裏切り者に祝砲を
中川葉子
祝砲
「ねえ、言い残したことは?」
腰を下ろし、両手を上げ、頭を下げる俺に仲間だった魔法使いが冷たい声で言い放つ。
「ああ、何もないよ」
仲間を裏切り、魔王側として戦列に加わったのは事実だ。何もない。ただの裏切りものだ。
「じゃあ、このまま魔法を撃っていいのね?」
冷酷で殺気を孕んだ声が俺に向けられるなんて思っていなかった。ああそうだ。
「最後に葉巻を吸わせてくれ。で、できるなら吸っている最中に撃ち抜いて欲しい。その後、馬鹿な奴が死んだぜって、空に向けて同じ魔法を撃って欲しい。馬鹿が死んだ祝砲だ」
「手を動かさないこと。葉巻を咥えさせてあげる。火の魔法でつけてあげるわ。存分に吸いなさい」
葉巻の煙を口内で燻らせる。じっくりと時間をかけて。どうせ死ぬんだから。
頭に強い衝撃が襲う。おそらく雷系の魔法だ。だが、俺は死んでいない。意識もある。
俺は驚き振り返った。魔法使いは泣きそうな顔で俺の顔に黒い花を投げつける。
そして。爆ぜた。
「本当に馬鹿な男ね。言い逃れなんてできたでしょう。あなたの望み通り祝砲……。悲しみの柱を天に向かって放つわ」
魔法使いの精神力が切れるまで、いや、限界まで地から空に雷が上がったという。
魔法使いが発見される頃には、顔が焼けた正体不明の焼死体と魔法使いの亡骸が重なり合っていたという。
裏切り者に祝砲を 中川葉子 @tyusensiva
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます