23.幹部会議
「──集まったようですね」
緑の楽園の地下にある会議室。
現在ここに五名の人物が集っていた。
赤の代表、スカーレット。
青の代表、アクア。
緑の代表、ライム。
そしてノエルとグレンである。
五人は円形の机を囲み、これから会議を始めようとしていた。
「時は満ちた。俺達の楽園は、ついに真の楽園となる」
グレンが万感の思いを言葉にした。
彼の頭にあるのは、これまで駆け抜けた日々。
真実を求め、ひた走り、そしてついに希望の光を手に入れた。
「……いいえ、少し違います」
その発言をしたノエルの元に視線が集まる。
「逆に聞きたいのですが、なぜ、楽園という言葉に拘るのでしょうか。これは皆様を家畜と称した連中が付けた名前なのですよ」
グレンとスカーレットは俯いた。
アクアとライムにも反論する気配は無い。
「グレイ・キャンバス」
ノエルが新たな組織の名前を告げた。
「我らが主、イロハ様がお考えになった名前です」
「な、なんと素晴らしい……」
グレンが言う。
「灰色。これは白と黒の中間に位置している。即ち、魔族の象徴である黒、また聖女の象徴である白、これまでは決して交わることの無かった二者が手に取り合うことを意味している。そしてキャンバス。イロハ様が新たな世界を描く為に、我々を手足として活用してくださることを意味している!」
「……ふふっ、その通りですわ」
その様子を見て、スカーレットは呆れたような笑みを浮かべた。
彼女は思う。兄さん、大丈夫かな。まあでも、イーロン……じゃなくて、イロハに名前を変えたのかな? とにかく、イロハさんは強くて優しいから、心酔したくなる気持ちも分からなくもない。彼の為に働けるなら、それは嬉しいことだ。活躍すれば彼と話す機会も増えて、もっと……って、バカ、今は大事な会議の時間よ。
彼女は無言のまま頬を染める。
その右隣に座るアクアは、修道女のように手を握り絞め、ただひたすら生命の真理について考えていた。
「聖女さんはどうして協力してくれるのかな」
最初に声を出したのは、唯一冷静なライムだった。
「イロハ様がそれを望むからです」
「ごめん、分かんない。君は聖女だから、外の国では重宝されてるはずだよね」
「……そうですね。まずは、情報共有から始めることにしましょう」
その言葉で場が引き締まる。
まずはノエルが自分について説明した。
幼い頃にイロハと出会ったこと。
その後、盗賊に襲われ、聖女の力に目覚めたこと。王室で厳しい修行を受ける傍ら、真実を知り、親しかったメイドに惨い仕打ちをされたこと。
「……わたくしには帰る場所などありません。しかし生きる理由を得ました。ただ、ひたすらに、イロハ様に尽くすこと。いつの日か彼の瞳に映る世界に辿り着くこと。それだけが、わたくしの望みなのですわ」
「そっか」
ライムは一言だけ返事をした。
グレンとスカーレットは仲良くノエルに同情し、瞳を潤ませているが、ライムだけは違う。彼女は極めて冷静に、そして客観的に、情報を整理していた。
「じゃあ、次はライムさんの番だね。楽園については省略するよ。まずは、ゼクスを拷問して得た情報を共有しようかな」
「拷問したんだ……」
スカーレットが怯えた様子で肩を抱いた。
彼女は楽園で最も高い戦闘能力を持つが、痛々しい光景は苦手なのだ。このため、敵と戦闘する時には、相手を跡形も無く爆破することを心掛けている。
「内側の敵は、ウリナキテゴ魔導国。長いから魔導国にするけど、名前の通り、魔力を使って世界を導こうとしているらしいよ。どこに導くのかは教えてくれなかった。でも、どうせ酷いことなんだろうね。ライムさん達のこと家畜呼ばわりだし」
ライムは不愉快そうに言った。
彼女は周囲から研究にしか興味が無いと思われているが、実は仲間を大切に思っている。自分に与えられる痛みは大歓迎だが、仲間に向けられる悪意などは許せない。
「魔導国について、他に分かったことは?」
ノエルが質問した。
「特に優れた七人だけが、ウリナテキゴを名乗ることを許されているそうだよ。名称はセブンス。そのまんまだね。ゼクスは本名じゃない。七番目を意味する言葉なんだってさ。イロハ様は楽勝だったけど、多分、彼はスカーレットよりも強い」
ノエルとスカーレットは、その言葉が意味することを理解して俯いた。
現状、イロハ以外の者が「セブンス」と戦闘になった場合、敗北する。
「他の情報はありますか?」
「無いよ。終わり」
「そうですか……」
ノエルは口元に手を当て、思考する。
(……足りないですわね)
現状、世界には二つの大きな組織がある。
ムッチッチ王国、そしてウリナテキゴ魔導国。
二国間には「楽園」に関する約束事があった。
しかしノエルは知っている。ムッチッチ王国は、これを破ろうとしている。
また、魔導国にも独自の目的がある。
その為に「賢い者」を集めており、ノエルの拉致を試みた。
現状、グレイ・キャンバスは蚊帳の外だ。
舞台に上がる為には、もっと情報を集める必要がある。
「イロハさんは何か知らないの?」
ライムが問いかけた。
ノエルは微かに笑みを浮かべ、首を横に振る。
「彼は全てを知っている。しかし、わたくしに何も話さない」
ノエルは四人の目を順番に見た。
「我々はグレイ・キャンバス。イロハ様の手足となるには、まだまだ力不足」
「なるほど。自力で情報を得られるレベルを求められているのか」
「ええ、それが彼の望みですわ。ならば、わたくしは全力で期待に応えるまで」
グレンは話を理解して頷いた。
「なるほど。ならば俺も強くなろう。この命に代えても」
スカーレットも兄の言葉に続く。
「そうね。あたしも、彼に一撃当てられるくらいにはならなくっちゃ」
アクアは言う。
「全ては、主様が教えてくれた生命の真理へと繋がるってわけ」
ライムは以前までと違うアクアの様子を見て、微かに困惑しながら言った。
「ライムさんも、そろそろ攻撃手段を得なきゃダメだよね」
五人は、それぞれの目指すべき場所を定めた。
これより「グレイ・キャンバス」は、第三の勢力として活動することになる。
全ては覇王イロハが望む世界を手に入れる為に。
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