少女化した魔王、亡国と呼ばれた魔王国を再建します

柏陽シャル

第1話 魔王少女化

 「我が配下達よ、この世界を我々のものにしようではないか!」

 私は椅子の上に立って手を大きく前に出しながらそういった。

 「あのーゼノア様、そう言うのは何なんですがこのボロボロ魔王城を復興するまでは動けないかと…」

 そう言う配下の言葉に反応したのか城の屋根が崩れ落ちる、ただでさえ綺麗な青空の光が入っていると言うのに更に光を差し込んでどうすると言うのだ………

 はあ、どうしてこうなったのだ!



 事の発端は数日前の出来事から始まる。

 あの日、私は何時ものように魔王として民の為の執務をこなすために朝早く起きていた。

 「んー、相変わらず朝は苦手だな…吸血鬼の奴等とは違うんだがなあ」

 ベッドから起きようとすると何か違和感を感じた。これは、身体の違和感ではなく目に見てわかる違和感だ。そう視線が低かった。

「一体何が?」

 私は手の平を広げ力を入れる、何時もより手が小さい事に気付いた。幼い頃の自分そっくりな手だ。変わらない不器用な手にそっくり…

 「嫌な予感がするな…」

 私は起き上がり近くの鏡を見る。

 私の嫌な予想は当たっていた。それは、自分の体が小さくなっていた。小さいとは言えど幼女と言われるものではなく少女と言われるものだろう。だが、成人体型の私にとっては若くなった喜びより年を取っているという実感が湧いてくる。誠に遺憾だ。

 年を取るとは辛辣なものだな。はあ、こんな姿でどうやって配下達に会うものか…そもそも彼奴等はこの姿を見てまず何を思うか。

 この世界…というよりは私の国だけだろうが下剋上が当たり前だ。それはそうだろう魔族というのは強者を好み戦闘を好む、だから野蛮民とも呼ばれるのだが。

 上が強くないと分かれば自分が上に立とうとするこの姿勢は悪くはないものだ。何故なら何時までも怖気付いて出て来ない上より優先的に出る上の方が優秀だ。使い勝手がいいからな。

 と、言うように私が小さくなれば力は劣るだろうと思い下剋上を始めるものが多数出てくるだろうな。

 無論、そんな事を考える不届き者には制裁を加えるが…今の私はどれほどの力を使えるのだろうか。

 私は試しに下級魔法を使ってみる事にした。

「【ウィンエリア】」

 すると下級魔法の威力とは桁違いの風域が発生した。炎でやらなくて良かったな…しかし、これは元の姿と同じ強さだな。これで上級魔法を使っていたら今頃この魔王城は燃え尽きているか。

 私は発生した風域によりボサボサになった髪をとかしながら自分の姿をじっくり見る。

 本当に幼いな、父が生きていた頃ぐらいか?肌はスベスベだし目もしっかり開く目つきが悪かった昨日の私が居ないみたいだ。にしても、足は早いのか?服はどうするか…ひとまずは魔法で作るしか無いか。

 「【リサイオン】」

 私は昨日まで着ていた服をある程度の量、自分の今の姿に合わせて変えてみる。

うむ、サイズはピッタリだな。

 私は扉を開けて広間へと急ぐ、勿論人は居ない。何故なら私は何時も誰よりも早く起きているのだからな!

 椅子に座ると小さいのが目立つのが分かる。何故かムカつくな。いや、誰も居ないのだが。

 そうすると、目の前の大きな扉が開いた。

 「おや、魔王様。今日もとてもお早いようで」

「あ、あぁ…………何も思わないのか?」

「はて…?何のことでしょうか。ですが、そうですねえ何時もより魔王様が幼稚に見えますね」

「思ってるじゃないか!何時もそうだなジャオルは」

「フォッフォッフォッ、何時もまでも若く居たいものですから御冗談ですよ」

 目の前にいる爺さんはジャオルと言い、この魔王城に古くから仕えている者だ。

 私が幼くなっていてもジャオルが変わらず接してくれる事に少し安堵した。

 「いや、ですからですね?ゼノア様は素晴らしい御心と可愛らしいお姿をですね…」

「俺は、お前がこえーよ」

 扉の奥から聞こえる馴染みのある声に危機感を覚える…これは、最悪のタイミングだ。

 私は声が聞こえた瞬間、ジャオルに視線を送るがジャオルは首を横に振り申し訳無さそうな顔をした。そうじゃないか、立場は彼奴のほうが上なんだった………

 キィィィと鳴り響く扉の音に私は唾を飲み込んだ。

 「ゼノア様!このルーセス、ゼノア様の為に朝から近くの基地をこうりゃ……く、」

「ん?どうしたルーセ…ス…」

 くそ、目があってしまった。

 「あぁぁぁぁ!とても可愛らしいお姿!ゼノア様は少女になっても可愛らしいのですね、やはり我等が魔王様は素晴らしき御方ッ!」

「おいおい、ゼノア様その姿どうしたんっすか。何か変な薬でも?」

「いや、そう言う訳ではないんだ。朝起きたらこうなっててな」

「気の毒っすね」

 慰めるのはゾル。チャラい感じはするが、人の話はまともに聞くし頭も悪くはない魔法や剣の腕も良く言わば、代表的な見本だろう。

 そして、その見本の隣で崩れ落ちているのはルーセス、五大将軍の将軍の一人だ。力は勿論、知識もある。五大将軍の中では最も強いと言っても良いだろう。五大将軍は魔王の次に偉く、魔王を補佐する役目を持っている。それだけではなく前線で部隊を指揮したりするのも五大将軍の役目だ。

 私はルーセスは苦手ではない…苦手ではないのだが、正直怖いという感情は彼に抱いている。何故なら彼は私を見るなり鼻血を出すわ、倒れるわ、私が何かしたのではないかと思っているのだがそれとなくルーセスの周りにいる奴等に聞くと「魔王様は気にしなくていいんですよ」と揃って言うのだ。

 「くっ、ひとまずゼノア様はもう少し休まれて下さい。体が幼いと不便でしょうし後から他のものも来ますので」

「いや、お前等に全て託すわけには…」

「…ですが魔王様、最近睡眠をあまり取ってはいないではないですか。朝早くからいらっしゃるのに夜遅くまで執務をするとなると我々も不安になります」

「そ、そうか。すまなかったな」

 ルーセスの言葉に賛成するジャオルは正論を私にぶちかましてくる。言い返せないのが辛いな。

 お前等に会うのが不安だった自分が情けなく思えてくる。

 そうだな、お前等はいつも私のことを考えていてくれたな。下剋上されるのではと思っていた自分が恥ずかしく思うよ。

 「ん?」

私は違和感を感じた、小さな振動を感じたのだ。

「魔王様一体どうされたんですか?」

「いや、何でも無い……気のせいか?」

………いや、これは気の所為ではない。

 「お前等!今すぐ姿勢を低くしろ!そしてシールドを張るんだ!」

「え!?な、何ですか!」

「分かりました。ゼノア様!」

私の言葉の後にすぐさま『それ』はきた。大きな爆発音と共に魔王城は崩れ落ちた。

 あぁ、何て不幸なんだろうか。体は小さくなり、そして仲間を大事な家族を守れなかった自分は魔王失格だろう。

 意識が遠退くのを感じながら私は目を閉じた。


 「ゼノア様!」

「魔王様!」

「戻ってきて下さいよ、魔王様ぁ」

「起きて下さいゼノア様、我々魔族は貴方様が居ないと駄目なんですよ……」

「ゼー様!」

 聞き覚えのある声たちだな。

 そっと体を起こすと頭痛が私を襲った。うぐぐ、幼くなってから体が弱くなったような気がするな。体調面で弱くなっている。

 「良かった、ゼノア様ぁ」

泣きながら私の手を握るルーセスがいた。ずっとこうしてくれていたのか…だから寝ているときも暖かかったのか。

 「すまない、心配をかけたな」

「とんでもございません!魔王様がご無事で良かったです」

 私にお粥を出すのはテミユだった。

 彼女は五大将軍の中では一番幼い者だ。少女でありながら前から私を支えてくれている優しい心の持ち主だ。

 前まで私のほうが年上だったのに今じゃ同じぐらいだ。

 「ですがゼー様、ゼー様の寝室は安全でしたが魔王城の殆どが全壊です」

「…それは誠か、保護魔法をかけておけば良かったな」

「いえいえ、我々一同もあの振動に気付いていなかったのが悪かったですし」

 私を愛称で呼ぶのはサバル。彼は五大将軍の一人で一番年上だ。成人の私よりも年上だった。お父さんのような感じだった、今の私にとっては更にお父さん感が増すものだ。

 「ゼノア様、それと領地が取られました」

「何だと!?それはホントかカイレス!」

「はい。私の調べだと国境近くの領地が取られました。取られたと言うより下剋上ですね、裏切りです」

「予想はしてたが、情報が早いな」

「魔王城にも魔王様が気に要らないやつも居ましたから」

 カイレスは五大将軍の中で最も知識がある者だ。カイレスは良くメガネを上げなら喋るのが癖で常に本を持っている。

 にしても、領地が敵国に渡ったのは厄介だな。

 「そうだ、ジェディはどうした?」

「ジェディですか?彼は国境近くの領地を持っているので隣の領地を取り戻す為、戦時中です」

 ジェディは五大将軍の一人で戦場を好む。言わば戦闘狂と呼ばれるものだ、彼とは良く手合わせしたな、最近は忙しくて手合わせをしていなかったが今はどれほどの実力になっているのだろうか。

 「分かった。ならば、此方でも動こうではないか」

「ですが!」

「まあひとまずは私に任せろ。魔王城に居る者を全て呼び出せ」

「…はっ!」

敬礼をするルーセスはそそくさと人を呼び集める。

 私はその間に広間に移動し椅子に座る。

 目の前には明るい光が差し込んでいた。光と言ってもこれは照明によるものではなく直射日光だ。

 ボロボロ魔王城を見ながら私は溜め息を吐いた。

 そして、広間に全ての者が集まり私は声を出す。



 ………と、言う事があった。

 「ゼノア様、魔王城の復興はどうしますか」

「それなら宛はある」

「それは一体…」

「我々には友好国があっただろう?彼処ならこの城を直すことを受け入れてくれるだろう」

「友好国………彼処っすか」

 私の言葉にげっと言うような顔を返すゾイに私は苦笑を返す。

 相変わらずお前は彼処が苦手だな。まあ、あの場所ではなくあの人が苦手なのかもしれんがな。

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