5.見習い天使と失翼の使い
「エインさーん! 待ってくださいよー!」
「そもそも、なんであなたがこんな所に居るのよ!」
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「
いつもの登校ルート。たまたま学園長の親族である
「ええ、おはよう。
さくらへと会釈する
昨日のこと。
人間の体で天使の
アンジュのような見習い天使ですら、疲れを感じることもない量ではあるが、今の
「
「物騒ですね……。何かあったのでしょうか」
問われた
「さてね。ただの工事なんじゃない。物騒では……あるかもしれないけれどね」
実際の所天使たちには、人間界で戦闘行為を行った場合、その後処理までを担うという義務がある。
だが、今回の戦闘によって生まれた損害は軽微なもので、わざわざ
「あっ、そういえば」
と言った
「お母様が仰っていました。
それを聞いた
「あ、あぁ、そうなのね。まぁ良い所だし、すぐ馴染めるんじゃ」
「その転校生さん、黒いスーツの若い男性と一緒に来られたらしくて。元気が有り余って良い子だったそうです」
「は?」
「あと、
“不幸だ”と
「あら、お知り合いなのですか?」
「い、いえ。そういうわけでもないわ」
「そうなのですか」
「はぁ……」
人間の世界へ堕ちてから、彼女はため息をつきっぱなしだ。
「お願いだから、面倒事にはならないでよね……」
呆れたような悲しいような、そんな表情を浮かべていた。
そして──そんな
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「今日から転校してきました! アンジュ・ド・ルミエールです! よろしくお願いします!」
朝の教室に大きな声が響く。子供のようなテンションではあるが、その突き抜けるような明るさを見て、「悪い子じゃなさそう」といった小声が、
そんな
「あ! エインさーん!」
にっこりと笑いながら
「あら、エインさんの知り合いなのね。彼女の後ろの席が空いてるからそこに座りなさい」
はーい、と言い、アンジュが
「エインさん、よろしくお願いしますね!」
「……はぁ」
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・
「
「二人は友達?」
「どこから来たの?」
こんなことをアンジュは周りの人間から質問されていたが、彼女はそれに対する返答を持ち合わせていない。というより、答えられない。
彼女は一応、表向きは“海外から来た帰国少女”という体で転校したきた生徒というものだったが、それすらなるべく伝えるな、と言われていたのだ。
うーん、と返答に悩むアンジュを横目に、
だが、それをアンジュ・ド・ルミエールが見逃すはずもなく。
「あ! 皆さんすみません。少し用事があるので失礼しますね!」
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「一体何なのよ……こんな所まで来て」
「えーと」
と、少し言いよどみながら、アンジュは気だるそうに髪をいじる元天使へ、こう言った。
「少し前に、指令が出たので、悪魔を倒すのを手伝ってください!」
豪快にお辞儀をする見習い天使。困惑する失翼の使い。
「……どうせ三級悪魔でしょ? ならあなただけでも」
そう言われたアンジュは赤色の髪の頭を上げ、彼女にこう伝えた。
「実は……二級悪魔が出たそうなんです。しかも相当厄介な」
「二級悪魔ですって?」
「はい。人の“ある”欲望を食らうそうで、即時討伐命令が出て……」
それを聞いた天束エインは、顎に手を当てて少し思考を巡らせた。
「何を食らうの?」
「人間の“食欲”……です」
また厄介事か、とでも言いたげな顔で、
──時は少し流れ、放課後。授業が終わるやいなや、
以前少年の幽霊を浄化し、悪魔を滅した場所だ。その戦いで発生した橋の傷を直している重機の音が聞こえてくる。
「最初に言っておくけど、これはあなたに協力するわけじゃない。私には私の目的があるから。でも、悪魔が出たというのなら放っておくことはできない」
「だから教えて、そいつの特徴を」
「は、はい」
赤髪の見習い天使は、ポケットから小型の携帯端末を取り出した。彼女が少しその端末を操作すると、空中に悪魔のデータが投影される。
「“アペティット”……か。人の食欲を食らい、自らのエネルギーへ変換する二級悪魔……ね」
悪魔は厳密に言えば……生物ではない。しかし生物同様、何か栄養を摂取しなければ、その体は朽ちてしまう。
そして奴らが食らうようになったのが、無限に湧いてきて、世界が存在する限り決して尽きることのないエサ……。人間の欲望だった。
「アンジュ、人間の三大欲求について知ってる?」
唐突に名前を呼ばれた見習い天使は驚きつつも、
「え、えぇと、睡眠と……何でしたっけ」
「睡眠欲。食欲。そして性欲。これらは人間達の持つ根源的な欲求。学院で習わなかったのかしら?」
「習ったかもしれません……」
「良い? 食欲というのは純粋な欲望。それでいて、人間が生きるうえで、絶対に尽きることがない欲望。奴らのエサとしてはこれ以上適格なものはないぐらい」
ふぅ、と息を吐いた後に、彼女はこう言った。
「見つけるのが遅れるほど奴は力を蓄える……。手遅れになる前に急がないと。行くわよ」
銀髪の天使がそう言って立ち上がると、赤髪の天使も後に続く。
「でも、あてはあるんですか?」
「まぁ、何となくは。人間の食欲が集まりそうな場所へ行けば良い、ってことだしね」
そうして話す二人の天使を──暗い物陰から、ある二級悪魔の“影”が見ていた。彼女たちを──いかにして罠に嵌め、食らってやるのかを考えるために。
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