍化】俺ん家が女子の溜まり場になっている件
雨音恵
プロローグ
「お湯加減はどうですか、陣平君? 熱くないですか?」
俺───
十数年ぶりに再会した幼馴染の名前は
そんな幼馴染とどうして俺は一緒にお風呂に入っているのか。もしかして夢でも見ているのかと、もう何度目になるかもわからない自問自答をしながら俺は努めて冷静に質問に答える。
「だ、大丈夫……ちょうどいい熱さだよ。ありがとう、環奈」
「よかったです。それなら次は身体を洗っていきますね」
いや、ダメに決まっているだろう。そう口にしたいのに何故か言葉が出てこないのは、環奈が鼻歌を歌いながら楽しそうにボディソープを泡立てているせいだ。
「こうして陣平君とお風呂に入ると子供の頃を思い出しますね。昔はよく身体の洗いっことかしましたよね」
「確かにそんなこともあったなぁ……」
そうは言ってもそれは小学生になる前の話。高校生の俺達がこういうことをするのは絶対におかしい。理性とは裏腹に俺の中の思春期男子君が盛大なガッツポーズをしていたとしてもだ。
「そう言えば最近知り合いから聞いた話なんですが、リラクゼーションの一つに洗体エステなるものがあるらしいんですよ」
「…………はい?」
「あれ、もしかしてご存知ないんですか? 女性がモコモコの泡をまとって全身を洗いながらマッサージをするというもので、一度は受けてみたい男の夢だとその人は話していましたよ?」
「よし、今すぐ風呂から上がってその人に電話をしよう。幼馴染になんてことを吹き込んでくれやがったんだって説教してやる」
このままいくと〝説教と書いて感謝と読む〟なんてことになりかねない。そして俺がアホなことを考えている間に環奈の準備は整ってしまったようで。
「さて。それではそろそろ洗体プレイを始めていきますね」
「プレイって言ったな!? まさかそれも知り合いさんから吹き込まれたのか!?」
「フフッ。それはどうでしょう? あっ、始める前にちょっとだけ失礼しますね」
するりと衣擦れの音がしたので何をする気だと尋ねるよりも早く俺の視界はブラックアウトする。どうやら頭からタオルを被せられたようだが、そこはかとなく人肌のぬくもりを感じるのは気のせいだろうか。
「鏡越しとは言え、さすがに私も裸を見られるのはまだ恥ずかしいので、目隠しだけはさせてもらいますね」
えへへと恥ずかしそうにする環奈。そもそも風呂場に入って来た時点でバスタオルを巻いているだけで裸同然の格好だったのだがそれはいいのだろうか。
「俺としては言っていることとやっていることがチグハグなところを自覚してほしいけどね?」
「安心してください。やり方はバッチリ教えてもらったのでちゃんと気持ちよくしてあげますから。天にも昇る快感を身体に刻んであ・げ・る」
「語尾にハートマークがつくような言い方をするな! そんな約束はいらないからな!? あと悪いことは言わないからその知り合いさんとは今すぐ縁を切りなさい!」
一体これからナニをするつもりなんだと期待する自分を押し殺す。理性を手放して身も心も環奈に委ねるのは簡単だし一番楽なのだが、それをした瞬間に俺の人生に終了のホイッスルが鳴る。
何故ならこの家には俺と環奈以外にも人がいるからだ。しかも女の子で世間に名の知れた有名人というおまけ付き。もし彼女達がこの場に現れたら───
「───ちょっと環奈。抜け駆けはよくないんじゃないかな?」
「───同盟の条約違反。許されない行為」
噂をすれば影とはよく言ったものだ。俺の思考が電波となって二人に届いてしまったのかとすら疑いたくなるジャストタイミングでの乱入に頭痛を覚える。どうして水着姿なのかとツッコミを入れるのは負けな気がする。
「どうして浅桜さんと笹月さんがここにいるんですか!? というか水着を着ているのはおかしくないですか!?」
環奈が俺の疑問を代弁するかのように抗議の声を上げるも、二人は一切動じることなく正論で殴り返す。
「いやいや。裸に泡を纏って洗体プレイを始めようとしている人が何を言ってもブーメランにしかならないからね?」
呆れた顔で至極当然の指摘をするのは
「あなたのしていることは公序良俗に反している。つまりギルティ。可及的速やかに五木から離れるべき」
頬を膨らませて憤慨している方は
「
「だもん、じゃない。そういうことは自分がどんな姿をしているか見てから言おうね?」
「勢いに任せて既成事実は作らせない」
大して広くない風呂場だが、我が家の中で数少ない静かで落ち着ける場所でバチバチと火花を散らす美女三人。
「日ごろからお世話になっている陣平君を私なりに労っているだけだから邪魔しないでください!」
「裸ですることないよねって話だよ!? 水着を着てやるとか、マッサージならベッドの上とか色々やりようはあると思うけど!?」
「五木、寒いよね? 私と一緒に湯船に浸かろう」
言い争いをする二人の間をスルスルッと抜けて移動してきた笹月が俺の手を引いて浴槽へと誘導する。
「「抜け駆けするな!!」」
「……ッチ。バレたか」
ピッタリと声を揃えて環奈と浅桜に怒られて不満そうに舌打ちをする笹月。そしてまた三つ巴の争いが再開する。
「ホント、どうしてこんなことになったんだろうな……」
俺は独り言ちながら今日までの激動の日々を思い出す。
時を遡ることおよそ一ヶ月半前の三月。中学最後の春休みを満喫していた俺の元に届いた進学予定の高校が廃校になったとの知らせが届いた。
この耳を疑いたくなる悲報が全ての始まりだった。
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【あとがき】
初めまして、あるいはお久しぶりです。四年ぶりに帰ってきました!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
話が面白いと思って頂けましたら、モチベーションにもなりますので、
作品フォローや評価(下にある☆☆☆)、いいねをして頂けると泣いて喜びます。
引き続き本作をよろしくお願いいたします。
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