焼き芋ロワイヤル
鳥尾巻
食うか食われるか
男子高2年の3人組、『健康促進部』の部長マシロ、副部長のタクマ、部員のトオルは、駅までの道を歩いていた。健康促進とは名ばかりの自堕落な部だが、その日はテスト期間ということもあって活動もなく、マシロの家に集まり勉強会をする予定だった。
秋の深まりとともに、風は冷たさを増し、舞い落ちる
「ギンナンて美味いよな~」
タクマは自分の金髪に似た色の落ち葉を踏み締めながら、ほくほく顔で2人に同意を求める。もちろん並木に臭いの強い実をつける木は使っていないが、葉の形から連想したのだろう。
マシロは黒縁眼鏡を押さえ、細い目をさらに細めた。
「あんま好きやないな」
「僕も苦手。茶碗蒸しに入ってると絶望する」
トオルも同意しかねるようで、神経質そうな仕草で茶色の天パをかき上げる。
いかつい見た目によらず繊細なタクマはショックを受けた顔で両手を握りしめ、焼芋の如き上腕二頭筋をむきぃっと盛り上げる。筋トレが趣味のこの男は、マシロによって各部位の筋肉に、食べ物の名前を与えられていた。
「なんかタクちんの筋肉見てたら焼芋食いたくなってきたわ」
「なんでだよ!」
「この膨らみサツマイモみたいじゃね?」
マシロがぺちぺちと上腕二頭筋を叩いて笑っていると、そのすぐ隣を紺のブレザー姿の女子高生数人が通り過ぎて行く。女子の集団にありがちな華やいだ空気に慣れていない3人は、ふざけるのをやめてその行方を見守る。
「……女子の集団て、ええ匂いするな」
「タクちん、発言が変態っぽい」
「そうだ。あれは柔軟剤や制汗剤の匂いだぞ」
「夢くらい見させてくれんかの……」
「なんで急におじいちゃん?」
ぼそぼそと小突き合っている間も、彼女たちの行方を目で追っていると、女子高生たちは、ある一軒の店に吸い込まれていった。
黄色と紫のドット柄、カラフルでポップな看板には『Moi Sweets』と書いてある。どうやらサツマイモスイーツの専門店らしいが、素朴な男子高校生が迂闊に近寄れば致命傷を負いかねないお洒落な外観である。
しかし、マシロは果敢にも言った。
「俺たちも行ってみる?ちょうど芋食べたかったし」
「ん~。たしかに腹も減ったな」
「え?大丈夫?俺たち入った途端通報されない?」
ただ道を歩いているだけで職質されることの多いタクマは、怯えたように2人を見る。何度も繰り返すが、彼はナイーブな男なのである。
マシロとトオルは顔を見合わせて、タクマとお洒落な店を見比べる。ガラス張りの店内には女性の姿しか見えない。被害妄想にも等しい発言だが、好奇の視線と
「さすがにそれはないと思うけど……」
「まあ、ハードルが高いのは事実だよね」
「ほらな?野郎だけで入るのは勇気が要るやろ?」
「タクちん、トオル、怖気づくな。これは芋を食うか雰囲気に食われるかの戦いやぞ」
話を大きくしたがるマシロが混ぜっ返すので、話が大袈裟になってきた。3人が再び額を寄せ合って、ああでもないこうでもないと言い合っていると、後ろから声を掛ける者がいた。
「にいちゃんたち、うちの店はどうや?」
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